解雇319 定年後再雇用の期待権侵害と損害賠償額(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、事業所廃止に伴う解雇の有効性と定年後再雇用契約の成否等に関する裁判例を見てみましょう。

尾崎織マーク事件(京都地裁平成30年4月13日・労判1210号66頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、①平成28年3月15日に「同年4月16日をもって解雇する。」旨の解雇通知が解雇権の濫用(具体的には整理解雇の要件を充足していない)から無効であるとして、定年(平成28年8月3日)までの未払賃金+遅延損害金の支払を求めるとともに、②上記①記載の解雇が無効であれば、当然に定年後は再雇用されることが予定されていたとして、再雇用後の労働契約上の地位の確認と、それを前提にした未払賃金+遅延損害金の支払を、それぞれ求めている事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、11万0810円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、137万1447円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、401万0423円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Aセンター閉鎖が決定されたことに伴うXの処遇が平成27年9月から平成28年3月にかけて重要な課題であったところ、その最中にY社東京支店において営業担当社員の新規採用が行われていた事実が認められる。そうすると、経費削減の一環として本件解雇がなされた一方で、Y社東京支店に所属する営業担当社員を2名新規採用するといった対応は、一貫性を欠くものと評価されてもやむを得ない少なくともX側に対して東京支店への配転の打診は行うべきであったといえるところ、それをした形跡も窺われないから、解雇回避のための努力を尽くしたと評価するには至らない。

2 定年後の再雇用(雇用継続)について、再雇用を希望する者全員との間で新たに労働契約を締結する状況が事実上続いていたとしても、労働契約が締結されたと認定・評価するには、強行法規が存在していれば格別、そうでない場合には、賃金額を含めた核心的な労働条件に関する合意の存在が不可欠である。したがって、本件において、XとY社の間で嘱託社員としての再雇用契約締結に関する合意は全く存在しない以上、その契約上の地位にあることも認められない
ただし、Xが、定年後に嘱託社員としてY社に再雇用(継続雇用)されることを期待していたことは明らかであり、Y社において労働者が再雇用を希望した場合に再雇用されなかった例は記憶にないとのY社代表者の供述も勘案すると、Y社は、前記のとおり、違法無効な整理解雇通知をしたものであり、これによってXの雇用継続の期待権を侵害した不法行為責任を負うと言わなければならない。
・・・また、損害発生期間については、定年退職後の再雇用規程の第1条によると、最大で満65歳に達するまで再雇用(継続雇用)されることが期待できるものの、Xの健康状態が5年間維持されるとは必ずしも断定できないことから、控えめに見て少なくとも3年間の更新は期待できるものとして、期待権侵害による損害賠償額は3年分相当額(ただし、3年に対応する中間利息はライプニッツ方式により控除するのが相当である。)と認めるのが相当である。

上記判例のポイント2は十分に気を付けなければいけません。

3年分相当額の賠償額というとかなりの金額になりますので、注意しましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。