労働者性22 元代表者の労働者性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、元代表取締役の労働者性に関する裁判例を見てみましょう。

ネットショップN社事件(高松地裁平成29年4月18日・労判1180号147頁)

【事案の概要】

本件は、Xらが、Y社に対し、XらとY社との間の労働契約に基づき、①時間外労働等による平成25年3月から12月までの割増賃金、②労働基準法114条に基づく付加金、③平成25年の冬季賞与及び④退職金を請求し、⑤いわゆるパワーハラスメントによって精神的苦痛を受けたことを理由とする不法行為、債務不履行(安全配慮義務違反)又は会社法350条に基づく慰謝料及び弁護士費用相当額の損害賠償+遅延損害金の支払を請求した事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 X1は平成25年9月1日以降、Y社の代表取締役として経済紙のインタビューに応じ、また、政策金融公庫に自ら出向き、現に800万円の融資を受け、その連帯保証人になるなど、代表取締役として業務を行っていたと認められる。他方で、残業手当の支給があること等X1が主張する事情は、X1とY社との間の労働契約関係の存在を推認するに足りない。

2 勤怠報告書は、Y社が労働時間管理に用いていたものではなく、Xらが平成27年5月22日に本訴を提起するに先立ち、自身の記憶に基づいて作成したというのであるから、客観的な資料とは言い難く採用できない
Xらは、Y社がY社事務所の入退室記録の開示を拒み、Xらの立証活動を妨害したというが、入退室記録から直ちにXらの個々の出退勤時刻が明らかになるわけではなく、開示を拒んだことが直ちに立証活動の妨害とは評価できない。また、Y社が従業員の労働時間を管理していたとは認められないものの、Xらの時間外労働を概括的に推認させる証拠すらない以上、Xらの主張は採用できない。

ときどき代表者の労働者性が問題となることがありますが、かなりハードルは高いですね。

また、使用者が適切に労働時間の管理をしていない場合、労働者側としては、そのことを理由に概括的な認定を要求しますが、裁判所としてもある程度判断の拠り所になる資料がないといかんともしがたいと考えるのです。

ここは難しいところで、この考えを突き詰めると、結局、ちゃんと労働時間を管理している使用者の方が不利になるように思えて、正直者がバカを見る感じになります。

和解でなんらかの解決が可能であればいいのですが、判決まで行くと今回の裁判例のような判断も十分考えられるので、注意が必要です。

労働者性に関する判断は本当に難しいです。業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。