解雇255 母が原告の帰宅時間を記録したメモに基づき残業時間を認定した事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、休職満了後の退職扱い無効地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

エターナルキャスト事件(東京地裁平成29年3月13日・労判ジャーナル70号50頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に正社員として雇用され、経理業務等を行っていたXが、Y社の代表取締役であるA、同社の従業員であるD及びEから違法な退職強要、配転命令及び雇用条件変更命令を受けたため、うつ病を発症し、休職を余儀なくされたと主張して、本件雇用契約に基づき、Y社に対し、Y社C営業所において清掃スタッフとして勤務する雇用契約上の義務のないことの確認、平成26年8月27日から本判決確定の日までの賃金月額23万円等の支払を求めるとともに、Y社及びAに対し、不法行為に基づく損害賠償として、各自慰謝料300万円等の支払、将来の退職強要行為の差止めを求めるほか、Y社に対し、同年1月9日から同年5月19日までの間の未払割増賃金合計約32万円等の支払、並びに労働基準法114条に基づく付加金約32万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

雇用契約上の義務のないことの確認請求は却下

雇用契約上の権利を有する地位確認は認容

未払賃金等支払請求、慰謝料請求は一部認容

未払割増賃金及び付加金請求は認容

【判例のポイント】

1 Xは、業務上の事由による傷病により就業できなくなったものであり、就業規則所定の「業務外の傷病」には当たらない上、労働基準法19条1項の趣旨に照らすと、休職期間満了に伴い当然退職扱いは許されないから、Y社のXに対する本件雇用条件変更命令の発令は認められないものの、Y社は、Xが休職期間満了に伴い退職したとして、本件雇用契約の終了を主張していることからすれば、XのY社に対する地位確認請求は、Xが、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める限度で理由があり、Xは、本件退職強要行為2ないし4により、うつ病が重篤化して就労ができなくなったのであり、本件休職期間中の労務提供の不履行は、使用者であるY社の責に帰すべき事由によるものであるから、Xは、民法536条2項に基づき、Y社に対する賃金請求権を有する。

2 Y社は、Xが時間外労働をしていることについて認識しながら、特段これを禁止することなく、黙認しているような状況であったことからすれば、Y社のXに対する黙示の業務命令があったものと認められ、Xは、Y社に対し、業務に従事した時間について、時間外、休日及び深夜の割増賃金の請求をすることができ、また、残業時間一覧表は、Xの母がXからの帰宅の連絡を記録したメモを基にして作成されたものであり、入退館一覧表と必ずしも一致するものではないが、矛盾するところもなく十分に信用することができること等から、未払割増賃金は、合計約32万円となる。

上記判例のポイント2では、使用者の黙示の業務命令を認定した上で、残業時間について、Xの母がXからの帰宅の連絡を記録したメモに基づき認定しています。

使用者側で労働時間の管理をしっかりしていない場合には労働者側の何らかの記録に基づき認定されることがありますので注意しましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。