Monthly Archives: 9月 2016

本の紹介600 成功の条件(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は本の紹介です。
成功の条件―「人」と「お金」と「選択の自由」

著者が考える成功の定義は、「人とお金と選択の自由を手に入れること」だそうです(9頁)。

最後に「選択の自由」というワードが入るのがいいですね。

物語を通じて、成功の条件を伝えています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

人間は誰もが自分の慣れ親しんだ環境の中で生きてる。そして、その中から出ようとしない。『成長したい』という思いと、『いまのままがいい』っていう相反する思いが綱引きしてるんだよ。・・・その心の綱引きで『成功したい』の思いが大きければ、成功に向かって歩き始めるし、『変わりたくない』という思いが勝てば、結局努力をあきらめて、いまのまま生きていくことになる。そしてほとんどの人は現状維持という選択肢を選ぶ。」(110頁)

ここでも「ホメオスタシス」の力の話が出てきます。

毎日、弱い弱い自分との戦いですから。

もし自分の背中に「オン」と「オフ」のスイッチがあったとして、

僕はスイッチを「オフ」することができません。

一度「オフ」に入れてしまうと、もう「オン」にすることができないのではないかという恐怖心がその理由です。

弱い自分に負けてしまうのではないか・・・と。

ワークライフバランスという言葉を聞く度にいつも思うわけですよ。

「・・・あたし、ワークライフアンバランスの典型例だ」

アンバランスなことはわかっていますが、もうこういう生き方しかできないのです。

解雇212(東京アメリカンクラブ事件)

おはようございます。

今日は、懲戒解雇が無効とされ、未払賃金請求が一部認められた事案を見てみましょう。

東京アメリカンクラブ事件(東京地裁平成28年4月27日・労判ジャーナル53号29頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結した元従業員Xが、Y社に対し、①懲戒解雇が無効であると主張して、雇用契約上の地位確認及び賃金請求件に基づき未払賃金・賞与及び遅延損害金の支払を求め、②時間外労働をしたと主張して、賃金請求件に基づき割増賃金及び遅延損害金の支払を求め、③②についての付加金及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

また、反訴として、Y社は、Xに対し、賃金の過払い、通勤手当の不正受給があり、Xが悪意の受益者であると主張して、不当利得に基づく利得金返還請求権に基づき利得金等の支払を求めた。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

未払賃金請求は一部認容

付加金請求は棄却

不当利得返還請求は棄却

【判例のポイント】

1 有期雇用契約である本件雇用契約が契約期間の途中でされた本件懲戒解雇には、「やむを得ない事由」(労働契約法17条)が必要とされるところ、本件店舗の商品であるビールを飲酒したという職場規律違反を内容とする本件非違行為により、Xが担当する調理業務に支障が生じたことを認めるに足りる証拠はなく、Xの調理技術が高く、業績評価において数回、5段階評価で上から2番目の評価であるE評価を取得していること、Xには懲戒歴がなく、これまで飲酒行為について注意・指導を受けたことがないこと、Xと同様に、勤務時間中に飲酒したA及びBが3か月の賃金相当額の支払を受けて依願退職したが、懲戒処分を受けていないこと等の事情に照らすと、本件懲戒解雇は不当に重い処分であり、本件雇用契約を即時に解消しなければならない程度の「やむを得ない事由」があるということはできないから、本件懲戒解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないから、権利を濫用したものとして無効であるというべきである。

2 Y社が本件本件訴訟提起後の和解において、割増賃金を含む相応金額を支払う姿勢を示していたこと、その他本件に顕れた事情を総合考慮すると、Y社に対し付加金の支払を命じるのは相当でないというべきである。

有期雇用契約で期間途中で解雇する場合には、「やむを得ない事由」が必要になります。

つまり、無期雇用で解雇する場合よりも要件がさらに厳しくなるわけです。

店舗の商品であるビールを飲酒したことは決していいことではありませんが、それをもって期間途中で懲戒解雇は、やはり処分としては重きに失すると判断されてしまいます。

解雇の理由があると思っても、相当性の要件がありますので、ご注意ください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介599 思うは招く(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。
思うは招く ~自分たちの力で最高のロケットを作る!

ロケット開発で有名な植松電機専務取締役の植松さんの本です。

植松さんの本はこれまでにも数冊読んできましたが、今回の本もとても良い本です。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

ニッチは自分でつくるものです 見つけるものではありません」(158頁)

既存の市場で戦うときに必要なのは資本力です。価格競争です。だったらうちが勝てっこないです。だからこそ、相手と四つに組まない戦い方が必要です。世の中にないものを考えるのです。試すのです。そうしたら、自動的に小さい市場が生まれます。自分でつくり出した市場です。・・・そうやって、くさびを打ち込んで必死につくった市場がニッチになります。同じものを安く作っている場合じゃないです。」(159頁)

いい言葉ですね。

大企業との戦い方が書かれています。

「ニッチは自分でつくるものです」

このくらいの気持ちをもたなければてっぺんにはいけません。

他社が真似しようと思ってもそう簡単には真似できない「何か」を取り入れることがキモですね。

ここで大切なのは、1発目から成功することを狙わないことです。

思いついたら試してみる。

どんどんやってみる。 やってみなければわからないから。

100個トライすれば、1個や2個はうまくいきます。 

大丈夫。 ほとんどの人は本を読んでも、行動には移しませんから。

本を読んだり、人の話を聞いて刺激を受けたら、行動に移す習慣をつくりましょう。

それだけで9割は成功したようなものです。

不当労働行為155(沖縄セメント工業事件)

おはようございます。

今日は、労組の申し入れた人事考課制度等を議題とする団交に応じなかったことが不当労働行為にあたるとされた事案を見てみましょう。

沖縄セメント工業事件(中労委平成28年3月2日・労判1137号93頁)

【事案の概要】

本件は、労組の申し入れた人事考課制度等を議題とする団交に応じなかったことが不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 人事考課については、会社の人事考課規程によれば、一時金だけではなく昇給及び昇格など組合員の労働条件に広範かつ多大な影響を及ぼし得るものである上、組合が開示を求めた査定結果は、もともと人事考課規程に基づいて考課の当事者には開示されることが予定されており、実際に、組合員に対しては、23年春闘や同年冬季一時金交渉に際して開示されていた。
しかも、開示された人事考課結果表によれば、いずれも組合員(分会員の多く)が規律性において4段階の評価区分の最低ランクに位置付けられており、沖縄県労委に対する救済申立てが相次ぐなど、当時の対立した労使関係も踏まえると、組合からみれば人事考課の公平性が疑われるのももっともな事情が認められる。また、その後、会社は、人事考課結果表の開示を一方的に中止しており、このことは、人事考課制度の運用に対する組合の不信感を増幅させるものであったと推認される
それにもかかわらず、会社においては、査定結果について被評定者が意見を述べることのできる仕組み(苦情処理機関)がないことから、組合としては、組合員の査定に対する疑念を解消するには、団交で査定結果の開示や査定根拠の説明等を求めるほかなく、人事考課制度の運用について問題を提起し、査定結果の開示等について機関を設けて協議するよう求めていたものである。
これらの事情からすると、人事考課制度の在り方は、本件労使関係において従来から懸案事項であったということができる。

2 ・・・したがって、会社は、人事考課制度等の問題を議題とする本件制度団交申入れに対して、合理的な理由のない回答に終始して速やかに応じなかったものであり、本件団交申入れに対する会社の上記対応には「正当な理由」(労組法7条2号)がなかったものと認められる。

上記の事情からすると、不当労働行為と判断されてもやむを得ないと思われます。

会社側としては気が進まないのは理解できますが、大局的な判断が求められるところです。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介598 限界の正体(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。
限界の正体 自分の見えない檻から抜け出す法

為末さんの本です。

為末さん、同級生なんですね。

為末さんが考える「限界の正体」とその克服法について書かれています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

今いる世界で限界を感じるのなら、横を向いてみる。そこには、さらに上に続く階段があるかもしれません。限界とは、今いる世界での限界なのです。自分は、どの世界の、どんなルールだったら戦えるのかに気づいた人ほど、限界の檻から脱出できると思います。」(135頁)

・・・ただし、方向転換にも注意が必要です。僕がハードルではなく、砲丸投げに転向していたら、メダルは取れなかったでしょう。路線転換をするときは、ゼロからまったく新しいことをはじめるよりも、今の自分が持っている本質的な要素を60~70%引き継ぐほうが、限界から抜け出すのに役立つのだと思います。」(137頁)

まずは、限界を感じるところまで圧倒的な努力を積み重ねることです。

多くの場合、私たちが感じる「限界」は、為末さんが言うところの「限界」よりもかなり低いところにある「限界」です。

「今いる世界で限界を感じる」というのは、言うほど簡単ではないのではないでしょうか。

自分の力のなさを感じながらも、日々、もがきながら進んでいくしかないようにも思います。

才能がない以上、自分ができるのは、唯一、人よりも多く努力をし続けることだけです。

解雇211(あじあ行政書士法人事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、解雇無効に基づく逸失利益についての損害賠償請求が一部認められた裁判例を見てみましょう。

あじあ行政書士法人事件(東京地裁平成28年4月20日・労判ジャーナル53号35頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員が、Y社から不当に解雇されたとして、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位の確認を求めるとともに、上記解雇が不法行為に当たるとして、500万円の損害賠償を求めた事案である。

【裁判所の判断】

地位確認等請求は棄却

損害賠償請求は一部認容

【判例のポイント】

1 本件雇用契約には6か月間の試用期間の定めがあり、解約権留保付労働契約とみるべきであるから、試用期間中にした本件解雇は、かかる留保解約権を行使した趣旨と認められるところ、本件解雇は、元従業員の入社後わずか2週間ほどでされたものであり、その解雇理由として挙げる元従業員の営業活動の実態といった点に対しても十分な事実確認、注意指導等を与えた経過が認められず、その他の解雇理由も、およそこのような時期に解雇(留保解約権の行使)を即断するに足りるような事情には当たらないのであって、これら本件解雇の時期、理由、経緯等に照らせば、本件解雇は、元従業員の労働者としての権利を不当に侵害する態様でされた違法なものというべきであり、かつ、Y社においてその点に故意・過失があるものというべきであるから、Y社は、本件解雇について不法行為責任を負い、元従業員に対し、本件解雇により生じた損害を賠償すべき責任を負うものと解するのが相当である。

2 Xは、ハローワークお求人票に月収が14万6000円から60万円と幅のある記載がされていたことから、入社後に自分の仕事ぶりや成果を踏まえて交渉し、50万円ほどの月収を得られるものと期待して入社したこと、仮に6か月間の試用期間中、変わらず月額20万円程度の賃金しか支払われないのであれば、試用期間経過後には自己の売上額の4分の1程度まで月収が上がる仕組みだったとしても、そのような条件でY社の下で働き続ける意思はなく、いずれにしても早期に退職する意向であったことが認められるのであって、そうだとすれば、Xに真にY社の下で就労する意思があるものとは認められないから、Xの上記地位確認請求は理由がないものといわざるを得ない

3 Xは、試用期間中の賃金が月額20万円程度にしかならないのであれば早期に退職する意向であったものであるから、仮に本件解雇がされなかったとしても、元従業員は2か月ほど勤務を続けた時点(最初の賃金を支給される頃)でY社を退職していた蓋然性が高いというべきであるところ、Xは、Y社から、在職中の賃金として10万7500円の支払いを受けていることが認められるから、逸失利益を算出するに当たっては上記受領済みの額を控除すべきであるから、本件解雇と相当因果関係のある元従業員の逸失利益の額は、・・・29万2500円と認められる。

解雇自体は違法だとしつつも、XにY社で継続的に就労する意思がないと認定し、わずかな金額だけを損害として認定した事案です。

解雇事案において、労働者の就労の意思が争点となることは珍しくありませんので、是非参考にしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介597 男が人生で捨てていいもの いけないもの(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。
男が人生で捨てていいもの いけないもの (だいわ文庫)

さまざまな著名人の名言を引用しながら、「男はかくあるべし」という男道を説いています。

私は非常に共感する人種ですが、草食系のみなさんには違和感がある内容かもしれません。

とてもいい本です。 おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

・・・たしかに、現実に出世願望を口にすると、とたんに周囲の風当たりは強くなる。『あいつは、出世しか頭にないんだから』ビジネスの世界でさえ『そんなにがっつくなよ』という、悪しき馴れ合いがまだ幅をきかせている。上昇志向を持つことで顰蹙を買うならどんどん買ったらいいと私は思っているのだが、最近のビジネスマンは妙にお行儀がよすぎて、顰蹙を買う手前で尻込みしている。ビジネスマンが出世競争を自粛してどうするのだといいたい。」(132~133頁)

最後の「ビジネスマンが出世競争を自粛してどうするのだといいたい」はいいですね。

私も同感です。

営業マンが営業成績トップを目指さないでどうするのか、と思います。

これは営業マンに限りません。

日本は今後ますます残業時間の規制が厳しくなり、ワークライフバランス重視になってきます。

限られた時間で成果を出すことがより一層求められていることを意識する必要があります。

私たち弁護士のように、やりたいだけ仕事ができる職種にはあまり関係のない話ですが、労働基準法等が適用される方にとっては、これまで以上に成果を出す「工夫」が求められるでしょう。

つまりは、戦い方を変えていかなければ勝ち残れない日がくるわけです。

不当労働行為154(伊藤興業ほか1社事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、実質的に一体性をもった経営主体を構成する会社が労組法上の使用者にあたるかが争われた事案について見てみましょう。

伊藤興業ほか1社事件(兵庫県労委平成28年4月7日・労判1137号91頁)

【事案の概要】

本件は、申立外A社と実質的に一体性をもった経営主体を構成するB社およびC社はA社従業員が加入する労働組合の組合員との関係において労組法7条のの使用者にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

労組法7条の使用者に当たる

【命令のポイント】

1 B社とC社は、両社の創業者であるA及び両社の株主又は役員であるその親族が鉄関連業務を中心とする各種の事業経営を遂行するための手段として設立し、又は経営する会社であり、実質的にA一族の下で一体性を持つ経営体を構成していたのであって、その中でA社は、鉄関連業務を行うB社の運輸部門として機能していたものと認められる。
・・・以上のとおり、B社は、分会の組合員らに対する関係において、労組法第7条の使用者であると認めるのが相当である。

2 C社は、A社の解散時において存在しなかったものの、その設立後においては、A一族の下でA社と一体性を持った経営体を構成しており、A社から鉄関連業務を実質的に引き継いでいると認められ、このことからすると、C社もB社と同様に、分会の組合員らに対する関係において、労組法第7条の使用者であると認めるのが相当である。

別法人にもかかわらず、実質的には一体性を持つ経営体であると認定され、労組法上の使用者性が認められたものです。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介596 大切なことだけやりなさい(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は本の紹介です。
大切なことだけやりなさい

ブライアン・トレーシーさんの本です。

原書は「Focal Point」です。

本当に大切なことに「焦点」を合わせることの重要性を説いています。

いかに効率よく今以上の成果を上げるべきかということを日頃から考えるくせが身につきますね。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

個人も企業も、ビジネスで成功をおさめる出発点は『価値観の明確化』にある。幸せで満ち足りた瞬間とは、心の奥にある信念や価値観と、現実の生活とが一致したときにあなたに訪れる。高い成果をあげる人は、自分が信じることや意図することを自覚していて、これらの価値あるものから目をそらすことはない。・・・自分の価値観を自分自身の行動で説明しよう。口に出して言うのではなく、本当に信じているものは何なのか、自分自身や周囲の人に行動で示すのだ。」(155~156頁)

自分の心の奥にある信念や価値観を行動によって示す。

自分が本当に信じていること、成し遂げたいことを口に出すだけではなく、日々の行動で表現する。

この日々の行動に共感し、感動するからこそ、その個人や企業を信頼するのだと思います。

自分がこうありたい、こうなりたいと思うことと反する時間の使い方はできるだけしないことです。

日々の過ごし方を変えることからしか、結果を変えることはできないと確信しています。

配転・出向・転籍33(大王製紙事件)

おはようございます。

今日は、降格処分は有効であるが出向命令は無効とされた裁判例を見てみましょう。

大王製紙事件(東京地裁平成28年1月14日・労経速2283号13頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、Y社に対し、Y社による配置転換命令、降格処分、出向命令、懲戒解雇はいずれも無効であると主張して、Xが労働契約上の権利を有し、降格処分前の地位にあること、配置転換先及び出向先に勤務すべき労働契約上の義務がないことの確認を求めるとともに、労働契約に基づき、平成25年2月分の未払賃金、解雇後である同年4月以降の月例賃金及び賞与+遅延損害金の各支払を求め、また、Y社がXの内部告発に関するプレスリリースを発出したことによりXの名誉を毀損し、懲戒委員会を開催してXを難詰し、全く合理性のない配置転換命令等を乱発し、無効な降格処分及び懲戒解雇をするなどした一連の行為が、Y社のXに対する不法行為を構成すると主張して、民法709条、715条に基づき、損害賠償金+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 XがY社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2 XとY社との間で、Xがダイオーロジスティクス株式会社赤平営業所に勤務すべき労働契約上の義務がないことを確認する。

3 Y社はXに対し、36万0841円+遅延損害金を支払え

4 Y社Xに対し、平成25年5月から月例賃金を支払え

【判例のポイント】

1 Y社において、Xを重要な機密情報を取り扱わない部署に再配置する必要があったことは認められるものの、赤平営業所所長という役職は、業務内容の観点からみてXの配置転換先としての合理性を欠くといわざるを得ないものであった。・・・加えて、赤平営業所署長という役職は、実質的には赤平製紙業務課の物流業務の一担当社にすぎず、関係会社の取締役総務部長を歴任したXの配置転換先として余りに不相応なものであった。これらの事情に、赤平出向命令が、本件降格処分を告知した直後にその場で発せられたものであり、Y社において、懲戒処分の検討と平行してXの配置転換先の検討が進められたと考えられることをも併せ考慮すれば、Y社は、懲戒事由に該当する非行をしたXの処遇として、本件降格処分と赤平出向命令とを併せて決定したものであり、実質的にXを懲戒する趣旨で赤平出向命令を発したとの評価を免れないというべきである
そうすると、赤平出向命令は、その動機・目的が不当なものであるといわざるを得ないことになるから、出向命令権を濫用したものとして、無効であるというべきである(最判昭和61年7月14日)。

2 出向命令権や懲戒権の行使が無効であることから直ちに不法行為が成立するものではなく、別途、不法行為に成立要件を充足するか否かを検討すべきであるところ、赤平出向命令は、実質的に懲戒の趣旨で配置転換先を決定したと評価される点において不当というべきものであったが、他方において、その当時、Xを暫定的な配置先であった総務人事本部人事部付から配置転換する必要があったことまで否定されるものではなく、その際、XがY社の秘密に属する情報を漏らしていたことに照らし、重要な機密情報を取り扱わない部署に配置する必要があると判断したことにも合理が認められること、Xは懲戒事由に該当する程度の思い非行をしていたのであり、懲戒事由がない者に対して懲戒の趣旨で配置転換をした場合とは異なること、Xは赤平出向命令に従っておらず、出向に伴う事実上の不利益を実際に受けたわけではないことに鑑みれば、Y社が赤平出向命令を発出し、これに従わなかったことを理由として本件懲戒解雇をしたことが、社会的相当性を逸脱し、不法行為法上違法であるとまでいうことはできないというべきである。

懲戒的意味合いで出向命令を行う場合、上記判例のポイント1のような判断につながってしまいます。

配転・出向後の役職や仕事の内容が大幅に下がる場合、当該業務命令の有効性は、合理的な理由を説明ができるかどうかにかかってきます。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。