賃金166 賃金減額合意の有効性判断(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、賃金減額合意無効等に基づく未払賃金等支払請求に関する裁判例を見てみましょう。

エムスリーキャリア事件(大阪地裁平成31年1月31日・労判ジャーナル86号28頁)

【事案の概要】

本件は、医療従事者の有料職業紹介事業等を目的とするA社の元従業員Xらが同社との間で賃金を減額する合意をしたところ、Xの賃金減額の意思表示がA社の詐欺によるものであるからこれを取り消す、あるいは、動機の錯誤に基づくものであるから無効であるとして、A社を吸収合併したY社に対し、雇用契約に基づき、それぞれ未払賃金及び賞与計約404万円等の支払を求めるとともに、A社の役員による上記欺罔行為が故意にXらの権利ないし法益を侵害するものであるとして、不法行為(使用者責任)に基づき、それぞれ賃金及び賞与相当額等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xが月額45万円(平成26年5月以降は月額45万5000円)の支給を受けており、Xの給与明細においては基本給45万円又は45万5000円と表示されていたこと、本件説明書においても「就業規則での」「報酬約25万円に上乗せして」「高い給与・報酬が得れる形態になっている」、「現行の高め給与設定」などと上乗せ部分が給与であることを前提とする記載があることからすると、Xの賃金額をそれぞれ月額45万円などとする黙示の合意があったと認めるのが相当であり、また、賞与については、平成26年11月以前に春季賞与として80万円、夏季賞与として40万円が支払われた事実は認められるものの、就業規則上、会社の業績等を勘案して支給され、やむを得ない事由により、支給時期が延期し、又は支給しないことがあると定められておりその支給条件が予め明確に定められていると認めるに足りる事情もないから、恩恵的給付であって賃金ではないから、具体的権利としては発生しておらず平成27年の夏季賞与及び平成28年の春季賞与額の請求は認められない

2 A社の業績悪化については、本件説明書にそのような記載がなく、Dがそのことを説明したと認められず、仮に、Xが、本件説明書の「支払不能」や「倒産」等の言葉のみを捉えて、A社の業績が悪化していると思って賃金減額に応じたのだとしても、そのような動機が表示されているとは認められず、また、XがA社の役員報酬も減額されるものと誤信したとしても、業績が悪化して賃金減額を依頼する場合であればまだしも、そうでない状況において、労務提供の対価である賃金の額を決めるにあたり、役員の報酬がいくらかは重要であるとまではいえず、法律行為の要素に錯誤があったとは認められないこと等から、Xの錯誤無効の主張には理由がない。

上記判例のポイント2のようなトラブルは日常的に起こり得ますが、動機の錯誤の問題ですので、なかなか無効と判断されることは多くありません。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。