競業避止義務17(関東工業事件)

おはようございます

さて、今日は、退職後の秘密保持義務、競業避止義務に関する裁判例を見てみましょう。

関東工業事件(東京地裁平成24年3月13日・労経速2144号23頁)

【事案の概要】

X社は、主に廃プラスチックのリサイクルを業とする会社であり、仕入先から廃プラスチック等を仕入れ、これを工場で粉砕するなどした上で、海外に輸出するのを業としていた。

Bらは、X社との間で雇用契約を締結し、営業職として勤務していた。

Y社は、平成22年3月設立された会社であり、X社と同じく廃プラスチックのリサイクルを業としている。Y社の代表取締役はBである。

X社は、Bらに対し、秘密保持義務違反、競業避止義務違反等を理由として、不法行為ないし債務不履行に基づく損害賠償を請求した。

【裁判所の判断】

請求棄却
→秘密保持義務違反、競業避止義務違反にはあたらない。

【判例のポイント】

1 使用者は、労働者に対し、就業規則ないし個別合意等により業務上の秘密の不正利用を禁ずることができるが、このような条項には多かれ少なかれ労働者の自由な行動を制約する側面があり、しかも本来、雇用契約上の拘束を受けないはずである退職後の行動を制約することからすれば、何をもって秘密事項というかについては、本来、就業規則ないし個別合意等により明確に定められることが望ましいというべきであるし、かつ、労働者の行為(とりわけ退職後の行為)を不当に制約することのないよう、その秘密事項の内容も、過度に広汎にわたらない合理的なものであることが求められるというべきである

2 本件において、何をもって業務上の秘密とするかについて、就業規則上も本件通知上も具体的に定めた規定は見当たらないところ、不正競争防止法上の「営業秘密」については、いわゆる(1)当該情報が秘密として管理されていること(秘密管理性)、(2)事業活動に有用な技術的又は営業上の情報であること(有用性)及び(3)公然と知られていないこと(非公知性)という3つの要件が必要であるとされている(同法2条6項)。就業規則や個別合意による企業秘密の不正利用の防止が、不正競争防止法とは関係なく、あるいは、同法による規制に上乗せしてなされるものであることにかんがみると、これらにより保護されるべき秘密情報については、必ずしも不正競争防止法上の「営業秘密」と同義に解する必要はないというべきである。しかし、他方で、当該規制により、労働者の行動を萎縮させるなどその正当な行為まで不当に制約することのないようにするには、その秘密情報の内容が客観的に明確にされている必要があり、この点で、当該情報が、当該企業において明確な形で秘密として管理されていることが最低限必要というべきであるし、また、「秘密」の本来的な語義からしても、未だ公然と知られていない情報であることは不可欠な要素であると考えられる。このような点からすれば、就業規則ないし個別合意により漏洩等が禁じられる秘密事項についても、少なくとも、上記秘密管理性及び非公知性の要件は必要であると解するのが相当である

3 これを本件についてみるに、X社が業務上の秘密として主張する廃プラスチックの仕入先に関する情報については、「秘」の印が押されたりして管理されるわけでもなく、当該情報にアクセスすることができる者が限定されているわけでもなく、従業員であれば誰でも閲覧できる状態にあったことは、当事者間に争いがない。したがって、X社において、これらの情報が秘密として管理されていなかったことは明白である。また、本件訴訟におけるX社の主張をみても、当初訴状の段階では単に「顧客情報」と主張していたのに対し、その後「客先ごとの取引の種類、仕入量、価格といった営業上の重要な情報」(第1準備書面)、「具体的な値決めについてのノウハウ、取引先の存在、取引先がどのような品を欲しがるか、取引の可能となる価格」(第2準備書面)とその内容は必ずしも一定せず、このような主張内容が変転すること自体、X社においても、これらの情報の範囲を客観的に明らかな形で定義できていないことを示すものであって、これらが秘密として管理されていないことを示すということができる。
このように、X社主張にかかる情報は、秘密管理性の要件を充たさないものであるから、これが就業規則及び本件機密保持契約で保護されるべき秘密情報に当たると解する余地はないというべきである。

4 X社は、Bらが、X社を退職した後直ちにY社を設立ないし入社しているもので、就業規則59条2項に反する旨主張する。
このような就業規則や労使間の個別合意により、雇用契約関係終了後の労働者の職業選択の自由を制約できるかについては疑義もあるところであるが、労働者は、使用者の有する営業機密を使用してその業務を遂行したり、業務遂行の過程で営業機密を知ることもあるから、そのような場合には一定の範囲、期間内において退職後の労働者の競業を禁止することが正当化される場合もあり得る。しかし、他方で、労働者の立場からすれば、本来、退職後の職業選択に関し制約を受けるべき理由がないにもかかわらず、
使用者の利益確保のためにこれを制約されることを意味するものであるから、上記のような就業規則の競業避止条項や合意による競業避止特約が有効と認められるためには、使用者が確保しようとする利益に照らして、競業禁止の内容が必要最小限度に止まっており、かつ、十分な代償措置が施されることが必要であると解される。そして、そのような条件を満たさない場合には、上記条項ないし制約は、労働者の権利を一方的かつ不当に制約するもので公序良俗に反するとして、民法90条により無効となると解される

5 本件においては、Bらは、X社での業務遂行過程において、業務上の秘密を使用する立場にあったわけではないから、そもそも競業を禁ずべき前提条件を欠くものであるし、X社は、Bらに対し、何らの代償措置も講じていないのであるから、上記競業避止条項ないし特約は、民法90条により無効と認めざるを得ない。
したがって、Bらの競業避止義務違反をいうX社の主張については理由がない。

非常に参考になる裁判例ですね。

この分野は、原告側の会社は結構ハードルが高いので、注意が必要です。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。