賃金204  営業手当を固定残業代として支払う場合の要件とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、営業手当を固定残業代の支払として有効と判断された裁判例を見てみましょう。

H事務所事件(東京地裁令和2年3月27日・労経速2423号39頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、いわゆる法内残業や法定時間外労働等を行ったとして、労働契約に基づく割増賃金請求として、103万9522円+遅延損害金の支払を求めるとともに、労基法114条に基づく付加金請求として68万9837円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、2万0278円+遅延損害金を支払え。

Xのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 本件契約書には、第3条において「残業について」とのタイトルで、本件事務所が担当制をとっており、従業員が顧問先に巡回監査に出かけ、顧問先のニーズに答えるシステムになっていることを理由に、残業代相当額が固定給のうち営業手当として支払われる旨が明記されているところ、同条の文言について一般的な労働者の通常の注意と読み方をすれば、顧問先のニーズに答える巡回監査を業務として行う結果、残業が生じることがあるため、残業代を営業手当として支給するものと理解するのが自然である。
Xがこれまでに複数の業務に従事した経験を有しており、かつ、行政書士や宅地建物取引主任者といった契約に関わる資格を有していることからすれば、Xが本件契約書を上記意味内容とは異なる内容として理解したものとは考え難い。そして、本件契約書上も給与明細上も、固定残業代である営業手当とそれ以外の給与費目及び金額が明示的に区分されて記載されていることからすれば、通常の賃金に当たる部分と固定残業代に当たる部分との判別が可能といえる。

2 また、Y社主張の賃金単価とXに支払われた営業手当から算出される計算上の時間外労働時間数は約42時間から46時間であって、試用期間中がおおむね45時間、正職員がおおむね50時間を想定していたとするY社の供述と大きく乖離するものではなく、また、Xが本件訴訟において割増賃金を請求する10か月のうち、上記想定時間外労働時間数を超える時間外労働を行っているのが3か月であることからして、被告の想定と実際との乖離は大きくないものと評価できる

3 本件における当事者双方の主張内容、上記認定判断及びその結果としての現時点での未払割増賃金の額に加え、前提事実のとおり、Y社が未払割増賃金の大部分の任意弁済を行っていることからすれば、本件において付加金の支払を命じる必要性はない。

本件では、固定残業制度が認められています。上記判例のポイント1、2の判断内容は参考になりますので確認しておきましょう。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。