派遣労働23(ティー・エム・イーほか事件)

おはようございます。

今日は、派遣社員のうつ病罹患と自殺に対する損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

ティー・エム・イーほか事件(東京高裁平成27年2月26日・労判1117号5頁)

【事案の概要】

本件は、Aが代表取締役を務めるY社に雇用され、Z社に派遣されて中部電力浜岡原子力発電所で空調設備の監理業務等に従事していたXが平成22年12月9日に自宅で自殺したことから、その妻子が、派遣先会社の出張所長であったBらに対し、Xのうつ病を認識し、又は認識することができたのに安全配慮義務等を怠り、Xを自殺に至らしめたとして、A及びBに対しては不法行為に基づき、派遣会社に対しては債務不履行及び会社法350条に基づき、派遣先会社に対しては債務不履行及び使用者責任に基づき、損害賠償請求をした事案である。

原審は、原告の請求を全て棄却した。

【裁判所の判断】

派遣会社及び派遣先会社は、連帯して合計150万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 当裁判所は、Xの自殺についてY社らに法律上の責任はないとする点は原判決と同じであるが、Y社及びZ社は、従業員であるXの体調不良を把握した以上、安全配慮義務の一環として、具体的に不良の原因や程度等を把握し、必要に応じて産業医の診察や指導等を受けさせるなどすべきであったのに、これを怠り、その限度でXに対して慰謝料の支払義務が生じたものと認められる

2 ・・・Xの体調が十分なものではないことを認識することができていたのであるから、Y社及びZ社は、それぞれ従業員に対する安全配慮義務の一環として、上記の機会や同年12月にXが自殺に至るまでの間に、XやXらの家族に対し、単に調子はどうかなどと抽象的に問うだけではなく、より具体的に、どこの病院に通院していて、どのような診断を受け、何か薬等を処方されて服用しているのか、その薬品名は何かなどを尋ねるなどして、不調の具体的な内容や程度等についてより詳細に把握し、必要があれば、Y社及びZ社の産業医等の診察を受けさせるなどした上で、X自身の体調管理が適切に行われるよう配慮し、指導すべき義務があったというべきである。
それにもかかわらず、Y社及びZ社は、いずれもXに対して通院先の病院や診断名や処方薬等について何も把握していないのであって、従業員であるXに対する安全配慮義務を尽くしていなかったものと認めることができる。

3 もっとも、Xは、Y社に入社した際の面接で健康面に問題はないと述べ、妻もこれに同調しただけでなく、入社後も平成20年から平成22年まで毎年7月に実施された健康診断において精神面の不調等を訴えてはいないし、Y社やZ社に対してうつ病に罹患しているとの診断書等を提出したこともないが、このことは、X自身が解雇されることなどを恐れてうつ病又はうつ状態に陥っていることを明かそうとしなかったものと考えられるのであって、仮にAやBにおいて、Xに対して直截に具体的な病名等を確認しようとしても、Xが素直にこれに応じてうつ病又はうつ状態にあることを説明したか否かについては、不明という他はないが、Xがそのような不安を抱くようになった原因の1つには、AやBのXに対する日頃の対応があったのではないかとも考えられ、そのこと自体、Y社やZ社における従業員に対する安全配慮義務の履行が必ずしも十分なものでなかったことを推認させるものである

会社関係者のみなさんは、この裁判例を十分理解する必要があります。

「安全配慮義務」という言葉は知っていても、その具体的な内容まで理解している方は多くありません。

どこまでやれば安全配慮義務を尽くしたといえるのか。 まさにここがポイントです。

定期的なセミナー、勉強会を開き、ブラッシュアップをしていかなければなりません。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理を行いましょう。