賃金180 長時間労働を理由とする精神疾患未発症事案における損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、長時間労働に従事させたことに対し、疾患未発症でも損害賠償請求が認められた裁判例を見てみましょう。

狩野ジャパン事件(長野地裁大村支部令和元年9月26日・ジュリ1539号4頁)

【事案の概要】

Xは、Y社と、平成24年5月ないし6月に無期労働契約を締結し、Y社の製麺工場で小麦粉をミキサーに手で投入する作業等を行っていた。

Xは、平成27年6月から平成29年6月までの間、平成28年1月と平成29年1月を除く全ての月で月100時間以上(平成28年1月と平成29年1月も月90時間以上、長いときには月160時間以上)の時間外等労働を行っていた。

Xは、Y社に対し、①時間外、休日、深夜労働等に対する未払賃金、②労基法114条に基づく付加金、③長時間労働による精神的苦痛に対する慰謝料等の支払いを求めて提訴した。

【裁判所の判断】

請求一部認容

【判例のポイント】

1 Xは、2年余にわたり、長時間の時間外等労働を行った。Y社は36協定を締結することなく、または、法定の要件を満たさない無効な36協定を締結して、Xを時間外労働に従事させていた上、タイムカードの打刻時刻から窺われるXの労働状況について注意を払い、Xの作業を確認し、改善指導を行うなどの措置を講じることもなかったことによれば、Y社には、安全配慮義務違反があったといえる。

2 Xが長時間労働により心身の不調を来したことを認めるに足りる医学的な証拠はないが、Xが結果的に具体的な疾患を発症するには至らなかったとしても、Y社は安全配慮義務を怠り、2年余にわたり、Xを心身の不調を来す危険があるような長時間労働に従事させたものであるから、Xの人格的利益を侵害したものといえる。Xの精神的苦痛に対する慰謝料は、30万円をもって相当と認める。

上記判例のポイント2は押さえておきましょう。

金額は大きくありませんが、担当裁判官によってはこのような事案でも未払賃金の他に慰謝料も認めます。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。