解雇123(学校法人専修大学事件)

おはようございます。

さて、今日は、休業期間満了後になされた打切補償による解雇に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人専修大学事件(東京高裁平成25年7月10日・労判1076号93頁)

【事案の概要】

本件は、Y大学が、業務上疾病(頸肩腕症候群)により療養のため休業中で労災保険給付(療養補償給付、休業補償給付)を受けているXに対し、その休業期間満了後、Y大学の災害補償規程に基づき、労基法81条所定の打切補償を支払って行った平成23年10月31日付け解雇は解雇権の濫用にも当たらず有効であるとして、同日以降の地位不存在確認を求めて本訴を提起し、これに対し、Xは、同条所定の「労基法75条の規定によって補償を受ける労働者」に該当せず、本件解雇は労基法19条1項本文に違反し無効であるとして、Xが地位確認並びにリハビリ就労拒否、不当解雇等を理由とする損害賠償及びこれに係る遅延損害金の各支払を求めて反訴を提起したものである。

Y大学は、上記本訴を取り下げ、Xはこれに同意したため、本件請求は、上記反訴請求のみとなった。

本件の争点は、労基法19条1項但書前段にいう同法81条の打切補償の対象となる労働者とは、同条の文言どおり同法75条による使用者からの療養補償を受ける労働者に限られるのか(Xの主張)、労災保険法上の保険給付(療養補償給付)を受ける労働者も含まれるか(Y大学の主張)である

【裁判所の判断】

控訴棄却(解雇は無効)

【判例のポイント】

1 労基法81条は、同法の「第75条の規定によって補償を受ける労働者」が療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病が治らない場合において、打切補償を支払うことができる旨を定めており、労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付を受けている労働者については何ら触れていない。また、労基法84条1項は、労災保険法に基づいて災害補償に相当する給付がなされるべきものである場合には、使用者はこの災害補償をする義務を免れるものとしているにとどまり、この場合に使用者が災害補償を行ったものとみなすなどとは規定していない。そうすると、労基法の文言上、労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付を受けている労働者が労基法81条所定の「第75条の規定によって補償を受ける労働者」に該当するものと解することは困難というほかはない

2 このように解すると、使用者は、療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病が治らずに労働ができない労働者に対し、災害補償を行っている場合には打切補償を支払うことにより解雇することが可能となるが、労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付がなされている場合には打切補償の支払によって解雇することができないこととなる。しかし、労基法19条1項ただし書前段の打切補償の支払による解雇制限解除の趣旨は、療養が長期化した場合に使用者の災害補償の負担を軽減することにあると解されるので、このような差が儲けられたことは合理的といえる。もっとも、労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付がなされている場合においても、雇用関係が継続する限り、使用者は社会保険料等を負担し続けなければならない。しかし、使用者の負担がこうした範囲にとどまる限りにおいては、症状が未だ固定せず回復する可能性がある労働者について解雇制限を解除せず、その職場への復帰の可能性を維持して労働者を保護する趣旨によるものと解されるのであって、使用者による社会保険料等の負担が不合理なものとはいえない

3 また、前記のように解すると、療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病が治らずに労働ができない労働者について、傷病補償年金の支給がされている場合には打切補償を支払ったものとみなされて解雇が可能となるのに対し、療養補償給付及び休業補償給付の支給がなされているにとどまる場合には使用者が現実に打切補償を支払っても解雇することができないという大きな差が生じることとなる。しかし、症状が厚生労働省令で定める重篤な傷病等級に該当する場合においては、復職の可能性が低いものとして雇用関係を解消することを認めるのに対し、症状がそこまで重くない場合には、復職の可能性を維持して労働者を保護しようとする趣旨によるものと解されるのであって、上記のような差異も合理的というべきである
したがって、法は、以上のような趣旨から、療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病が治らずに労働が出来ない労働者が労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付を受給している場合においては、使用者が打切補償を支払うことにより解雇することはできないものと定めているものと解するのが相当である。

一審の判決については、こちらを参照。

文理解釈に徹しています。

そして、文理解釈によると不合理な結果についても、ちゃんと説明をし、不合理ではないと結論付けています。

無理な解釈をするよりも誠実だと思います。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。