【交通事故㉙】「損益相殺」ってなに?

「損益相殺」とは何ですか?
損益相殺とは、被害者またはその相続人が事故に起因して何らかの利益を得た場合、その利益が損害の填補であることが明らかであるときは、損害賠償額から控除するということです。

損益相殺の対象になるのは、受領済の自賠責損害賠償額各種社会保険給付などです。

各種社会保険給付とは、例えば、遺族年金、障害年金、傷病手当金などです。

なお、控除が認められる場合にも同一の損害項目からのみ控除が認められます

そのため、たとえば、労災保険法による休業補償給付及び傷病補償年金並びに厚生年金保険法による障害年金によって補填される損害は、財産的損害のうち消極損害(逸失利益)のみであって、これらの給付額を財産的損害のうちの積極損害および精神的損害(慰謝料)との関係で控除することは許されないとされています(最高裁昭和62年7月10日判決)。

また、支給が確定していない場合には、控除は認められません

そのため、たとえば、地方公務員等共済組合法による退職年金を受給していた者が死亡した場合、支給を受けることが確定した遺族年金の額の限度で、受給権者の損害額からこれを控除すべきものであるが、いまだ支給を受けることが確定していない遺族年金の額についてまで損害額から控除することを要しないとされています(最高裁平成5年3月24日判決、東京地裁平成7年11月4日判決、大阪地裁平成7年8月25日判決、神戸地裁平成10年11月5日判決)。

これに対し、損益相殺の対象とされていないものとして、搭乗者傷害保険金(最高裁平成7年1月30日判決)生命保険金(最高裁昭和39年9月25日判決)、労災保険上の特別支給金(最高裁平成8年2月23日判決)、傷病特別年金(東京地裁昭和61年11月11日判決)、障害特別年金障害特別年金差額一時金(大阪地裁平成3年1月17日判決)、遺族特別年金遺族特別一時金遺族特別支給金(東京地裁昭和61年2月28日判決、京都地裁平成12年3月23日判決、東京地裁平成12年3月31日判決)、生活保護法による扶助費失業保険金(東京地裁昭和47年8月28日判決)、税金(最高裁昭和45年7月24日判決)などがあります。

この他、裁判例を見ますと、所得補償保険契約に基づき給付された休業補償の損益相殺を認めた例(最高裁平成元年1月19日判決)、傷害保険の災害入院給付金について損益相殺を否定した例(京都地裁昭和56年3月18日判決)などがあります。