Daily Archives: 2019年2月5日

解雇292 職場内での録音禁止命令への違反と普通解雇(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、職場内での録音禁止命令への違反等を理由とする普通解雇に関する裁判例を見てみましょう。

甲社事件(東京地裁立川支部平成30年3月28日・労経速2363号9頁)

【事案の概要】

1 本訴請求

本訴請求事件は、Y社に期間の定めなく雇用されたXが、Y社に対し、Xに対する平成28年6月27日付け普通解雇は無効であると主張して、Xが労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、平成28年7月分以降の賃金+遅延損害金の支払を求めた事案である。

2 反訴請求

反訴請求事件は、別紙物件目録記載の建物(A寮)を所有するY社が、Xに対し、Xが本件普通解雇によりY社の従業員たる地位を失ったことを前提に、社宅使用契約の終了に基づき、A寮の一室で社宅である別紙物件目録記載の建物部分(本件社宅)の明渡しを求めるとともに、明渡期限の翌日である平成28年7月12日から本件社宅の明渡済みまで1か月9500円の割合による使用料相当損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

本訴請求はいずれも棄却

Xは、Y社に対し、本件社宅を明け渡せ。

Xは、Y社に対し、平成28年7月12日から前項の明渡済みまで、1か月9500円の割合による金員を支払え。

【判例のポイント】

1 企業にとって納期の遵守が信用の確保などの点で重要であることは、社会通念上明らかであり、被用者は、納期に終了していない業務があるのであれば、定時に帰宅する場合であっても、少なくとも、定時前ないし帰宅前に上司等にその旨を報告し、必要な引継ぎを行うべき雇用契約上の義務を負うものと解される。
しかし、Xは、納期が翌日の業務があるにもかかわらず、それを自分で完成させることも、必要な報告・引継ぎを行おうとすることもなかったばかりか、指導係からの注意にも何ら応答せずに帰宅しているのであって、従業員としてなすべき基本的な義務を怠り、これについての注意や指導を受け入れない姿勢が顕著で、改善の見込みもないといわざるを得ない。このことは、Xが本人尋問において、納期が明朝朝一番に迫っていても残業命令がない限りは定時に帰り、命令がない限りはその旨を報告する必要もないと明言していることからも顕著であり、Y社がこのようなXに任せられる仕事はないなどと判断したのも、やむを得ないものである。

2 Xは、Y社において、就業規則その他の規定上、従業員に録音を禁止する根拠がないなどと主張する。しかし、雇用者であり、かつ、本社及び東京工場の管理運営者であるY社は、労働契約上の指揮命令権及び施設管理権に基づき、被用者であるXに対し、職場の施設内での録音を禁止する権限があるというべきである。このことは、就業規則にこれに関する明文があるか否かによって左右されるものではない
また、Xは、録音による職場環境の悪化について、具体的な立証がないなどと主張する。しかし、被用者が無断で職場での録音を行っているような状況であれば、他の従業員がそれを嫌忌して自由な発言ができなくなって職場環境が悪化したり、営業上の秘密が漏洩する危険が大きくなったりするのであって、職場での無断録音が実害を有することは明らかであるから、Xに対する録音禁止の指示は、十分に必要性の認められる正当なものであったというべきである。
さらに、Xは、Y社において秘密管理がなされていなかったとして、録音を禁止する必要性がなかったなどと主張する。しかし、Y社が秘密情報の持ち出しを放任しておらず、その漏洩を禁じていたことは明らかであり(就業規則7条)、Xが主張するような一般的な措置を取っているか否かは、情報漏洩等を防ぐために個別の録音の禁止を命じることの妨げになるものではないし、そもそも録音禁止の業務命令は、上記によれば、秘密漏洩の防止のみならず、職場環境の悪化を防ぎ職場の秩序を維持するためにも必要であったと認められるのであって、Xの主張は、採用することができない。

3 以上を総合すれば、Xは、もともと正当性のない居眠りの頻発や業務スキル不足などが指摘され、日常の業務においても、従業員としてなすべき基本的な義務を怠り、適切な労務提供を期待できず、私傷病休職からの復職手続においても、目標管理シート等の提出においても、録音禁止命令への違反においても、自己の主張に固執し、これを一方的に述べ続けるのみで、会社の規則に従わず、会社の指示も注意・指導も受け入れない姿勢が顕著で、他の従業員との関係も悪く、将来の改善も見込めない状況であったというべきである。
これによれば、Y社が「著しく仕事の能率が劣り、勤務成績不良のとき」及び「その他前各号に準ずる程度のやむを得ない事由があるとき」(就業規則79条4号、9号)に該当するとして行った本件普通解雇は、客観的に合理的な理由を欠くとも、社会通念上相当でないとも認められない。したがって、本件普通解雇は、解雇権を濫用したものとはいえないから、有効というべきである。

録音禁止命令については特段の事情がない限り、使用者が業務命令として行うことが認められます。

また、解雇事件において、労働者が社宅に居住し続けながら訴訟を行う場合、本件のように反訴を提起されます。解雇が有効となった場合には、遡及して賃料支払義務を負いますので注意が必要です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。