派遣労働24(日産自動車ほか事件)

おはようございます。

今日は、派遣労働者と派遣先会社との直接の黙示の労働契約の成立が認められなかった裁判例を見てみましょう。

日産自動車ほか事件(東京地裁平成27年7月15日・労経速2261号9頁)

【事案の概要】

本件は、派遣元であるA社との間で期間の定めのある労働契約を締結し、その更新を重ねながら、派遣先であるY社において就労していたXが、①XとA社との間の労働契約及びA社・Y社間の労働者派遣契約は偽装された無効なものであり、XとY社との間には直接の労働契約が黙示のうちに成立しているとして、仮にそうでないとしても、労働者派遣法40条の4及び40条の5の各規定によってXとY社との間に労働契約が成立しているとして、Y社に対し、期間の定めのない労働契約上の地位を有することの確認並びに平成21年6月以降の賃金+遅延損害金の支払を求め、②A社・Y社の職業安定法違反及び労働者派遣法違反等の違法行為によって、XがY社に直接雇用されていれば本来支払を受けることのできたはずの賃金の支払を受けられず、A社から受け取っていた賃金との差額について損害を被り、また、精神的苦痛を被ったとして、A社・Y社に対し、連帯して、不法行為に基づく損害賠償金として、逸失利益、慰謝料及び弁護士費用+遅延損害金の支払を求め、③XとA社との間の労働契約及びA社・Y社間の労働者派遣契約が上記のとおり無効であることから、A社はXがY社に派遣され就労していた期間、Y社から支払を受けた派遣代金額から、A社がXに対して支払った賃金額を控除した額につき、法律上の原因なく利得を得ており、これに対応してXに損失が生じているとして、A社に対し、不当利得返還請求権に基づき上記差額+遅延損害金の支払を求めている事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xと被告らとの間の法律関係は労働者派遣法2条1号にいう労働者派遣にほかならず、職業安定法4条6項にいう労働者供給には該当しない。また、XとA社との契約関係は実体を伴ったものであって、これを無効とすべき特段の事情は見当たらないところである。そして、Xについて、A社との間の関係と並列的に、Y社との間の直接の雇用関係の成立を認めるべき根拠となるような事情は見当たらないというべきである。
かえって、Y社の休業期間中とはいえ、Xが、A社からY社以外の派遣先の紹介を受け、就労していた事実は、Y社との間に直接の雇用関係が存在することを前提とせず、A社からの労働者派遣という法律関係の枠内で就労を継続していたことを裏付けるものであって、XとY社との間で黙示の労働契約の成立を認める余地はないというべきである

2 Xは、Y社には派遣労働者を受け入れた派遣先として法令を遵守し、信義誠実に従って対応すべき条理上の義務があるところ、Y社が、その義務に反して法令違反を行い、東京労働局の指導も無視して、Xの就労を拒絶したことにより、Y社での就労の継続についての期待が侵害されており、長期間にわたって派遣労働者として不安定な地位を強いられ、庶務的業務を押しつけられたことによって精神的苦痛を被ったとも主張している。
しかし、Y社が労働者派遣法を遵守したとしても、直接・間接雇用を問わず、XがY社での就労を継続できる合理的な期待があるとまでいえないことは既に述べたところから明らかであるし、東京労働局の指導した雇用の安定の措置としては、Y社によるXの直接雇用のほか、グループ会社での雇用、A社による別の派遣先の就業が例示されていたところ、XはY社による直接雇用以外は受け入れない姿勢を示していたことからすれば、合意に至る可能性が低いとして交渉に応じなかったことを捉えて不法行為に当たるとするのは相当でないというべきである
また、長期間派遣労働者として不安定な地位にあったとする点も、XがY社から直接雇用された地位、その他派遣労働者以外の地位を法律上当然に期待できたわけではなく、A社との契約の更新、Y社での庶務的業務の担当を含めた就労の継続が、Xの意思に反した不相当な方法で行われていたことをうかがわせる証拠もないから、この点を捉えて不法行為であるということもできない

この争点については、原告側に厳しい判決が続いています。

派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。