有期労働契約76 有期雇用従業員に対する社内暴力を理由とする解雇と雇止め(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、社内暴力を理由とする期間途中の解雇は無効だが、雇止めは有効とされた裁判例を見てみましょう。

K社事件(東京地裁平成29年5月19日・労経速2322号7頁)

【事案の概要】

本件は、XがY社に対し、懲戒解雇が無効であること、労働契約法19条に基づいて有期雇用契約が更新されること並びに懲戒解雇、それに至るY社の対応及び契約期間満了後の更新拒絶には不法行為が成立することを主張して、雇用契約上の権利を有する地位の確認並びに解雇後の賃金、慰謝料100万円及びこれらの遅延損害金の支払いを求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、7万4010円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、平成28年3月から同年4月まで金22万2030円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、44万4060円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 本件就業規則は「他人に対して暴行・脅迫・監禁その他社内の秩序を乱す行為を行った場合」(70条10号)に該当するときは懲戒解雇とすることを定めているが、情状により諭旨解雇以下に処することも認めており、労働契約法の前記解釈に反することはできないから、懲戒解雇又は諭旨解雇の事由となる「暴行」は「やむを得ない事由」に当たる程度に悪質なものに限られるというべきである。

2 1月17日の出来事でXには暴行に当たる行動があり、懲戒に相当する事由は認められるが、その契機は偶発的で、態様や結果が特に悪質なものともいえず、その背景には、Xの自己中心的、反抗的な行動傾向や勤務態度があり、反省も不十分であったことを考慮しても、期間満了を待つことなく雇用契約を直ちに終了させる解雇を選択せざるを得ないような特別の重大な事由があるとは認めるに足りないから、その余の点を判断するまでもなく、Xに対する本件解雇は懲戒権を濫用するものとして無効であって、XとY社との間の有期雇用契約は、本件解雇では終了しなかったというべきである。

3 更新を妨げる上記「特段の事情」は、有期雇用契約の期間満了前の解雇における「やむを得ない事由」や通常の解雇における「客観的に合理的な理由」があり、「社会通念上相当である」こと(労働契約法16条)と同程度のものであることまでは要しないと解される。
・・・Xに契約期間の満了時に有期雇用契約が更新されると期待する合理的な理由があっても、Y社には有期雇用契約の更新を拒む特段の事情があったというべきである。

4 なお、有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準第1条によると、Y社は有期雇用契約を更新しないときは、期間満了の日の30日前に雇止めの予告をすべきところ、Y社がこの予告をした主張立証はない。
しかしながら、上記基準は労働基準法14条2項、3項に基づく行政官庁の助言・指導の基準にとどまるから、これに違反する雇止めが直ちに違法になるわけではない上、先行した本件解雇で有期雇用契約の継続を望まないY社の意思は明らかに示されているから、Xに有期雇用契約更新の合理的な期待を抱かせる、又は更新を拒むことの社会通念上の相当性を害するには足りないというべきである。

有期雇用の場合、期間途中で解雇するには「やむを得ない事由」が必要となります。

それゆえ就業規則の解雇事由に形式的に該当する場合でもその程度を慎重に検討しないと今回のようになってしまいます。

また、上記判例のポイント3は重要なので押さえておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。