賃金167 育休取得者に対する昇給抑制の違法性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、育児休業取得労働者に対する昇給抑制の違法性に関する裁判例を見てみましょう。

近畿大学事件(大阪地裁平成31年4月24日・ジュリ1534号4頁)

【事案の概要】

Xは、大学等を設置、運営する学校法人であるY社との間で、平成24年、期間の定めのない労働契約を締結し、講師となった。

Xは、平成27年11月から平成28年7月まで育児休業をしたところ、Xは、平成28年度の定期昇給がなされず、同年8月の復職後における本俸においても従前の号俸のままであった。当時のY社の旧育休規程8条は、「休業の期間は、昇給のための必要な期間に算入しない。昇給は原則として、復職後12か月勤務した直近の4月に実施する」と定めていた。

そこでXは、Y社に対し、Y社がXが育児休業をした平成28年度にXを昇給させなかったことなどが、いずれも違法でありXに対する不法行為になる旨主張して損害賠償請求をした。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 給与規程12条に基づく定期昇給は、昇給停止事由がない限り在籍年数の経過に基づき一律に実施されるものであって、いわゆる年功賃金的な考え方を原則としたものと認めるのが相当である。しかるに、旧育休規程8条は、昇給基準日前の1年間のうち一部でも育児休業をした職員に対し、残りの期間の就労状況如何にかかわらず当該年度に係る昇給の機会を一切与えないというものであり、これは定期昇給の上記趣旨とは整合しないといわざるを得ない。そして、この点に加えて、かかる昇給不実施による不利益は、上記した年功賃金的なY社の昇給制度においては将来的にも昇給の遅れとして継続し、その程度が増大する性質を有することをも併せ鑑みると、少なくとも、定期昇給日の前年度のうち一部の期間のみ育児休業をした職員に対し、旧育休規程8条及び給与規程12条をそのまま適用して定期昇給させないこととする取扱いは、当該職員に対し、育児休業をしたことを理由に、当該休業期間に不就労であったことによる効果以上の不利益を与えるものであって、育児介護休業法10条の「不利益な取扱い」に該当すると解するのが相当である。
そうすると、Y社が育児休業をしていたXについて、旧育休規程8条及び給与規程12条を適用して定期昇給の措置をとらなかったことは、育児介護休業法10条に違反するというべきである。

2 給与規程12条による定期昇給は、年数の経過により基本的に一律に実施されるというものであることに照らすと、職務能力を反映した能力給というよりは、勤務年数に応じた年功賃金の考え方に基づくものと認めるのが相当である。そうすると、一部の期間に法律上の権利である育児休業をしたことによって、残りの期間の勤務による功労を一切否定することまでの合理性は見出し難い(なお、仮に、これを能力給であるとみるとしても、同様に、一部の期間に育児休業をしたことにより、現に勤務した残りの期間における職務能力の向上を一切否定することは困難であるといわざるを得ない。)。
また、育児休業以外の事由による休業の場合にも同様に昇給が抑制されるという事実があったとしても、Xは、上記のとおり本件育児休業をしたことを契機として昇給抑制による不利益を受けたといえるのであるから、本件育児休業とXの不利益との間の因果関係は否定されず、育児介護休業法10条の適用は妨げられない。

妥当な結論だと思います。

同様の制度を採用している会社は気を付けましょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。