解雇275 解雇のハードルの高さがよくわかる事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、介護職員の業務命令違反等に基づく解雇に関する裁判例を見てみましょう。

社会福祉法人蓬莱の会事件(東京高裁平成30年1月25日・労判ジャーナル75号44頁)

【事案の概要】

本件は、特別養護老人ホームや老人デイサービスセンターの経営等を目的とする社会福祉法人であるY社との間で労働契約を締結して、特別養護老人ホームに勤務していたXが、Y社から解雇されたことについて、①上記解雇は、客観的に合理的な理由及び社会通念上の相当性を欠き、解雇権を濫用した違法無効なものであると主張して、Y社との間において労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、②Y社に対し、労働契約に基づき、解雇の日の後である平成27年12月1日から本判決確定の日までの賃金+遅延損害金、平成27年12月期の期末手当として47万5326円+遅延損害金並びに平成28年3月から本判決確定の日まで毎年3月末日限り11万8832円、毎年6月及び12月の各末日限り各47万5326円の期末手当の支払を求め、併せて、③上記解雇並びにこれに先立ち被控訴人法人及び社会保険労務士であるY2が共同して行った退職勧奨が不法行為(違法な退職強要)に当たると主張して、Y社らに対し、共同不法行為に基づき、損害賠償金330万円(慰謝料300万円、弁護士費用30万円の合計額)+遅延損害金の支払を求めた事案である。

原判決は、Xの各請求をいずれも棄却し、Xがこれを不服として控訴をした。

【裁判所の判断】

解雇無効

賃金等支払請求は一部認容

損害賠償請求は棄却

【判例のポイント】

1 解雇は継続的契約関係を将来に向かって一方的に解消させるものであるから、仮に解雇事由が存在しても、将来これが解消する可能性があると認められるのであれば、労働契約の継続に支障はなく、解雇するまでの必要はないというべきところ、Xは、本件解雇通知を受けるに先立ち、平成27年には同僚のE看護師からB主任に関する発言について厳しく注意されたにもかかわらず、態度を改めようとはせず、同年4月、8月及び9月の3回にわたりA施設長から呼出しを受け、勤務態度や他の職員との協調性の欠如について問題点を指摘されながら、何ら顧みるところはなく、女性職員が多い職場特有の問題であるなどとして責任を転嫁し、問題の解決をはぐらかそうとする態度に終始したことなど、服務規律違反が改善される見通しがあったとは認められず、Xについて、将来、解雇事由解消の具体的な可能性があるとまでは認めることができない

2 以上のとおり、Xの債務不履行(服務規律違反)は就業規則所定の解雇事由(適格性の欠如)に該当し、将来解消される見通しがあったとはいえないところである。
しかしながら、解雇が労働者にもたらす結果の重大性に鑑み、使用者において解雇回避努力(解雇回避措置)を尽くさない限り、解雇について客観的に合理的な理由があるとはいえないと解するのが相当である。
これを本件についてみると、Xによる服務規律違反は、主として年下の女性上司であるB主任に対する反感及び認知症の進んだ重症度の高い施設利用者を介護対象とする介護課2階の労働環境に起因すると認められ、介護課2階に異動するまでの1年余はさしたる問題行動は見られなかったことにも照らせば、Xを他の部署に配置転換し、他の上司の下で稼働させることを検討すべきであったと解されるところ、A施設長は、平成27年4月ころ、Xに対してデイサービス部門への配置転換を打診したにとどまり、これを超える解雇回避の措置を検討したことを認めるに足りる証拠はなく、介護課2階のほかにXを配置できる部署がなかったと認めるに足りる証拠もない
そうすると、Y社による解雇回避努力(解雇回避措置)が十分に尽くされたとはいえず、本件解雇に先立つ弁明の機会の付与などその余の点につき判断するまでもなく、本件解雇について、客観的に合理的な理由があったと認めることはできない。

3 この点につき、Y社は、業務指導、自宅待機、退職勧奨という一連の手続を経ても、Xは業務改善の要請に応じようとせず、Xを職場に戻すことで職場の秩序が乱れ、他の職員も業務上の指示命令に応じなくなり、介護課2階の責任者であるB主任も退職してしまうなど、本件施設の業務に重大な支障が生じるため、本件解雇はやむを得なかったと主張する。
しかしながら、この主張は、Xをそのまま介護課2階に配置することを前提としたものであり、前示のとおり他の部署へ配置転換することで解雇を回避できる可能性を否定できない以上、採用することができない。

4 Xは、Y社らによるXに対する退職強要及び不当解雇が不法行為に該当すると主張し、本件解雇及びこれに先立つ退職勧奨により精神的苦痛を受けたことによる損害賠償として慰謝料及びこれに関する弁護士費用の支払を求める。
そこで判断するに、本件解雇は前記のとおり無効であるが、これによる損害は、Xが復職し、それまでの未払賃金が支払われることで回復されるものと認められ、これを超えて本件解雇により慰謝料請求権が発生するものとすべき特段の事情があると認めるに足りる証拠はない。
加えて、本件においては、解雇事由の存在を否定できず、Xによる服務規律違反の状態が改善する見通しがあったとはいえないのであるから、Y社において、本件施設の秩序維持及び業務遂行の必要から、Xに退職勧奨をし、最終的に普通解雇を選択したこと自体は理解できるところであり、その過程におけるY社らの行為に違法とすべき点はなく、解雇回避努力(解雇回避措置)を尽くさなかったことから直ちに控訴人に慰謝料請求権を認めるべき共同不法行為が行われたものともいい難い。

解雇のハードルの高さを感じずにはいられませんね。

上記判例のポイント1を読むと、会社側の苦労がよくわかります。

会社とすれば、配置転換しても解決しないと考えるでしょうね・・・。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。