労働時間49 携帯電話の貸与と自宅待機の労働時間性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、事故対応のために携帯電話を貸与された場合の労働時間該当性に関する裁判例を見てみましょう。

都市再生機構事件(東京地裁平成29年11月10日・労経速2339号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されているXが、携帯電話を渡され、休日も3時間以内に現地集合できるように指示されていたので、休日に待機していたとして、主位的に時間外手当の支払を求め、予備的に不法行為に基づき手当相当額の財産的損害及び慰謝料の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 不活動時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである。そして、当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である(最判平成24年2月28日、同平成19年10月19日)。

2 Y社からXに対し本件施設に3時間以内に到着できるよう自宅又はその周辺に待機するよう明示の指示はなかったと認められる。また、本件マニュアルのうち、本件資料には「(連絡)~3時間」に現地に集合する旨の記載はあるが、上記のとおり、本件資料の本件職場総務課長以外の者が行うべき対応の記載を見ても、1時間以内に本社へ出社、3時間以内に本社に到着などと記載されている者がおり、これらの者が全て記載された時間内に到着できるよう休日に待機を指示されていると解されるものではなく、本件マニュアルの他の資料を見ても「現地に赴く(できる限り早く)」などとなっているのであるから、本件資料は、事故等が起きたときの対応の目安を記載したものと解するのが自然である。
本件資料のみを見れば3時間以内に現地集合が必要と解釈することができないこともないが、3時間以内に現地集合するための待機の必要性について疑問があればXは容易に質問できたはずであり、それを妨げる事実は認められない上、本件業務に関して行われた4月3日のC所長からの説明、同月9日の合同ミーティング、同月20日頃のC所長からの説明、同月23日及び21日の安全衛生管理に関する研修会、毎月の時間外勤務の報告など待機の必要性の有無を確認しやすい機会が多数あったにもかかわらず、同年12月4日まで行われていない。これはXとしても本件資料により待機が指示されていたわけではないと理解していたことを推測させる(Xの認識がいかなるものであったとしても、本件資料により休日の待機が指示されていたとは認められない。)。
さらに、Y社貸与の携帯電話の携帯を指示されたからといって、当該携帯電話に連絡があるのは事故等が起こった場合のことであり、利用者からの問合せのように通常起きることが予測されているものではなく、平成25年度から平成27年度を見ても1件も連絡が必要となる事故等は起きておらず、Xが本件業務を担当している期間にも当該携帯電話にメールや電話があったことはなかったのであるから、業務の性質としても待機が必要なものとはいえず、待機の指示があったとはいえない
緊急連絡網にY社貸与の携帯電話番号よりも自宅の電話番号の方が上に記載されていることについては、Y社が携帯電話を貸与しているのであるから、自宅にいなくてもY社貸与の携帯電話へ連絡があると考えるのが自然であるから、これにより自宅待機を指示されていたとはいえない
Xが休日に常に自宅に待機していたわけではなく、外出していたことを認めていることからしても、Xとしても自宅待機の指示はなかったと認識していたといえる。
加えて、XはC所長から休日に登山に出かけると事前に言われることがあり、その時は必ず自分が対応できるようなおさら気が休まらなかったと供述しているが、本件資料によればXとは別にC所長も3時間以内に出社となっているにもかかわらず、休日に待機せずに外出していたことをXは認識していたのであるから、かかるXの供述は、かえって本件業務の担当者が待機不要であることをXが認識していたことを裏付ける
したがって、Xは、本件業務を担当していたとしても、休日につき、労働からの解放が保障されていたというべきであり、使用者の指揮命令下に置かれていたとはいえないから、Xの主張する時間外労働は労働時間とはいえない。

事実認定の点で非常に参考になりますね。

手待時間に該当するかについてはよく訴訟でも争点となるところですので是非参考にしてください。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。