労働時間46 WEB学習の労働時間性が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、WEB学習等の労働時間性が否定された裁判例を見てみましょう。

西日本電信電話ほか事件(大阪高裁平成22年11月19日・労経速2327号13頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され、平成14年5月からはA社に出向し、平成18年7月からはB社に出向しているXが、Y社に対し、①Y社の全社員販売の取組としてY社が通常の勤務時間外にY社のグループ企業の商品を友人知人に販売したことに要した時間、②通常の勤務時間外にWEB学習に従事した時間が、いずれも、Xが従事した労働時間に当たるとして、平成17年5月から平成19年4月までの間に、Xが上記①②に従事したとする時間及び早朝出勤をして業務に従事したとする時間につき、①時間外手当及び休日手当として382万2320円+遅延損害金、②時間外手当及び休日手当に対する付加金として382万2320円+遅延損害金の支払いを求めた事案である。

原判決は、XのY社に対する請求のうち、早朝出勤は業務上の指示によるものではなく、むしろXは健康上の理由から時間外勤務を禁止されていたことから労働時間とは認められないとしたが、Xは、上記①②に従事したもので、この時間は労働時間に当たると判断し、上記①につき214万3049円+遅延損害金、上記②につき60万円+遅延損害金の支払いを求める限度で認容した。

【裁判所の判断】

原判決中Y社敗訴部分を取り消す。

上記取消部分に係るXの請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 WEB学習は、パソコンを操作してその作業をすること自体が、Y社が利潤を得るための業務ではなく、むしろ、Y社が、各従業員個人個人のスキルアップのための材料や機会を提供し、各従業員がその自主的な意思によって作業をすることによってスキルアップを図るものであるといえる。そのため、単にアクセスする回数を増やしたり時間をかけることに意味があるのではなく、学習効果を上げるところに意味があるのであるから、その成果を測るためには、技能試験等を行うしかないが、Y社において、そのような試験が行われているわけでもない。使用者からしても、各従業員が意欲をもって、仕事に取り組み、仕事に必要な知識を身につけてくれることは重要であるから、WEB学習を奨励し、目標とすることを求めるものの、その効果は各人の能力や意欲によって左右されるものであるから、WEB学習の量のみを捉えて、従業員の評価をすることに意味はないのであって、WEB学習の推奨は、まさに従業員各人に対し自己研鑽するためのツールを提供して推奨しているにすぎず、これを業務の指示とみることもできないというべきである。
したがって、WEB学習の上記のような性質・内容によれば、これに従事した時間を、労務の提供とみることはできないというべきであり、これを業務の一環として実施するよう業務上の指示がなされていたとも評価できないことから、XがWEB学習に従事した時間があったとしても、それをY社の指揮命令下においてなされた労働時間と認めることができない。

研修会や勉強会の労働時間性が問題となることがありますが、それも強制なのか任意なのかがポイントとなってきます。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。