Daily Archives: 2013年3月21日

解雇99(学校法人専修大学事件)

おはようございます。

さて、今日は、労災保険給付の受給労働者に打切補償を支払って行った解雇に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人専修大学事件(東京地裁平成24年9月28日・労判1062号5頁)

【事案の概要】

本件は、Y大学が、業務上疾病(頸肩腕症候群)により療養のため休業中で労災保険給付(療養補償給付、休業補償給付)を受けているXに対し、その休業期間満了後、Y大学の災害補償規程に基づき、労基法81条所定の打切補償を支払って行った平成23年10月31日付け解雇は解雇権の濫用にも当たらず有効であるとして、同日以降の地位不存在確認を求めて本訴を提起し、これに対し、Xは、同条所定の「労基法75条の規定によって補償を受ける労働者」に該当せず、本件解雇は労基法19条1項本文に違反し無効であるとして、Xが地位確認並びにリハビリ就労拒否、不当解雇等を理由とする損害賠償及びこれに係る遅延損害金の各支払を求めて反訴を提起したものである。

Y大学は、上記本訴を取り下げ、Xはこれに同意したため、本件請求は、上記反訴請求のみとなった。

本件の争点は、労基法19条1項但書前段にいう同法81条の打切補償の対象となる労働者とは、同条の文言どおり同法75条による使用者からの療養補償を受ける労働者に限られるのか(Xの主張)、労災保険法上の保険給付(療養補償給付)を受ける労働者も含まれるか(Y大学の主張)である

【裁判所の判断】

解雇は無効

【判例のポイント】

1 労災保険の給付体系は、労基法の補償体系とは独自に拡充されることによって成立、発展を遂げた制度であって、労基法による災害補償制度から直接には派生したものではなく、両制度は、使用者の補償責任の法理を共通の基盤としつつも、基本的には、並行して機能する独自の制度であると解するのが相当であって、両制度がその基盤とする法律関係原理(補償責任の法理)を一にしており、かつ相互に法的関連性をうかがわせる規定(労災保険法12条の8第2項、労基法84条1項等)が存在するからといって、そのことから直ちに「労災保険給付を受けている労働者」と「労基法上の災害補償を受けている労働者」を軽々に同一視し、その法的取扱いを等しいとする必然性はない

2 労基法81条は、単に労基法19条1項本文の解雇制限を解除するための要件を定めるだけではなく、労基法19条1項本文違反の解雇を行った使用者を処罰するという公法的効力、すなわち処罰の範囲を画するための要件でもあるから、労基法81条にいう「(労基法)第75条の規定(療養補償)によって補償を受ける労働者」の範囲は、原則として文理解釈によって決せられるべきである(罪刑法定主義)。

3 労基法81条の打切補償制度の趣旨は、療養給付を必要とする労災労働者の生活上の需要よりも、補償の長期化によって使用者の負担を軽減することに重点があり、その意味で、使用者の個別補償責任を規定する労基法上の災害補償の限界を示すものと解されるところ、労災保険制度は、使用者の災害補償責任(個別補償責任)を集団的に補填する責任保険的機能を有する制度であるから、使用者は、あくまで保険者たる政府に保険料を納付する義務を負っているだけであり、これを履行すれば足りるのであるから、「労災保険法第13条の規定(療養補償給付)によって療養の給付を受ける労働者」との関係では、当該使用者について補償の長期化による負担の軽減を考慮する必要はなく、労基法81条の規定の「第75条の規定(療養補償)によって補償を受ける労働者」とは、文字通り労基法75条の規定により療養補償を受けている労働者に限るものと解され、明文の規定もないのに、上記「(労基法)第75条の規定(療養補償)によって補償を受ける労働者」の範囲を拡張し、「労災保険法第13条の規定(療養補償給付)によって療養の給付を受ける労働者」と読み替えることは許されない

4 Xは、労基法81条の規定の「第75条の規定(療養補償)によって補償を受ける労働者」には該当せず、本件打切補償金の支払は、労基法19条ただし書前段にいう「使用者が、第81条の規定によって打切補償を支払う場合」に該当しないこととなり、同項本文所定の解雇制限は解除されず、これに対する本件解雇は無効である。

5 本件業務災害・休職の期間満了直前に、XはY大学に対しリハビリ就労させるように求めているが、Y大学がそのような要求に応じるべき法的義務を負っていたものとは解されず、Y大学のリハビリ就労拒否は、不法行為を構成しない。

この争点については、まだ定説というものがありません。

文理解釈からすれば、上記判断になりますが、本件と同様の事案では、打切補償を支払って解雇することは相当難しくなります(事実上、ほとんど不可能なくらい現実的でない)。

控訴審がどのような判断を示すか注目しています。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。