労働時間60 バス運転手の待機時間は労働時間?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、バス運転手の待機時間が概ね労働時間にあたらないとされた裁判例を見てみましょう。

北九州市営バス事件(福岡地裁令和元年9月20日・労経速2397号19頁)

【事案の概要】

本件は、Y市の運営する市営バスの運転手として勤務するXらが、それぞれ、Y市に対し、未払時間外割増賃金を含む未払賃金+遅延損害金の支払を求めるとともに、労働基準法114条本文に基づき、上記未払時間外割増賃金と同額の付加金+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 Xらは、乗務員は待機時間中も臨機応変にバスを移動させる必要があったことから、待機時間は手待時間として労基法上の労働時間に当たると主張する。
まず、戸畑駅、折尾駅西口及び折尾駅(北口)の各転回場所については、同時に複数のバスが停止していることがあったものの、運行指示表又は発車順番表により各転回場所で待機するバスの発車時刻を知ることができ乗務員が臨機応変にバスを移動させることができるように常に待機していなければならなかったとはいい難い。確かに、他のバスの遅延や周囲の交通状況により、運行指示表又は発車順番表のとおりに運行することができない場合もあると考えられるが、証拠によれば、これらの転回場所においても、乗務員が待機時間中にトイレ以外の理由でもバスを離れることがあったことがうかがわれ、このことからすると、上記の事情を考慮しても、乗務員が待機時間中に予定外の移動を行わなければならないことが度々あったとは認められないから、これらの事情は上記認定を左右するまでのものとは考え難い。
次に、二島駅の転回場所についても、同時に複数のバスが停止していることがあったものの、平成26年6月のダイヤ改正により、ダイヤ上複数のバスが同時に待機することはなくなった上、証拠及び弁論の全趣旨によれば、同転回場所においては、仮に複数のバスが同時に待機することになったとしても、本来の待機場所及びそれとは異なる場所で待機することができ、その場合であっても他のバスが通過することのできる程度の間隔があったものといえるから、同転回場所において、乗務員が常に待機時間中の突発的な移動に備えておかなければならなかったものとは認め難い
また、本城陸上競技場(待機場側)の転回場所については、後に来たバスが先に出発する場合、先に来たバスは、運行指示表上の指示により、これにより突発的な移動の必要性が生じることを回避することができたと考えられる。確かに、証拠によれば、本来は先に到着しているはずのバスが遅れてきたことにより、そのバスが出発するために、先に到着したバスが転回場所から移動せざるを
得ない状況が生じることがあったと認められるが、証拠及び弁論の全趣旨によれば、同転回場所で複数のバスが同時に待機することは、ダイヤ上平日に各2回あったにすぎないことが認められ、このことに照らすと、上記のような状況が度々生じるものであったとは認められない。そうすると、同転回場所についても、上記のような状況が生じていたことから、待機時間中に乗務員が手待ち状態にあったということはできない

2 以上に述べるところからすると、待機時間は、Xらが主張するところとは異なり、概ね休憩時間と認めるべきものということができる。しかし、これら判示したところに照らしても、例えば、転回時間内に終了できない業務が発生したり、転回場所や始発場所におけるバスの移動等においても、なお労働時間と考えられる時間が全く存在しないとまでは見受けられず、他方において、遅れ報告書の提出が必ずしも普及していない現状に鑑みると、このような労働時間を存しないものとして割り切ることには躊躇を感ぜざるを得ない
また、路線バスにおける一つの系統の運転業務と次の系統の運転業務との間の時間の一部であるという待機時間の性質に鑑みると、その間が短い待機時間においては、仮にその間に実作業が生じなかったとしても、乗務員は、待機時間の開始後直ちに次の運転業務に備える必要があったということができるから、転回時間の存在を考慮しても、乗務員がその前後の労働から解放されていたとはいい難く、むしろ、乗務員は、なおY市の指揮命令下に置かれていたものと評価することができると
いうべきである
そこで、以上に述べるような事情に加え、証拠及び弁論の全趣旨から認められる各待機場所の性質及び待機時間の長さに鑑みて、待機時間の1割を労基法上の労働時間に当たるものと認めるのが相当である。

待機時間の労基法上の労働時間性が問題となっていますが、この裁判例では、割合的に労働時間性を認定しています。

この論点は、いつもとても悩ましいので、参考にしてください。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。