解雇301 賃金減額合意の有効性判断(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、能率低下等を理由とする解雇無効地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

ネクスト・イット事件(東京地裁平成30年12月5日・労判ジャーナル86号50頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、平成27年4月の賃金減額及び平成28年4月の解雇は、いずれも理由がなく無効であるとして、雇用契約に基づき、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、解雇後の賃金として、雇用契約に基づき、平成28年6月から本判決確定の日まで、毎月末日限り、賃金減額前3か月間の平均である月額約32万円等の支払、Y社による解雇は不法行為にも当たるとして、不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料100万円等の支払並びに同意なく減額された平成27年4月分から平成28年4月分までの賃金の差額分として、雇用契約に基づき、約114万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇は有効

賃金減額は無効

【判例のポイント】

1 本件給与体系変更に対するXの同意は、賃金の減額に対する同意であり、賃金債権の一部放棄に対する同意と同視できるから、Xの同意が、自由な意思に基づくものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときに有効となるところ、Xは、Y社従業員から本件給与体系の変更を告げられた際、給与の減額になることを明確に認識したうえで、入社前に聞いていないなどとして受け入れない意思を表明し、その後総務部長から送信されてきた給与についての確認書には、職を失わないために渋々署名押印したことなどを踏まえると、Xの本件給与体系変更に対する同意が自由な意思に基づくものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとは認められないこと等から、本件給与体系変更による賃金の減額は無効であり、Xは、Y社に対し、減額された賃金分の支払請求権を有する。

2 本件解雇は、Xが、誠実に営業活動を行わなかったことにより営業成績が悪かったことを理由とするもので、Y社の就業規則所定の解雇事由である「能率が著しく低下し、または向上の見込みがないと認めたとき」に該当し、実体面での理由は十分に存在すること、XのY社に対するスケジュールの報告に虚偽が相当数含まれており、訪問していないにもかかわらず交通費の精算を行ったものもあることを考慮すると、XとY社との信頼関係は破壊されているといわざるを得ないこと、解雇に向けた具体的な指導や警告が存在しない手続上の問題は、Y社の営業社員が全員経験豊富な中途採用社員であり、毎週営業会議を行っていたという状況の下では、Xの営業活動に対する不誠実さや営業成績の悪さを凌ぐものとはいえないというべきであることを踏まえると、本件解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当である。

上記判例のポイント1については、特に注意が必要ですね。

とりあえず同意さえとれば何でも有効と考えるのはやめましょう。実務ではそういう取扱いはしていません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。