Daily Archives: 2016年8月24日

配転・出向・転籍32(社会福祉法人奉優会事件)

おはようございます。

今日は、出向命令が有効とされた裁判例を見てみましょう。

社会福祉法人奉優会事件(東京地裁平成28年3月9日労経速2281号25頁)

【事案の概要】

本件は、主位的に、Y社のXに対する違法な出向命令により、Xの出向後の給与及び賞与が出向前よりも減額したとして、その差額について、不法行為に基づく損害賠償を求め、予備的に、出向命令が有効であるとして、上記差額について、出向規程に基づく補償を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、本件限定合意がある以上、Xの同意のない本件出向命令は違法・無効であると主張する。確かに、労働条件通知書には、「就業の場所」として、「特別老人ホーム白金の森」と記載されているが、当該記載は、採用時の労働条件の明示事項(労働基準法15条1項)である勤務の場所を記載したものであり、採用直後の勤務場所を記載したものにすぎないと認められる。また、Xは、募集要領に「法人内異動:有」と記載されているところ、Xの就業場所としてY社が経営する施設以外への出向等がないかについて、就職時、特に確認していたと主張する。しかし、Y社は本件限定合意の成立を否認しており、Y社職員のうちXだけ出向規程の適用を排除すべき特段の事情があったと認められないこと、他に上記合意の成立を認めるに足りる的確な証拠がないことからすれば、本件限定合意が成立していたと認めることはできない

2 Y社は、ケアマネージャーとして勤務したいというXの希望を踏まえた上で、本件出向命令に至っているのであって、出向を命ずる業務上の必要性はあったと認められ、他に本件出向命令について、不当性をうかがわせるような事情はない。また、本件出向命令によってXの労務提供先は変わるものの、その従事する業務内容(SPM)について、事前に説明会が実施されており、Xは自分が担当するSPMの業務内容について十分理解していたこと、出向規程において、出向中の職員の地位、賃金、退職金その他処遇等に関する規定等、特に本件補償規程を設けて、経済的不利益が大きくならないように配慮していることを勘案すれば、Xが労働条件等において著しい不利益を受けるものとはいえない。そして、本件出向命令に至る経緯及び本件出向命令後、Xは何ら異議を述べることなく出向先での勤務を開始していることからすれば、Y社において、Xが出向に同意したものと認識し、出向同意書の返送を催促せず、その結果、出向同意書が未提出のままになっていたことも理解できるものであり、当該事実が、本件出向命令の不当性をうかがわせるような事情であるとはいえない
これらの事情にかんがみれば、本件出向命令が権利の濫用に当たるということはできない。

X側とすれば、限定合意の存在を強く主張しましたが、この点について裁判所が否定したためにかなり厳しい戦いとなりました。

出向命令自体、特に不当な目的のためになされたものでもなく、かつ、経済的不利益を減らすための措置を講じていることからこのような判断となりました。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。