解雇337 休職期間満了時における復職判断の方法(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、業務中負傷の症状固定約2か月後になされた解雇の有効性等に関する裁判例を見てみましょう。

東京キタイチ事件(札幌高裁令和2年4月15日・労判1226号5頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期限の定めのない雇用契約を締結し、これに基づきY社のA工場でタラコの加工業務に従事していたXが、平成26年3月24日、業務中に右手小指を負傷して休職していたところ、症状固定後の平成29年12月25日付けで普通解雇されたため、Y社に対し、①本件解雇は無効であると主張し、Xが雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と、②雇用契約に基づき、復職が可能な日である平成30年4月1日以降の賃金及び賞与請求として、同年5月から本判決確定の日まで、毎月25日限り月額6万8040円の賃金及び毎年7月10日限り5000円、毎年12月10日限り7000円の賞与+遅延損害金の支払を求めるとともに、③Xが右小指を負傷したことにつきY社の安全配慮義務違反があったと主張し、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求として、後遺障害慰謝料180万円及び④Y社がXの復職要請に真摯に対応しなかったと主張し、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求として、Xが解雇によって復職を阻止されたことについての慰謝料100万円並びに上記③及び④の慰謝料(合計280万円)に対する遅延損害金の支払を求める事案である。

原審は、Xの請求をいずれも棄却したため、Xはこれを不服として控訴した。

【裁判所の判断】

解雇無効

Y社はXに対し、161万1540円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、令和2年4月から本判決確定の日まで、毎月7万2324円+遅延損害金を支払え

安全配慮義務違反は否定

【判例のポイント】

1 Y社としては、復職が可能であるとの主治医の判断を得ているとの申告を受けていたのであるから、本件診断書に基づいてXが就労不能であるか否かを判断するというのであれば、本件診断書を作成したF医師に問い合わせをするなどして、本件診断書の趣旨を確認すべきであったといえるし、その確認が困難であったような事情も特にうかがわれない。そして、そのような確認がされていれば、同医師からは、Xにおいて、小指に無理をかけないよう注意を払えば、慣れた作業や労作は可能である、小指が仕事に慣れるまでの間は仕事量を減らすなどの配慮が必要である、包丁を使う作業等も慣れれば不可能であるとはいえないなどの回答が得られたものと考えられる。
そうすると、製造部における作業が、冷たいタラコを日常的に取り扱うものであることや、頻回な手洗いが必要であることなど製造部における作業内容に関する諸事情を考慮しても、しばらくの間業務軽減を行うなどすれば、Xが製造部へ復職することは可能であったと考えられるところであり、本件解雇の時点において、Xが、製造部における作業に耐えられなかったと認めることはできない。なお、本件解雇の時点において、XがY社との雇用契約の本旨に従った労務を提供することが可能であったとは認められないとしても、慣らし勤務を経ることにより債務の本旨に従った労務の提供を行うことが可能であったと考えられるし、本件事故がY社の業務に起因して発生したことを前提としてXが労災給付を受給していたことも踏まえると、かかる慣らし勤務が必要であることを理由として、Xに解雇事由があると認めることは相当でない。

2 復職に向けた協議の中で、勤務時間や賃金等の具体的な条件の提示やXとの調整はなされていない
加えて、Y社は、Xに対し、清掃係への配置転換を拒否すれば解雇もあり得る旨を一切伝えておらず、製造部での業務に従事させることができない理由や、配置転換を受け入れなければならない理由等について十分な説明をしたこともうかがわれない。そうすると、上記Y社による提案は、Y社の担当者等がどのように認識していたかはともかく、客観的には、その時点でのXの漠然とした意向が確認されたに過ぎないものとみるべきであり、Xとしても、自分が、配置転換を受け入れるか、解雇を受け入れるかを選択していなかったものと認められる。したがって、このような提案によってY社が解雇回避努力を尽くしたものとみることはできない
・・・Y社としては、Xを解雇する可能性も視野に入れていながら、Xに対し、退職勧奨を行うこともなく症状固定のわずか約1か月後に本件解雇の意思表示がされたものである。そうすると、Xからすれば、一度も解雇を回避する選択の機会を与えられないまま、解雇されるに至ったというほかないものである。

休職期間満了時において、会社がいかに対応すべきかという問題はとても難しいです。

本件裁判例は会社の対応方法について示唆に富む内容ですので参考にしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。