解雇335 諭旨解雇は無効で普通解雇は有効?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、カッター振り回し行為を理由とする懲戒解雇等の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

日本電産トーソク事件(東京地裁令和2年2月19日・労判ジャーナル102号50頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結した労働者であるXが、Y社から懲戒解雇され、その後予備的に普通解雇されたところ、上記各解雇が懲戒権の濫用あるいは解雇権の濫用に当たり、労働契約法15条、16条により無効であるなどと主張して、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、同懲戒解雇後の賃金として、平成29年5月11日から本判決確定の日まで毎月10日限り23万3200円+遅延損害金の支払を求め、さらに、同懲戒解雇及び同普通解雇がXに対する不法行為に当たるとして、同不法行為により被った精神的苦痛に対する慰謝料として、1000万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、46万6400円+遅延損害金を支払え。
Xのその余の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 Xは、平成29年4月のf部室内のレイアウト変更において、自席がFグループリーダーの横に配置されることに強く反発してこれを拒絶したにとどまらず、同月24日、前日の自己の退社後に席が移動されたことを知るや、G部長に対し、座席配置の変更について配慮のない行為をされ精神疾患を誘発した責任を同部長にとってもらうなどといったメールを送信し、翌25日もG部長に対し同旨の言動をして精神疾患に対する治療費を支払うよう求め、その住所を聞き出そうとしたり、同部長の前に立ちはだかったり、行く手を遮ろうとしたもので、被害妄想的な受け止め方に基づき、身勝手かつ常軌を逸した言動を執拗に繰り返したものといわざるを得ないし、その動機においても酌量すべき点はない。そして、Xは、翌26日も、病院への通院や弁護士の相談に行くための職場離脱を業務扱いにするよう求め、G部長にこれを断られるや、カッターの刃を持ち出してG部長の面前で自らの手首を切る動作をしたものであって、その動機は身勝手かつ短絡的である上、G部長や周囲の職員の対応いかんによっては自傷他害の結果も生じかねない危険な行為であったといえる。また、かかるXの行為によって、周囲の職員に与えた衝撃と恐怖感は大きかったものと推察されるし、2度も警察官が臨場する騒ぎとなったことも軽くみることのできない事情である。
このように、かかるXの一連の行為については、少なくとも、就業規則所定の懲戒事由としての「職務上の指示命令に従わず,職場の秩序を乱すとき」(80条3号)に該当することは明らかであるから、懲戒事由該当性が認められる。そして、前判示のとおりその態様も危険で悪質といえることや、この平成29年4月の部屋のレイアウト変更をめぐる一件以前にも、Xが種々の問題行動を繰り返していたことは前記認定事実のとおりであることからすれば、Xに対しては、相当に重い処分が妥当するといえないではない
しかしながら、他方で、G部長の適切な対応によるものとはいえ、この件によって傷害の結果は発生しなかったものであることや、前記認定事実のとおり、カッターの刃を持ち出したXの行為が自傷行為の目的に出たものであって、G部長や他の職員に向けられたものでなく、そのことはG部長も認識し得る状況にあったこと、前記のとおり、かかる行為が自己の要求を通すための自演であると認めるに足りる証拠はないこと、前記認定事実のとおり、Xが、gグループにおいて当初は種々雑多な業務に問題なく従事し、このうち、蛍光灯の掃除については約2000本にわたる蛍光灯をもう1名の社員と分担して行うなど、真摯な姿勢で業務に従事していた時期もあること、このレイアウト変更をめぐる件以前にも、Xに種々の問題行動があったことは前記認定事実のとおりであるものの、Xには懲戒処分歴はなかったことなど、Xにとって有利に斟酌すべき事情も認められる。このような事情をも勘案すると、1度目の懲戒処分でXを直ちに諭旨解雇とすることは、やや重きに失するというべきである。
以上のとおり、本件諭旨解雇及びそれに伴う本件懲戒解雇については、懲戒処分としての相当性を欠き、懲戒権の濫用に当たるものであって、労働契約法15条により無効であると認められる。

2 Y社は、平成29年7月11日付けで予備的に本件普通解雇の意思表示をしていることから、同解雇の効力について検討する。
前記認定事実のとおり、Xは、Y社入社直後に配属されたaグループ在籍時において、顧客との対応がうまく行かなかった時などに顧客に対し声を荒げるなどのトラブルを起こし、上司や先輩社員からの注意に対しても感情を高ぶらせるなどして、顧客との接点の少ないあるいは接点のない部署に異動を命じられたものの、そのような部署であるc事業管理部やe部においても同僚職員や上司との間でもトラブルが絶えなかった。Xは、その後、f部に異動となり、約2年以上に及ぶ出向先開拓の期間を経て、f部・gグループに配属されたが、ここでも、配属後しばらく経った後から、気に入らない業務については断ったり、他の従業員とのトラブルを起こすようになり、遂に前記で判示したとおりの平成29年4月のレイアウト変更に端を発する事件を引き起こしたものである。
このように、Xが、入社後配属された複数の部署においてトラブルを起こし、最終的に職場でカッターの刃を持ち出すなどの事件を起こしたことからすれば、Y社としては、このように職場秩序を著しく乱した原告をもはや職場に配置しておくことはできないと考えるのはむしろ当然であるといえ、かつ、それまでにも、Y社が、トラブルを起こすXに対し、その都度注意・指導を繰り返し、いくつかの部署に配転して幾度も再起を期させてきたことは、前記認定事実に照らし明らかであって、もはや改善の余地がないと考えるのも無理からぬものということができるから、本件普通解雇は、客観的に合理的な理由があり、かつ、社会通念上も相当であると認められる。

諭旨解雇は相当性の要件を欠き無効と判断されている一方で普通解雇は有効とされた事案です。

同じ解雇でもこのように結論が分かれることがわかる非常に勉強になる裁判例ですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。