賃金195 賃金引下げが有効と判断されるためには?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、賃金引下げ無効未払賃金等支払請求に関する裁判例を見てみましょう。

MASATOMO事件(東京地裁令和2年1月24日・労判ジャーナル100号44頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Y社から、在職中に無効な賃金額の引下げを受け、その引下げ相当額について未払があるほか、Y社において時間外・深夜労働に従事していたところ、時間外労働等に係る割増賃金に未払があるなどと主張して、労働契約に基づき、本件引下げに係る未払賃金92万円等、平成26年6月から平成28年5月までの間の稼働分に係る未払の割増賃金148万円等の支払を求めるとともに、労働基準法114条に基づき、付加金162万円等の支払いを求め、併せ、不法行為に基づき、不当解雇に基づく損害賠償金として損害金500万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、未払賃金179万6371円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、付加金31万7712円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、慰謝料40万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件賃金引下げは、従前Xが受領していた基本給額を約15パーセントも減らすものであったものであり、その下げ幅は大きく、しかも、その賃金引下げ措置が解かれる具体的な目処ないし期限も設けられておらず、恒久的措置としてとられたものと評価せざるを得ず、その不利益性は強いといわざるを得ないところであって、Xが基本給減額(既に発生している賃金の放棄を含む。)に同意し、かつ、その同意が原告の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとも認め難い
この点、Xが直ちに異議を申し述べてこなかった事実があったとしても、服属的関係にある労働者の使用者に対する地位ないし力関係にも鑑みれば、この点から直ちに原告が本件賃金引下げに同意したなどと推認することも相当とはいえない
 
2 Y社には就業規則は設けられておらず、本件労働契約において休職期間満了による退職制度が設けられていたとは認め難い
ところで、本件においてY社は、本件労働契約の終了原因につき、休職期間満了による通知(本件退職通知)が解雇であることは主張せず、その終了原因として休職期間を経過したことによる自動退職のみを主張するものであるところ、Y社には、従業員に対して一定の休職期間を一方的に定め、復職がないままその期間を満了したときに自動退職をさせることのできる労働契約上の権限があるということはできないから、本件退職措置は、権限なくされたものとして無効というほかない。もっとも、Y社は、本件において本件退職措置により本件労働契約が平成28年8月末日をもって終了する旨主張しているところ、Xも、現時点において、その契約終了の効力を争うものではないから、本件労働契約はその時点をもって終了したと認めるのが相当というべきところ、前判示したところに照らせば、これはY社の違法な本件退職措置によるものと認めるべきであり、かつ、本件労働契約上、そのような退職措置をとるべき根拠がないことはY社においても自明で、その認識を持ち得べきものといえるから、そのような行為に及んだ点につき、過失があることも明らかである。
したがって、Y社は、Xに対し、不法行為に基づき、かかる違法な所為によりXについて生じた損害を賠償すべき責任原因があるというべきである。

上記判例のポイント1は、労働条件の不利益変更における裁判所の典型的な判断方法です。

労働事件では頻出の争点ですので、しっかり押さえておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。