労働時間50 携帯電話を保有する営業社員に事業場外みなし労働時間制の適用の可否(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、携帯電話を保有する営業社員に事業場外みなし制の適用が認められた事案について見てみましょう。

ナック事件(東京地裁平成30年1月5日・労経速2345号3頁)

【事案の概要】

Xは、株式会社であるY社に勤務する営業担当社員であったところ、Y社は、平成25年12月19日、Xに自宅待機を命じた上、「Xが、顧客に対し、虚偽の契約条件を説明し、Y社の印鑑を悪用して作成した書面を提示するなどの不正な営業活動を行って、顧客との間で不正に契約を締結しながら、正当に契約が成立したかのように装って、Y社から契約実績に応じた成績給を詐取し、業務上の混乱及び経済的損害を与えた」旨の理由を主張して、遅くとも平成26年3月4日までにXを懲戒解雇した。

本訴事件、反訴事件は、解雇前の労働契約関係及び解雇理由とされた不正な営業活動に関連して、それぞれ賃金や不当利得、損害賠償等を請求する事案である。

【裁判所の判断】

事業場外みなし労働時間制の適用肯定

【判例のポイント】

1 労働基準法38条の2第1項によれば、事業場外労働みなし制を適用するためには、「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事し」,かつ「労働時間を算定し難い」ことを要する。
この「労働時間を算定し難い」ときに当たるか否かは、業務の性質、内容やその遂行の態様、状況等、使用者と労働者との間で業務に関する指示及び報告がされているときは、その方法、内容やその実施の態様、状況等を総合して、使用者が労働者の勤務の状況を具体的に把握することが困難であると認めるに足りるかという観点から判断することが相当である(最判平成26年1月24日参照)。
なお、携帯電話等の情報通信機器の活用や労働者からの詳細な自己申告の方法によれば労働時間の算定が可能であっても事業場外労働みなし制の適用のためには労働時間の算定が不可能であることまでは要さないから、その方法の実施(正確性の確認を含む。)に過重な経済的負担を要する、煩瑣に過ぎるといった合理的な理由があるときは「労働時間を算定し難いとき」に当たるが、そのような合理的な理由がないときは使用者が単に労働時間の算定を怠っているに過ぎないから、「労働時間を算定し難いとき」に当たらないというべきである。

2 ①Xは、営業担当社員として事業場(支店)から外出して複数の都道府県にまたがって顧客のもとを訪問する営業活動に従事することを主要な業務としていたこと、
訪問のスケジュールは上司が具体的に決定することはなく、チームを構成する原告ら営業担当社員が内勤社員とともに決定していたこと、
③訪問のスケジュールの内容は内勤社員による把握やスケジュール管理ソフト入力である程度共有化されていたが、上司が詳細又は実際との異同を網羅的に把握したり、確認したりすることはなかったこと
④訪問の回数や時間はXら営業担当社員の裁量的な判断に任されていたこと、
⑤個々の訪問を終えた後は、携帯電話の電子メールや電話で結果が報告されていたが、書面による出張報告書の内容は簡易で、訪問状況が網羅的かつ具体的に報告されていたわけではなく、特にXに関しては、出張報告書に顧客のスタンプがあっても本当に訪問の事実があったことを客観的に保証する効果はなかったこと
⑥出張報告書の内容は、添付された交通費等の精算に関する領収書に日時の記載があれば移動の事実やそれに関連する日時は確認できるが、それ以外の内容の客観的な確認は困難であり、Y社から訪問先の顧客に毎回照会することも現実的ではないこと
⑦上司は、Xら営業担当社員に業務の予定やスケジュールの変更につき具体的に指示を出すことはあったが、Xら営業担当社員の業務全体と比較すると、その割合が大きいとはいえないこと
⑧Xら営業担当社員の訪問に上司その他の監督者が同行することはなく、チームを組む内勤社員もXの上司その他の監督者ではなかったこと
⑨Y社は、Xが訪問の際、不当営業活動を繰り返していたことを相当期間把握できないままであったことが認められる。これらの認定事実を総合すると、Xの労働時間の大部分は事業場外での労働であり、具体的な業務の性質、内容やその遂行の態様、状況等、使用者と労働者との間で業務に関する指示及び報告の方法、内容やその実施の態様、状況等に照らして、Y社がXの勤務の状況を具体的に把握することは、かなり煩雑な事務を伴わなければ不可能な状況にあったということができるから、Y社がXの事業場外労働の状況を具体的に把握することは困難であったというべきである。

3 Y社は、カードリーダーで労働時間管理も実施し、朝礼出席も指示しているが、朝礼に出席せず、顧客訪問に直行することもあり、事業場外労働の開始及び終了の各時点をある程度把握可能であるにとどまり、事業場外労働全体の実情を困難なく把握可能であったとはいえない
前掲最判平成26年1月24日で労働時間算定の困難性が否定された事案は、スケジュールの遵守そのものが重要となる旅行日程の管理を業務内容とし、また、ツアー参加者のアンケートや関係者に対する問合せで具体的な報告内容の正確性の確認が可能であり、本件とはかなり事案を異にするものといえる。

4 以上によれば、Xは労働時間の一部について事業場外で業務に従事しており、かつ、Xの事業場外労働は労働時間を算定し難い場合に当たる。

事業場外みなし労働時間制の適用が肯定された例です。

上記判例のポイント2をよく読んでみましょう。

適用範囲はそれほど広くはありません。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。