配転・出向・転籍44 職種変更を伴う出向元への復職命令は有効か?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、長年従事してきた業務からの変更を伴う出向元への復職命令について権利濫用が否定された事案を見てみましょう。

相鉄ホールディングス事件(東京高裁令和2年2月20日・労経速2420号3頁)

【事案の概要】

本件、①Y社の従業員であるX1ないし58が、Y社のバス事業がその子会社であるS1社に譲渡されるのに伴い、S1社に在籍出向し、バス運転業務(X19につき車両整備業務)に従事していたところ、Y社から、順次、出向の解除を命じられ(以下「本件復職命令」という。)、バス運転業務(X19につき車両整備業務)に従事することができなくなったが、本件復職命令は、労働協約、個別労働契約に違反し、権利濫用であって、不当労働行為に当たるから、無効であるなどと主張し、Y社に対し、〈ア〉X2及び5を除く個人控訴人らが、バス運転士(X19につき車両整備士)以外の業務に勤務する義務がない労働契約上の地位にあることの確認を求め、〈イ〉個人控訴人らが、不法行為に基づく損害賠償として、それぞれ110万円+遅延損害金の支払を求めるとともに、②A組合が、Y社らに対し、上記①の違法行為により組合員の信頼を喪失したなどと主張し、Y社につき労働協約違反の債務不履行又は不法行為及びY社の代表取締役であるY2につき会社法429条1項又は不法行為に基づく損害賠償として、330万円+遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。

原審はXらの請求をいずれも棄却し、Xらが本件控訴を提起した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 本件労働協約にXらの主張するような不確定期限ないし解除条件が付されていたことを示す文言はないし、定年退職までとか将来にわたってという文言を協約に入れてほしいという要望について、Y社は応じなかったというのであり、本件労働協約の締結に至る労使の協議においても、そのような不確定期限ないし解除条件について合意がされたことをうかがわせる事情はない。本件労働協約が、本件バス事業分社の際のY社の従業員について、S1社への在籍出向とし、労働条件差異について補填を実施することを約すことにより、バス事業に従事するY社所属組合員らの処遇を将来に向けて定めたものであるとしても、そのことをもって、Y社が一定の期間の経過又は一定の解除条件の成就までは出向元への復職を命じないとの合意があったということはできない。さらに、本件労働協約の締結を経て本件バス事業分社がされてから本件提案がされるまで3年半しか経過していないこと、この間、Y社におけるバス事業に係る経営上の見通しについて、本件労働協約が締結された時点と比較して特段の大きな変化があったという事情はうかがわれないことを考慮しても、Y社が、個人控訴人らの出向元として、個人控訴人らに対して復職を命じることができないと解すべき特段の事由があるものとはいえない

2 X19を除く個人控訴人らの職務をバス運転士に限定する職種限定合意があったと認められないことは、前記のとおりである。そして、バス運転士の職種転換の実績において、同意なく職種転換がされた事例が見当たらないとしても、人事異動を円滑に行うためであったとみることができるのであって、これが直ちに本件職種転換合意の成立を裏付けるものとはいい難い。また、本件調整確認書には、職種変更により本給を調整する必要が生じる場合として、自動車運転士から他の職種への変更について自己都合によるものしか記載されていないとしても、これをもって、会社の配転命令により自動車運転士から他の職種に転換することはないとの合意があるとまでは認められない。さらに、出向社員取扱規則において、バス運転士が復職意思の確認手続から除外されたこと、平成18年説明会におけるY社の説明中に、組合員からの「出向協定は3年だが、3年後はどうなるのか。」との質問に対し、「出向の3年は今回も生きている。何らかの理由で復職を望む人がいれば個別に相談に応じる。例えば視力の問題でMが無理ということになれば職変を条件に相談する、といったケースなどだ。」との記載があることについても、本件職種転換合意がなければ、このような規則改正ないし説明はされないものとまではいえず、直ちに当該合意の存在を裏付けるものとはいえない。

3 本件提案当時には、一方でS1社の路線エリアの将来人口は減少することが予想されており、他方でS1社の営業利益をY社の出向補填費が上回っているといったその当時のバス事業を取り巻く状況から、バス事業の収支を改善する必要があったこと自体は否定できず、これらの事情の下で、利用者減が予測され、将来的にも収益増が期待し難い状況であることから、バス事業の収支改善の方策として、出向補填費の削減を図ろうとすることに合理性はあるといえること、本件提案時において、S1社の従業員の約40%がY社からの在籍出向者であり、S1社籍のプロパー社員の平均給与(正社員バス運転士の平成27年の給与の平均値)は約480万円であるのに対し、同じ業務に就いている被控訴人会社からの出向者の平均給与(同上)は約840万円であって、プロパー社員の給与よりも高額であることから、プロパー社員の不満が募っている可能性があり、その他両者の間には、手当の支給条件・方法の違いや、休暇の有無・取得日数・有給無給の違い等にも差異があり、これらを解消し労務管理を効率化するために、Y社からの在籍出向を解消する必要性があること、復職者の再出向についても、相鉄グループ内で再出向の必要性がある会社に再出向させられており、本件復職命令の合理性を基礎付けるものといえること、これらの事情によれば、本件復職命令について、業務上の必要性・合理性があったと認められることは、前記説示のとおりである。

裁判所の事実認定のしかた、反対事実に対する捉え方が非常に参考になります。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。