継続雇用制度20(社会福祉法人甲会事件)

おはようございます。

さて、今日は、有効な戒告処分を受けた者の再雇用拒否に関する裁判例を見てみましょう。

社会福祉法人甲会事件(東京地裁平成24年10月9日・労経速2157号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期限の定めのない雇用契約を締結していたXが、Y社がXの定年後の再雇用を拒否したことは権利の濫用として無効である旨主張して、Y社に対し、雇用契約に基づく地位確認及び賃金の支払を求めた事案である。

Y社は、援護または更生の措置を要する者に対して援助することを目的とする第一種社会福祉法人であり、児童養護施設及び知的障害児施設を運営している。

Xは、昭和26年生の男性であり、昭和50年、Y社との間で期限の定めのない雇用契約を締結し、児童指導員として勤務していた者である。

Y社には、高年法9条2項に基づく定年後の再雇用制度に関する労使協定が存するところ、「懲戒処分該当者でないこと」等を同制度の対象としている。ただし、本件再雇用基準を充たさない場合であっても、Y社が業務上必要と認めた者については、本件再雇用制度の対象としている。

Xは、園児の指導について、就業規則に反するとして戒告処分を受けていた。

【裁判所の判断】

再雇用拒否は有効

【判例のポイント】

1 高年法自体は企業に一定の措置を講ずるよう義務づける行政法規であって、同法に基づいて定年後も労働者を雇用する義務まで課するものではないこと、同法9条2項は、労働者の過半数の代表者との書面協定によって、事業主が継続雇用の対象とする労働者を選別することを許容しているものと解されること等からすれば、その選定基準を具体的にどのような内容とするかについては、基本的に各企業の労使の判断に委ねられているというべきであり、その内容が公序良俗に反するような特段の事情がない限り、当該選定基準が違法無効となるものではない

2 本件再雇用基準は、基準自体に特段不合理な点はないこと(懲戒権の濫用にわたるような懲戒処分でない限り、懲戒処分該当者を再雇用の対象から除外することにも合理性があると認められること)、ただし書規定という救済措置もあること等にかんがみれば、公序良俗に反する内容とは認められず、他に本件再雇用基準の効力を否定する事情を認めることはできない

3 本件再雇用制度は、それまでの雇用契約を継続する定年延長制度とは異なり、定年後に新たな労働契約を締結して雇用を継続する制度であるから、新たな労働契約を締結したといえるためには、改めて、賃金等の主要な労働条件に関する双方の合意を要する。
再雇用契約の成立につき、Xは、本件戒告処分は無効であるから、Xは再雇用を求めうる地位にあり、再雇用契約が成立したものとして取り扱われるべきであると主張するが、本件再雇用制度における再雇用契約の労働条件は、雇用期間のほかは就業規則に規定がなく、再雇用協定においても、個別の嘱託雇用契約書によって定めることになっていることからすれば、本件再雇用制度において再雇用契約が締結されたといい得るためには、基準該当者による再雇用の申し出があっただけでは足りず、別途、再雇用契約の労働条件に関し、Y社と基準該当者の双方が明示または黙示に合意することが必要というべきである

4 ・・・本件戒告処分は有効というべきである。
・・・以上によれば、Xを基準該当者と認めることはできないから、X・Y社間に再雇用に関する黙示の合意があったといえるか否かについて判断するまでもなく、Xの請求は認めることができない。

久しぶりの継続雇用に関する裁判例です。

従来型の継続雇用制度を前提とした争点です。

継続雇用については法改正があったところなので、今後の動向に注目しています。

高年法関連の紛争は、今後ますます増えてくることが予想されます。日頃から顧問弁護士に相談の上、慎重に対応することをお勧めいたします。