労働災害94 新人研修における事故と安全配慮義務違反(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、新人研修における歩行訓練後の後遺症と安全配慮義務違反の有無等に関する裁判例を見てみましょう。

サニックス事件(広島地裁福山支部平成30年2月22日・労判1183号29頁)

【事案の概要】

XがY社に入社して新人研修を受けたが、研修カリキュラムの1つである24キロメートルの歩行訓練を受けた際に、右足及び左足を負傷したとして、主位的には、Y社の安全配慮義務違反が過失を構成するとして、不法行為に基づき、損害賠償と歩行訓練の日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを請求したもので、予備的には、Y社の安全配慮義務違反が債務不履行を構成するとして、損害賠償とY社に対して請求した日の翌日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを請求した事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、2222万4145円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 健康状態チェック表等でY社は参加者の体調を把握しようとしており、業務日報の記載からa訓練であまり無理をしないよう講師が述べていることが認められ、Y社が全く参加者の体調等に配慮していなかったわけではない。
しかし、Y社は、研修参加者の外出を禁止しており、参加者が自己の意思で医療機関を受診する機会を奪っているにもかかわらず、発熱者が出たときの対応でも明らかなように、Y社側から医療機関を受診させることに積極的ではない
a訓練は、参加者全員が完歩することを目的としており、参加者の年齢が幅広く、体力にも大きな差があるにもかかわらず、個人差や運動経験の有無等に全く配慮していない点で、無理があるプログラムである
そして、Xが歩行訓練中に転倒して右足関節を痛め、歩行訓練の中断や病院受診を求めても、これを拒絶して歩行訓練を継続し、a訓練に参加させたことが、Xの現在の症状の原因となっていること等に照らすと、Y社には、債務不履行の原因となる安全配慮義務違反が存在したと認められる。
Y社は、Y社にとって望ましい社員を選別するための手段としてa訓練を用いる意向があるかも知れないが、仮にそうであれば、その際に負傷した参加者に対しては、責任を負わなければならない。
なお、上記のとおりY社が参加者の安全について一定の配慮をしていることに照らすと、不法行為の原因となる過失があったということはできない

2 Xの足関節、膝関節には、軽度の変形性関節症が認められるが、軽度であり、Y社の研修に参加する前にはXには何も症状がなかったこと、軽度の変形性関節症がXの治療の長期化とどのように影響したか不明であること等に照らすと、素因減額を要するほどの素因に該当するとはいえない。
なお、Xは、肥満体であることが認められ、体重が重いために膝関節、足関節にかかる負荷が大きくなってXの傷害の悪化、長期化に影響したことが予想されるが、病的肥満といえる程度には達していない。
したがって、Xの肥満は病的ではないから、素因には該当せず、素因減額を検討することはできない。

3 本件は、債務不履行に基づく請求であり、弁護士費用の請求は認められない。

ニュースにもなった事案です。

認容額がかなり高額ですね。

みんながみんな体育会系ではないので、このような研修(?)はやはり避けるべきですね。

労災発生時には、顧問弁護士に速やかに相談することが大切です。