Daily Archives: 2017年9月7日

解雇242 生活保護受給と賃金仮払いの必要性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、ダンプ運転手に対する解雇の有効性と合意解約の成否に関する裁判例を見てみましょう。

ゴールドルチル(抗告)事件(名古屋高裁平成29年1月11日・労判1156号18頁)

【事案の概要】

Xは、Y社との間で、ダンプカー運転手として期間の定めのない労働契約を締結していたところ、平成27年5月28日、Y社から事実上解雇されたが、その解雇は無効であると主張して、Y社に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定めるよう求めるとともに、Y社に対し、平成27年9月分以降本案判決確定に至るまで毎月15日限り賃金28万6166円をXに仮に支払うよう求めるのに対し、Y社が、本件労働契約の合意解約ないし解雇による終了を主張するなどして、Xの申立てを争う事案である。

原決定は、本件労働契約は合意解約により終了したとして、Xの申立てを却下したので、Xが本件抗告をした。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 本件において、XのY社に対する労働契約上の権利を有する地位が仮に定められれば、社会保険の被保険者たる資格を含めた包括的な地位が一応回復されることになること、Xがあえて任意の履行を求めるものでもよいとして発令を求めていること、Y社は、履行する意思はないとしているものの、抗告審において和解勧試に真摯に対応しており、発令に応じてXを従業員として扱うことも期待できないわけではないこと等の事情が認められるのであり、そのような事情が認められる本件事案においては、雇用契約上の地位保全の必要性を認めることができるというべきである。

2 Y社は、仮処分決定時までに履行期が到来している賃金については、Xが現に生計を維持してきた以上、保全の必要性は認められず、また、Xは生活保護を受給しているから、仮処分決定時以降も保全の必要性はなく、仮に必要性があるとしても、その金額が月額10万9450円を上回ることはない旨主張する。
しかし、仮処分の審理期間に係る賃金仮払いが認められないのでは、被保全権利が認められるのにも関わらずY社が争ったために審理を要したことの不利益をXに負担させることになり、相当ではないから、申立時以降の賃金仮払いが認められるべきである。また、生活保護の受給についても、生活保護が「生活の困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる」(生活保護法4条1項)ものであって、雇用主に対する賃金支払請求権を有している場合に給付されることが予定されているものではないことからすれば、Xが生活保護を受けている事実をもって保全の必要性が否定されることにはならない。そして、仮払の金額についても、健康で文化的な最低限度の生活を営むのに必要な限度とする必然性はなく、XがY社に解雇されるまで、Y社から支払われる賃金をもって生活の原資としており他に収入があったとは認められないこと、賃金額がXの生活にとって過分なものであったとは考え難いことからすると、Xの生活には、従前支給されていた賃金額の金員を要するものと認められるから、同額について支払の必要性があるというべきである。

上記判例のポイント1は珍しい考え方ですね。

また、上記判例のポイント2の生活保護と賃金仮払いの必要性については参考になります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。