配転・出向・転籍40 労働条件の不利益変更が認められる場合とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。
13日目の栗坊トマト。葉っぱが大きくなってきましたね!

今日は、配転命令無効等確認及び解雇無効地位確認請求に関する裁判例を見てみましょう。

アルバック販売事件(神戸地裁姫路支部平成31年3月18日・労判ジャーナル89号36頁)

【事案の概要】

本件は、甲事件において、Y社と雇用契約を締結した元従業員Xが、Y社に対し、①配転命令が違法、無効であるとして、A営業所で勤務する義務がないことの確認を求め、また、②(1)雇用契約に基づき、未払賃金・賞与等の支払を求めるとともに、(2)Y社が不当な自宅待機命令及び配転命令を行ったこと等により、多大な精神的苦痛を受けたと主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料等の支払を求め、加えて、③上記②の請求と選択的に、不法行為による損害賠償請求権に基づき、未払賃金及び賞与との差額に相当する損害、上記②(2)の慰謝料等の支払を求め、乙事件において、Xが、Y社が平成27年3月9日に行った解雇は、客観的合理的理由がなく無効であると主張して、雇用契約上の地位の確認を求めるとともに、Y社に対し、雇用契約に基づき、未払賃金・賞与の支払等を求めた事案である。

【裁判所の判断】

配転命令は有効

解雇は無効

未払賃金・賞与等支払請求は一部認容

慰謝料等請求は一部認容

【判例のポイント】

1 Y社が就業規則に基づきXの配転命令権を有すること、また、労働者の採用に際し、勤務地を限定する合意がなされた事情がないことについては、当事者間に争いがないところ、A営業所においては、一人分の欠員が出ていたこと等から、本件配転命令には業務上の必要性が認められ、また、退職勧奨時にXが姫路へ行くと回答していること等からすると、本件配転命令が、Xが退職しなかったことへの意趣返しという不当な動機のみによってなされたものであるとまで認めることは困難であり、さらに、Xが、Xの長女の事情をY社に伝えたと認めるに足りる証拠は存在しないし、妻の乳がんとの関係で本件配転が不利益である事情や、本件配転への異議は一切述べていないことが認められること等から、本件配転命令が、Xに通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を与えるものであったと認めることはできないから、権利濫用に当たるというべき特段の事情は見当たらず、本件配転命令が無効であるとは認められない。

2 Y社は、変更後の就業規則を社内メールの送信や掲示板に掲載する方法で従業員に周知したものと認められるところ、Y社は、不利益の程度が大きい者については調整給を支給しており、本件就業規則変更による従業員の不利益は、著しく大きいとまではいうことはできず、そして、Y社は、遅くともA社が人事制度改革を行うことを発表した時点において、収益を改善する観点からも、A社の子会社としての経営判断の観点からも、A社に倣って労働条件を変更する高度の必要性があったものというべきであり、また、職能資格等級制度自体は、職能資格の上昇によって賃金が上昇するため公平感があり、人事として安定するとともに、労働者のモチベーション維持にもつながり、合理的な制度であり、さらに、Y社は、説明会やメールで従業員に新賃金制度の説明を行うとともに、従前の従業員代表者から通知された新従業員代表者との間で、新賃金制度について合意を形成したことが認められること等を総合して考えると、本件就業規則変更は、有効と認めることができる。

3 Xの取引先への対応に問題があるなどして、取引先との間でトラブルが複数回あったことを認めることはできるが、その全てがXのみを原因とするものであったとは認められないし、当該取引が破談となった、Y社が取引先を失ったなど、Y社の業務全体にとって相当な支障が生じたとか、Y社に大きな損害が発生したという事実も認められないから、解雇に相当するほど重大なものであるとは認めがたく、また、Xの上司が各トラブルの度に注意したことは認められるが、これを受けてXは謝罪をしたりトラブルの原因や今度の対策について報告をしたりしているから、Y社が主張するXの取引先とのトラブルの頻発は、就業規則58条6号「就業状況が著しく不良で就業に適さないと認められるとき」として解雇理由に該当するものとはいえないというべきであること等から、本件解雇は、客観的に合理的な理由があるとは認められず、かつ、社会通念上相当であるとも認められないから、本件解雇は、解雇権の濫用に当たり無効である。

配転命令に関する判断もさることながら、上記判例のポイント2の不利益変更の手続の進め方は参考になりますね。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。