解雇333 出産後1年経過していない保育士に対する解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、出産後1年を経過していない保育士に対する解雇に関する裁判例を見てみましょう。

社会福祉法人緑友会事件(東京地裁令和2年3月4日・労判1225号5頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、Y社がXに対してした平成30年5月9日付解雇が客観的合理的理由及び社会通念上相当性があるとは認められず、権利の濫用に当たり、また、均等法9条4項に違反することから無効であると主張して、Y社に対し、①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、②労働契約に基づく賃金支払請求として、平成30年5月から平成31年4月まで及び令和2年6月以降、毎月25日限り、月額賃金22万1590円+遅延損害金の支払、③労働契約に基づく賞与支払請求+遅延損害金、④本件解雇が違法であり、不法行為に当たると主張して、慰謝料等220万円等+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

慰謝料等33万円認容

【判例のポイント】

1 均等法9条4項は、妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者に対する解雇を原則として禁止しているところ、これは、妊娠中及び出産後1年を経過しない女性労働者については、妊娠、出産による様々な身体的・精神的負荷が想定されることから、妊娠中及び出産後1年を経過しない期間については、原則として解雇を禁止することで、安心して女性が妊娠、出産及び育児ができることを保障した趣旨の規定であると解される。同項但書きは、「前項(9条3項)に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。」と規定するが、前記の趣旨を踏まえると、使用者は、単に妊娠・出産等を理由とする解雇ではないことを主張立証するだけでは足りず、妊娠・出産等以外の客観的に合理的な解雇理由があることを主張立証する必要があるものと解される
そうすると、本件解雇には、客観的合理的理由があると認められないことは前記のとおりであるから、Y社が、均等法9条4項但書きの「前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したとき」とはいえず、均等法9条4項に違反するといえ、この点においても、本件解雇は無効というべきである。

2 解雇が違法・無効な場合であっても、一般的には、地位確認請求と解雇時以降の賃金支払請求が認容され、その地位に基づく経済的損失が補てんされることにより、解雇に伴って通常生じる精神的苦痛は相当程度慰謝され、これとは別に精神的損害やその他無形の損害についての補てんを要する場合は少ないと解される。
もっとも、本件においては、育児休業後の復職のために第1子の保育所入所の手続を進め、保育所入所も決まり、復職を申し入れたにもかかわらず、客観的合理的理由がなく直前になって復職を拒否され、均等法9条4項にも違反する本件解雇をされた結果、第1子の保育所入所も取り消されるという経過をたどっている。このような経過に鑑みると、Xがその過程で大きな精神的苦痛を被ったことが認められ、賃金支払等によってその精神的苦痛が概ね慰謝されたものとみることは相当ではない

妊娠・出産・育休中の女性従業員に対する解雇事案は、本件同様、極めてハードルが高いことを認識しましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。