解雇340 代表者に対する暴行を理由とする解雇(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、代表者に対する暴行等を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

モロカワ事件(東京地裁令和2年6月3日・労判ジャーナル104号40頁)

【事案の概要】

第1事件のうち本訴請求事件は、Y社で稼働していたXが、平成30年10月18日、Y社の代表者であるBに暴行を加えたなどとして、同年11月9日、同日付けで、Y社から普通解雇をされたところ、同解雇は無効であると主張して、Y社に対し、①雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と、②雇用契約に基づき、同年12月以降、本判決確定の日に至るまで毎月25日限り、月例賃金65万円の支払を求めるとともに、③雇用契約に基づき、平成28年12月25日支払分から平成30年10月25日支払分までの未払残業代875万6019円+確定遅延損害金51万3918円と翌20日から支払済みまで同様の割合による遅延損害金の支払並びに同月25日支払分の未払残業代10万0966円の支払を求め、さらに、④労基法114条に基づき、付加金885万6985円の支払、⑤不当な懲戒解雇による慰謝料請求として、不法行為に基づき、慰謝料100万円の支払をそれぞれ求めた事案である。

第1事件のうち反訴請求事件は、Y社が、Xに社宅として本件建物を賃貸していたところ、本件解雇により賃貸借契約が終了したとして、Xに対し、賃貸借契約終了に基づき、本件建物の明渡しと、債務不履行に基づき、賃貸借契約終了の日の翌日である平成30年11月10日から本件建物明渡しまで1か月当たり18万9500円の賃料相当損害金の支払を求めた事案である。

第2事件は、Y社の代表者であったBが、本件暴行によって負傷したとして、Xに対し、不法行為に基づき、治療費等の損害金100万9100円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

XはY社に対し建物を明け渡せ。

Xは、Y社に対し、平成30年11月17日から建物明渡済みまで1か月当たり5万4200円の割合による金員を支払え。

Xは、Bに対し、30万9100円+遅延損害金を支払え。

Xの本訴請求はいずれも棄却

【判例のポイント】

1 Xは、Bに対し、暴行を加えたものであって、しかも、これにより、全治4週間を要する見込みの左肋骨骨折、左手足打撲の傷害を負わせたものである。しかも、Xは、暴行自体は認めつつも、Bが暴言を述べたからであるとか、Bが先に暴行をしてきたなどと主張し続けていたものであり、それ以上に適切な慰謝の措置を講じなかったものである。
しかも、Y社は、代表取締役であるBを中心に、その家族が枢要な役職を担って運営されてきた会社であって、その娘婿であるXも、そうした縁故の下、稼働してきたと推認することができる。しかるところ、本件暴行は、そうした企業活動の中心にあったBに対して行われたものであって、Y社が、これを背信行為であるとして重く見たとしても、それが不合理であるともいえない。
そうしてみると、本件暴行が酔余の所為であったことや、Xが長年Y社に勤務してきたことなど、Xに酌むことのできる事情を考慮するにしても、本件解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないものであるとは認められない

2 Y社は、本件解雇の際、直ちに労基法20条1項本文所定の平均賃金(解雇予告手当)の支払をしておらず、その支払がなされたのは平成30年11月16日のことであると認められる。そして、所轄労働基準監督署長の除外認定を経た形跡があるとも認められず、同項ただし書所定の事由があったとまではたやすく認め難いところ、同条同項所定の措置を経ていない解雇の通知は、即時解雇としては効力を生じないが、使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り、通知後30日の期間を経過するか、又は通知の後に予告手当の支払をしたときは、そのいずれかのときから解雇の効力を生じるものである(最高裁判所昭和35年3月11日第二小法廷判決参照)。本件において、Y社が即時解雇に固執する趣旨であったとみるべき事情は認められないから、本件解雇は、その支払時である平成30年11月16日をもって効力を生じたものと認めるのが相当である。

前記判例のポイント2は、初歩的な判例知識ですので、押さえておきましょう。

解雇事案は必ず事前に顧問弁護士に相談の上、冷静に対応することが求められます。