労働災害99 従業員の自殺と使用者の予見可能性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、障害者雇用枠採用社員の自殺と業務起因性等に関する裁判例を見てみましょう。

富士機工事件(静岡地裁浜松支部平成30年6月18日・労判1200号69頁)

【事案の概要】

本件は、知的障害及び学習障害を持つXが自殺したことにつき、亡Xの両親である原告らが、亡Xを雇用していたY社に対し、亡Xの自殺はY社による障害への配慮を欠く対応等が原因であり、Y社には雇用契約に基づく安全配慮義務違反及び注意義務違反があると主張して、債務不履行及び不法行為に基づき、原告ら各自に損害金4012万9773円+遅延損害金の支払いをそれぞれ求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件手順書も、一般的には作業内容を細分化して記載することで作業手順を覚える補助となり得るものと考えられるが、文章から意味を理解することが苦手なXにとっては、かえって混乱と困惑を来す原因となったものと解される。そして、プレス作業は、作業ミスが作業者の安全に直結するものであるところ、Xの上記投稿からは、Xが、安全面においても、本来プレス機での実習に心理的負担を感じていたことが窺える。
これらの事実からすれば、Xにとって、本件プレス機での実習が、その能力に比して過重であり、その心理的負荷は大きかったというべきである。そして、知的障害や発達障害を有する者は、その障害が原因で、頑張っても努力しても努力が報われず、できるようにならないため、無力感や劣等感、自己否定感を抱きやすく、ストレスへの耐性も他の人と比べて低いという見方もあって、鬱病や適応障害といった二次障害に陥りやすいとされていること、Xが自殺したのは、本件プレス機が停止する出来事があった日の翌日の通勤途中であったことを併せてみれば、Xがうつ病などの精神障害を発症していた可能性もないとはいえず、本件全証拠によっても業務以外に自殺の原因となる要因は見当たらないから、Y社の業務に対する心理的負荷がXの自殺を招いたものと推測される

2 たしかに、原告らが主張する②ないし④の事実は、Y社がXにとっての業務の過重性や心理的負荷を認識する契機となり得るものであったことは否定できないが、Xの自殺までプレス作業の実習開始から2週間、金型交換作業(段取り)の実習開始から1週間程度と短く、実労働日数でみるとさらに短いことに加え、Y社におけるXの様子に特段変わったところはなかったことからして、これらの事実をもって直ちに、Xの業務が自殺を招き、あるいは鬱病等の精神疾患や精神障害を発症させ得る業務上の心理的負荷になることを、Y社が予見すべきであったとは言い難い
以上のとおり、Y社には安全配慮義務及び注意義務の前提となる予見可能性があったとは認められない

業務起因性については肯定されましたが、予見可能性が否定された事案です。

労災発生時には、顧問弁護士に速やかに相談することが大切です。