解雇304 弁明の機会を与えなくても解雇は有効?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、代表取締役に対する暴行等と退職慰労金等支払請求に関する裁判例を見てみましょう。

トーア事件(大阪地裁平成31年3月7日・労判ジャーナル88号35頁)

【事案の概要】

本件は、本訴において、Y社の元従業員Xが、①Y社並びにY社の代表取締役であったC及びBが、長年にわたってXに過重労働を強いたため、Xがうつ病に罹患し、精神的苦痛を被ったとして、Y社らに対し、安全配慮義務違反(債務不履行)ないしは不法行為に基づき、慰謝料800万円等の支払、②XがY社を退職したとして、Y社に対し、雇用契約に基づき、退職慰労金約478万円等の支払を求め、反訴において、Bが、Xに対し、①平成24年3月以降平成27年11月まで計約1227万円を支払わせた、②脅迫して計250万円を支払わせた、③Bの顔面を殴打するなどの暴行を加えて傷害を負わせた、④上記平成22年以降の言動に加え、Bの体を縄で縛って写真を撮影するなどしてBの人格権を侵害し、精神的苦痛を被らせたとして、Xに対し、各不法行為に基づき計約1969万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

未払賃金等支払請求棄却

損害賠償等請求一部認容

【判例のポイント】

1 Xは、平成9年以降、Y社から、退職するまでの間、深夜までの残業を強いられ、土日も休むことができなかった旨主張するが、具体的な各日の労働時間の主張・供述がない上、タイムカードのデータを見ても、そのような深夜までの残業を行っていたことは窺われず、そのほかXが残業を行っていたことを裏付けるに足りる証拠はなく、Xが平成9年以降過重労働を行っていたことを認めるに足りる証拠はないから、Y社らの過失によるXの法益侵害ないしY社の安全配慮義務違反Xの主張は、その前提を欠く。

2 Bが、共謀したXらから暴行を受け傷害を負ったと認められ、また、Xによる脅迫等の事実が認められ、これらの認定事実は、少なくとも就業規則懲戒事由に該当すると認められ、さらに、上記各事実について、Y社の代表者に対するものであること、多数回にわたり暴行に及んでいること、肋骨骨折等その結果の重大性、執拗な脅迫の態様、支払わせた金額が大きいこと等に照らせば、本件懲戒解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会的に相当であると認められるところ、Xは、懲戒解雇が弁明の機会も付与することなく行われており、適正手続も欠くと主張するが、上記のとおり、懲戒事由の内容がY社の代表者であるBに対する暴行・傷害であり、脅迫であることに鑑みれば、Y社がXに弁明の機会を付与しなかったからといって、上記相当性を失わせるものではなく、Xの行為は、これまでの勤続の功を抹消するほどの著しい背信行為であるといえるから、Xの退職慰労金請求には理由がない。

上記判例のポイント2は押さえておきましょう。

弁明の機会を与えなかった場合、手続的要件を欠くと争われますが、懲戒事由が重い場合、手続的要件を欠いたとしても、それだけで相当性要件を否定されるわけではありません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。