Daily Archives: 2018年10月11日

解雇279 産業医意見の信用性が否定される場合とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、産業医意見の信用性が否定され休職期間満了に伴う退職扱いが無効とされた裁判例を見てみましょう。

神奈川SR経営労務センター事件(横浜地裁平成30年5月10日・労経速2352号29頁)

【事案の概要】

本件は、労働保険事務組合であるY社の従業員であったXらが、X1はうつ状態を、X2は適応障害を発症してそれぞれ休職したところ、休職期間満了日の時点で復職不可と判断され自然退職の扱いとされたことについて、主位的には、Xらは復職可能であったことから本件各退職扱いはY社の就業規則の要件を満たさず無効であるとして、予備的には、仮にXらが復職可能でなかったとしても、XらとY社との間の従前の経緯に照らし本件各退職扱いは信義則に反し無効であるとして、Y社に対し、X1は、①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、②給与等の支払をそれぞれ求め、X2は、①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、②給与等の支払をそれぞれ求める事案である。

【裁判所の判断】

退職扱いは無効

【判例のポイント】

1 X1が本件退職扱いAの時点で従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復していたことの証拠としては、うつ状態の病状改善により復職可能とのG医師の診断書(平成27年5月21日付け)があるところ、①X1は、本件休職命令Aの際には、不安、気分の落ち込み、眠れない、食欲不振、考えがまとまらない、死にたいと思う精神状態で、投薬も受けていたが、本件退職扱いAの当時は、睡眠がとれるようになり、食欲も出て、投薬も終わっており、気分の落ち込み、考えがまとまらない、死にたいと思う精神状態も認められなかったこと、②本件面談Aにおいても、X1は、体調がよく、復職の意欲があることを話し、何ら不自然不合理な点は認められず、精神障害が疑われる事情は何らうかがわれなかったこと、③X1は、平成26年10月17日、平成27年1月30日、同年5月11日に行われた第2訴訟の各期日に、何ら問題なく出廷できていることからすれば、上記診断書は、信用できる。
そして、X1は労働保険事務組合関係業務、庶務関係業務等、具体的には、窓口業務、電話対応、書類整理に従事していたところ、これらの業務の内容からすれば、X1は、同年6月7日の本件退職扱いAの当時、従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復していたものと認められる。

2 H医師は、Xらについて、①自分の行動分析も含めて客観的な振り返りができず、冷静に内省できているとは言い難い、②再発予防対策として必須の、組織の一員としての倫理観、周囲との融和意識に乏しい、③自分の症状発現には、組織の対応及び周囲の職員の言動が一義的原因であるとして一貫して組織及び職員を誹謗するに終始したと判断している。
しかしながら、上記判断は、一定の基準ないし価値判断、すなわちXら自身が、Y社や他の職員とのトラブルの原因であるとの見解を前提としたものと解されるところ、第1訴訟が本件和解条項を含む和解で終了していること、第2訴訟もX1の主張が認められ、請求認容判決が宣告され、これが確定していることからすれば、その見解には疑問がある上、本件面談A及び本件面談Bにおいて、XらにH医師の上記評価の根拠となり得るような発言があったとの事情も窺われないことからすれば、H医師の上記評価は、採用できない
H医師は、本件各退職扱いの時点において、X1については、人格障害、適応障害であり、統合失調症の症状も診られると指摘し、X2については、自閉症スペクトラム障害、うつ状態、不安症状、自律神経失調症状があり、依存性の性格傾向があると指摘する。
しかしながら、H医師自身も、上記精神障害の指摘は診断ではなく判断であると述べており、Xらは医学的には病気ではなかったと認めていること、さらに、精神科医であるJ医師が、X1について統合失調症、人格障害であることを否定し、同じく精神科医であるI医師も、X2について自閉症スペクトラム障害、人格障害であることを否定していること、そもそも本件面談Aは1回約40分、本件面談Bは3回で、各回約30分から約40分にとどまり、このような限られた時間での面談により、上記のような判断が可能であるかについても疑問が残ることからすれば、H医師の前記各指摘は、合理的根拠に基づくものであるとは認められず、採用できない
以上によると、Xらが本件各退職扱いの時点で復職不可の状態であったとするH医師の意見書及び証言は、到底信用できない。

休職期間満了時に、主治医意見と産業医意見が相反する場合に会社としてはどのように判断すべきかという問題は、判断がとても難しいですが、よく発生する問題です。

裁判所の考え方を踏まえて、慎重に対応しましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。