賃金186 通勤経路及び通勤手当の認定方法の妥当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、通勤手当の不当認定等に基づく損害賠償等請求に関する裁判例を見てみましょう。

ダイナス製靴事件(大阪地裁令和元年12月16日・労判ジャーナル96号72頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されて婦人靴売り場の販売員として勤務していたXが、Y社に対して、①不当な通勤経路及び通勤手当の認定により退職を余儀なくされたとして、不法行為ないし債務不履行に基づき、逸失利益37万円及び慰謝料の支払を求めるとともに、②同売り場での勤務中、会社の従業員の過失行為により眼鏡が破損したとして、使用者責任(民法715条)に基づき、眼鏡レンズ購入代金相当額約8万円及び慰謝料(上記①に係るものと合わせて約20万円)の支払を求めた。

原判決は、Xの請求を全て棄却したことから、Xがこれを不服として控訴した事案である。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Xは、最寄りのバス停EからF駅までの距離及び徒歩での所要時間は、本件規定の定めるバス利用条件を満たしているのに、Y社がこれを認めず本件認定をしたことは不当である旨主張するが、給与規程における交通費(通勤手当)に関する定めは、「住居地または勤務箇所から最寄り駅までのルートの定期乗車券または、バス乗車代(往復)×1ヵ月の出勤日数の合計の低い方を支給する」と定めているのであり、Xの自宅の最寄りのバス停からの距離及び徒歩による所要時間を基準としているものではなく、そして、Xの自宅からF駅までの最短距離は2kmを超えず、徒歩による最短の所要時間は25分を超えないものと認めるのが相当であること等から、Y社による本件認定は不当な点はなく、これが不法行為ないし債務不履行に当たるものとは認められず、これを根拠とするXの逸失利益の損害賠償及び慰謝料の請求には理由がない。

2 Xは、本件店舗での勤務中に本件従業員の右肘がXの左こめかみに当たり、Xの眼鏡が破損した旨を主張するが、仮に、Xが主張及び陳述するように、本件従業員の右肘が当たったことにより、眼鏡の弦をつなぐためネジを留めているレンズ部分にひびが入り、時間の問題でレンズが割れ、弦がとれてしまうような明らかな破損状態になったのであれば、生活に不自由が生じ、同眼鏡が高額であるのであればなおのこと、速やかに本件従業員や会社の上司等に報告し、事後対応について話し合うなどしていて然るべきであるところ、実際には1か月余り後に眼鏡レンズを発注ないし購入するのと同時期に、本件従業員に対して金銭的な負担を求めるようになったというのは、不自然な経過であるといわざるを得ず、また、本件記録を精査しても、Xの主張及び陳述する眼鏡の破損に係る具体的状況及び経過を裏付ける的確な証拠も見いだせないこと等から、本件従業員が過失によりXの眼鏡を破損したという不法行為が成立するとは認められず、XのY社に対する眼鏡レンズ購入代金相当額の損害賠償及び慰謝料の請求には理由がない。

上記判例のポイント2のような事実認定は、裁判所がよく行う手法です。

人間なんていつも例外なく合理的に行動するわけではありませんが、裁判所の認定は、人間は常に例外なく合理的に行動することを前提にしていますので(笑)、客観的に見て不合理な事情があると上記のように事実認定をして主張を否定します。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。