お知らせ【フランチャイズ契約㉙】第三者に対するフランチャイザーの賠償責任

第三者に対するフランチャイザーの賠償責任について教えて下さい。

1.まず、フランチャイザーとフランチャイジーとはそれぞれ別個の行為主体であるため、フランチャイジーの取引や行為によって生じる責任はフランチャイジーが負担するのが原則です。

 しかし、相手方からすれば、それがフランチャイザーの直営店なのかフランチャイジーの填補なのかは外見上よくわからないことが多いと思います。

 そこで、行為や店舗の外観を信じて被害を被った相手方や消費者に対してフランチャイザーが賠償責任を負うか否かが裁判で争われることがあります。

 通常のフランチャイズ契約書には、フランチャイジーは独立の事業者である旨を規定していることから、フランチャイジーの行為により第三者に損害が生じても、一切フランチャイザーは責任を負わないと考えている方もいるのではないでしょうか。

 しかし、そのような認識はとても危険です。フランチャイザーは、まずはこの点を十分に理解する必要があります。

2.フランチャイザーが賠償責任を問われる理由としては、名板貸人としての責任(商法14条)、共同不法行為責任(民法719条)、使用者責任(民法715条)が考えられます。

3.名板貸人としての責任について定めた商法14条では、「自己の商号を使用して営業又は事業を行うことを他人に許諾した商人は、当該商人が当該営業を行うものと誤認して当該他人と取引をした者に対し、当該他人と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う。」と規定されています。
 
 この規定は、名義の使用許諾を受けた者と取引した相手方が、名義使用を許諾した者(名板貸人)を営業主体と誤信することから、その相手方の信頼を保護するために名板貸人の連帯責任を定めたものです。
 
 この名板貸責任に関して争われた裁判例を検討すると、フランチャイザーが名板貸責任を問われるか否かは、当該事業があくまでフランチャイジーを事業主体とするものであることがわかるように、看板、店舗(車両)、名刺、請求書、領収書等の記載を明確にしてあるか否かで判断が分かれているようです。

4.ここで、結論の異なる2つの裁判例を詳しく見ていくことにしましょう。

 まずは、神戸地裁尼崎支部平成13年11月30日の裁判例を紹介します。
 
 この裁判例では、フランチャイザーの名板貸人としての責任について、①店舗の看板にはフランチャイザーの商標のみが書かれ、フランチャイジーの固有の名称が書かれていなかったこと、②名刺にもフランチャイザーの商標が書かれ、フランチャイジーの個人名の上にはショップマネージャーと書かれているにすぎないこと、③名刺はフランチャイザーが作成したもの出有ること、④看板は私道に基づいて設置されたこと、などを理由にフランチャイザーの名板貸人としての責任を認めました。

 これに対し、東京地裁平成2年3月28日の裁判例では、以下の事情を考慮して、フランチャイザーの名板貸人としての責任を否定しました。

 すなわち、①フランチャイジーの商号は、「赤帽○○運輸」「赤帽○○運送」というように、フランチャイジーの固有名詞が付されたものとなっていること、②フランチャイジーが使用する運送車両には、両側の扉にフランチャイジーの個人商号および電話番号が記載されていること、③運賃請求書と領収書にもフランチャイジーの個人商号や住所等が記載されていること、④職業別電話帳でも、フランチャイザーの広告とは別にフランチャイジーの個人商号での広告が多数存在すること、⑤新聞広告や利用者向けのパンフレットにも赤帽車による営業がフランチャイジーの個人の事業である旨の記載があること、などを理由にフランチャイザーの名板貸人としての責任を否定しました。

5.いかがでしょうか。この2つの裁判例を比較してみると、フランチャイザーが名板貸責任を回避するためには、当該事業があくまでフランチャイジーを事業主体とするものであることがわかるように、看板、店舗(車両)、名刺、請求書、領収書等の記載を明確にしておくことが重要であることがわかりますね。

 もっとも、いかなるフランチャイズ契約においても、フランチャイジーを事業主体であると明確にできるわけではありません。
 
 事案によっては、どうしてもフランチャイザーが名板貸責任を負わざるを得ない状況にある場合もあるのではないでしょうか。

 そのような場合には、フランチャイザーは、フランチャイジーに対して、より一層の指導を徹底する必要があるのではないでしょうか。

6.次に、フランチャイザーの不法行為責任(民法709条)と使用者責任(民法715条)が問題となるケースを見ていきましょう。

 コンビニエンス・ストアのフランチャイジーの店内で床をモップで水拭きした後、乾拭きしなかったために来店客が転倒して骨折した事案において、フランチャイザーの責任が問題となりました。

 裁判所は、フランチャイザーは、フランチャイジーまたはフランチャイジーを通じてその従業員に対し、水拭き後に乾拭きするなど、顧客が滑って転んだりすることのないように床の状態を保つように指導する義務があったにもかかわらず、それを怠ったとして、フランチャイザーの不法行為責任を認めました(大阪高判平成13年7月31日)。
 
 なお、この裁判例では、フランチャイザーは、不法行為責任のほかに使用者責任も負うものと解されると判示されています。

 この裁判例の事案では、店舗の床はフランチャイザーが指定した特注品であり、床の清掃方法もフランチャイザーのマニュアルに指定されていました。店舗の清掃状態がチェーン・イメージの重要な要素であることに照らせば、床の清掃方法は、チェーン・イメージを維持するうえでフランチャイザーの指揮監督下にあったと評価することができます。以上の点から、この裁判例ではフランチャイザーの責任が認められたのではないでしょうか。

7.一般的には、フランチャイジーがフランチャイザーから強い拘束を受ける事項(店舗設備や運営方法)についてフランチャイザーに落ち度があると、その責任が認められやすいといえます。
  
 ですから、フランチャイザーとしては、店舗デザインや運営マニュアルについては、営業効率だけでなく安全性やコンプライアンス等も十分に確認しておく必要があります。

8.もっとも、いくら注意をしていても、不慮の事故は避けられません。こうした不慮の事故については、保険による損害補填が不可欠であり、フランチャイザーとしては、フランチャイジーに対して保険加入を義務づける必要があります。