Category Archives: 派遣労働

派遣労働22(日本精工(外国人派遣労働者)事件)

おはようございます。

今日は、派遣労働者12名による派遣先会社への地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

日本精工(外国人派遣労働者)事件(東京高裁平成25年10月24日・労判1116号76頁)

【事案の概要】

本件は、派遣元会社から派遣先会社であるY社に対し、派遣元会社に雇用され、平成18年11月10日以前は、業務処理請負の従事者として、翌11日以降は、労働者派遣の派遣労働者として、Y社の工場等において就業していたXら(帰化者を含む日系ブラジル人)が、Y社と派遣元会社との労働者派遣契約の終了に伴い、Y社の工場における就業を拒否されたことについて、主位的に、(1)派遣元会社と派遣先であるY社との間の契約関係が請負契約であった当時のXら、派遣先会社であるY社及び派遣元会社の三者間の契約関係は、違法な労働者供給であり、XらとY社との間で直接の労働契約関係が成立しており、平成18年11月11日以降、派遣元会社と派遣先会社でありY社との間の契約関係が労働者派遣契約に変更された後も、労働契約関係は変化なく維持されていたから、Xらと派遣先会社であるY社との間に直接の労働契約関係が継続していたというべきであること、(2)そうでないとしても、XらとY社との間には、黙示の労働契約が成立していたというべきこと、(3)(1)及び(2)の労働契約の成立が否定されるとしても、Y社には、派遣法40条の4に基づき、Xらに対する雇用契約申込義務があったというべきであるから、XらとY社との間には当該義務に基づく労働契約が成立していたというべきであることを主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに上記労働契約に基づいて平成22年1月以降の月例賃金等の支払を求めるとともに、予備的に、(4)長年にわたりXらの労務提供を受けてきたY社には、Xらに対する条理上の信義則違反等の不法行為が成立すると主張して、Y社に対し、それぞれ200万円の慰謝料等の支払を求めたものである。

原審は、Xらの主位的請求をいずれも棄却し、予備的請求を、50~90万円の限度で認めた。

当事者双方が、それぞれ敗訴部分を不服として控訴した。

【裁判所の判断】

原判決中Y社敗訴部分をいずれも取り消す。

上記各取消部分に係るXらの予備的請求をいずれも棄却する。

Xらの本件控訴をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Y社は、冨士TRYと労働者派遣契約を締結するまでは、長年にわたり、請負契約の形式を使って実態は労働者派遣としてXらを受け入れてその労務の提供を受けてきたのであり(いわゆる偽装請負)、これは派遣法に違反していたことは明らかである。そして、このようなY社の対応は、当時の派遣法が製造業務について労働者派遣を禁止していたことを考慮したことによるものであると推認されるところである。しかし、Xらは、偽装請負の下においても、継続して冨士各社に雇用され賃金の支払を受けていたのであり、実態が労働者派遣とした場合と比べて、Xらに不利益があったとは認められない
したがって、Y社が偽装請負の下でXらから労務の提供を受けていたことをもって、Xらの権利又は法律上保護された利益が侵害されたものと認めることはできず、Y社に不法行為責任があるということはできない

2 Y社が冨士TRYと労働者派遣契約を締結するに際して、Xらに説明をしなかったとの点は、労働者派遣契約の前後を通じて実態は労働者派遣であることに変わりがなく、また、この点の説明は第一次的には使用者である冨士支社がすべきものである。この点においても、Y社に不法行為責任があると認めることはできない。

3 Y社の藤沢工場で就労していた日本人の派遣労働者が正社員に採用され、日系ブラジル人の派遣労働者が採用されなかったとの事実は認められるが、本件全証拠によるも、日本人と日系ブラジル人との取扱いに上記のような差異が生じた具体的な経緯、理由等は明らかではなく、国籍を理由として差別的取扱いを受けたとまでは認められないから、不法行為が成立するということはできない。

上記判例のポイント1の視点は、是非、参考にしてください。

派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。

派遣労働21(日産自動車ほか(派遣社員ら雇止め等)事件)

おはようございます。

今日は、更新を繰り返してきた派遣社員らに対する雇止め等の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

日産自動車ほか(派遣社員ら雇止め等)事件(横浜地裁平成26年3月25日・労判1097号5頁)

【事案の概要】

本件は、X1及びX2は、Y社を派遣先、A社を派遣元とする派遣労働者として勤務していた者であり、Y社との間で労働契約が成立しているとして、Y社に対し、労働者たる地位の確認及び平成21年5月以降到来する分の賃金の支払を求めるとともに、Y社及びA社に対し、不法行為に基づく慰謝料300万円を連帯して支払うよう求めた。

(なお、実際には、原告は、X1ないしX5の5名いる。)

【裁判所の判断】

本判決確定の日の翌日以降の賃金の支払を求める部分は却下

その余の請求は棄却

【判例のポイント】

1 X5は、派遣従業員から期間従業員となること、期間従業員から派遣従業員となることを「地位のキャッチボール」と呼称し、これは派遣制限期間の潜脱を目的として設計されたものであり、無効な契約である旨の主張をしている。
そこで、この点について検討するに、期間従業員として採用される際にY社担当者から、期間従業員としての期間終了後は、再び派遣従業員となって引き続き就労することができる旨の説明がされていたり、派遣労働期間が終了する頃に派遣従業員を対象とした期間従業員採用説明会が開催されるなどしていたことからすると、X5のみならず、Y社横浜工場で就労していた多くの派遣従業員が、短期間で派遣従業員からY社の期間従業員となり、再び派遣従業員となっていたことが推認されるところ、このような契約形態が常態化していたのは、Y社において、作業効率の観点から一定の経験を積んだ就労者を確保しつつ、他方で、いわゆる期間の定めのある労働契約の雇止めに際して期間更新の合理的期待を抱かせないようにすることにより期間従業員の雇止めが無効にならないようにする意図及び派遣期間制限違反が生じることを回避する意図が背景にあることが推認される

2 しかしながら、労働者派遣法は、派遣労働期間の制限を定め、制限にかかるクーリング期間を設定しているところ、同法が平成24年10月1日に改正されたことによって離職後1年以内の労働者派遣が禁止されるまでは、派遣就労先において期間労働者として就労していた者を再び派遣労働者として雇用することを禁止する定めはなかったこと、また、クーリング期間中に派遣労働者を直接雇用することを禁止する定めもないことに照らせば、このような運用を行った場合に期間従業員に対する雇止めが有効となるか等は別途検討されるべき問題であるとはいえるものの、こうした扱いが当時の労働者派遣法の派遣期間制限に直接違反するものとはいえない

3 また、Y社において、派遣労働者の希望の有無にかかわらず、派遣労働期間と期間雇用契約期間とを交互に設置して就労を継続させることを制度化していたことを認めるに足りる証拠はなく、上記の扱いは、派遣制限期間ごとに派遣就労先を変更することを避けて、同一の就労場所での継続的な就労を希望する派遣労働者の要請に応えたものともいえる。そして、Y社は、X5を職場推薦したように、1年以上就労している有能な派遣従業員についてはY社の正社員に登用する制度を用意し、派遣労働者を正規雇用化する措置も講じていたことを併せて考慮すれば、Y社の派遣労働者に対する上記のような扱いが、当時の労働者派遣法の潜脱を目的とするものであるとまでいうことはできない

「地位のキャッチボール」が行われている現場は、全国各地にあると思います。

有名なマツダ防府工場事件判決とともに参考にしてください。

派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。

派遣労働20(日本S社ほか事件)

おはようございます。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、派遣先との黙示の労働契約の成立および派遣先などへの損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

日本S社ほか事件(東京地裁平成26年4月23日・労経速2219号3頁)

【事案の概要】

本件は、A社及びA社を吸収合併したY社との間で派遣労働契約を締結し、派遣先であるS社において就業していたXが、①S社との間において、期間の定めのない労働契約が成立していると主張して、S社に対し、期間の定めのない労働契約上の地位確認並びに賃金及び遅延損害金の支払いを求めるとともに、②Y社らが、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律違反を行ったことにより、Xの権利・利益を侵害したと主張して、Y社らに対し、共同不法行為に基づく損害賠償及び遅延損害金の連帯支払を求め、さらに、③S社が、Xの直接雇用を拒否し、Xの派遣就業を終了させたことにより、S社との間の直接雇用の実現に対するXの期待権を侵害したと主張して、S社に対し、不法行為に基づく損害賠償及び遅延損害金の支払いを求めるとともに、④Y社が、XとS社との間の直接雇用の実現を侵害したことにより、上記直接雇用の実現に対するXの期待権を侵害したと主張して、Y社に対し、不法行為に基づく損害賠償及び遅延損害金の支払いを求める事案である。

なお、請求③及び④は、いずれも請求①を主位的請求とする予備的請求である。

【裁判所の判断】

いずれの請求も棄却

【判例のポイント】

1 労働者派遣法の趣旨及びその取締法規としての性質、さらに派遣労働者を保護する必要性等にかんがみれば、仮に労働者派遣法に違反する労働者派遣が行われた場合においても、特段の事情のない限り、そのことだけによっては派遣労働者と派遣元との間の雇用関係が無効となることはないところ(最判平成21年12月18日)、本件労働者派遣契約及び本件派遣労働契約が、労働者派遣法における派遣受入期間の制限等に関する一連の行政的取締的法規に違反するものであったとの事情をもって、本件派遣労働契約が無効になるものと解することはできないし、本件においては、上記特段の事情は窺われないから、本件派遣労働契約は有効に存在していたものと解するのが相当である。

2 労働者派遣法40条の4は、派遣先の派遣労働者に対する労働契約の申込義務を規定したにとどまり、申込みの意思表示を擬制したものでないことは明らかである。すなわち、労働者派遣法40条の4は、その規定の実効性を確保するために、厚生労働大臣による指導又は助言、労働契約締結の申込みの勧告、それに従わないときは勧告を受けた者の公表という、飽くまでも間接的な方法で労働契約の締結の申込みを促すという制度を採用しているにとどまる。仮に、S社が、派遣受入期間の制限を超過していることを知りながら、労働者派遣を受け入れていたとしても、そのことをもって、上記申込みの意思表示が擬制されるものではない

3 Y社らにおいて、労働者派遣法が定める派遣先の常用雇用労働者の雇用安定を目的とした一連の行政的取締規定(派遣受入期間の制限等)に違反するとの事実があったとしても、そのことのみで、派遣労働者であるXに対するY社らの不法行為が成立するものと解することはできないところ、Xが、Y社らの上記法令違反行為によるものとして主張する被侵害利益の内容やその法的根拠は不明瞭である上、上記法令違反行為によって、Xの主張する損害(賃金減額分及び慰謝料)が生じるものと解すべき事情も見当たらない。
以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、XのY社らに対する労働者派遣法違反による共同不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。

特に目新しい判断はありません。

これまでの裁判例と同様の判断ですね。

派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。

派遣労働19(U社ほか事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばっていきましょう。

今日は、派遣社員の引き抜き・派遣先との契約継続妨害を理由とする派遣会社からの元社員、同業会社への損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

U社ほか事件(東京地裁平成26年3月5日・労経速2212号3頁)

【事案の概要】

本件は、X社が、従業員であったC及びDに対し、在職中から、Y社と共謀して、X社の従業員の引き抜き等をしたとして、Y社に対しては、X社の雇用契約上の債権を侵害した等として不法行為に基づいて、C及びDに対しては、秘密保持義務、競業避止義務及び雇用契約上の誠実義務に違反したとして債務不履行ないし不法行為に基づいて、損害賠償と遅延損害金の支払いを求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社に対し、102万6672円の支払いを命じた。

Cに対し、102万6672円の支払いを命じた。

Dに対し、166万9941円の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 そもそも、在職中の従業員は、使用者に対し、誠実義務として、使用者の正当な利益を不当に侵害してはならないよう配慮する義務を負っており、具体的にいえば、使用者の営業上の秘密を保持すべき義務や使用者の利益に著しく反する競業行為を差し控える義務を一般的に負っている
そして、引き抜きが、単なる勧誘の範囲を超え、著しく背信的な方法で行われ、社会的相当性を逸脱しているといえる場合に初めて違法になると解される。

2 顧客の奪取が、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法なものといえる場合に違法となると解される。ところで、本件では、問題となっている行為が、C及びDがX社在職中に行われており、もともと従業員が労働契約上の誠実義務を負っていることを踏まえれば、引き抜きや顧客の奪取が退職後に行われた場合に比して、より厳しく違法性の有無が判断されるべきと解する。

3 労働者は、職業選択の自由の一環として、退職し又は他社に転職する自由があり、企業は、労働者が自由な意思に基づいて退職ないし他社に転職することを認めなければならないし、これによって従前勤務していた企業に損失が生じたとしても、これを甘受しなければならないし、ことに、X社のように労働者派遣を業として行っている会社において、派遣労働者は労働条件が有期であったり、派遣先が決まらない間は待機中として有給休暇の消化をやむを得なくされるなど、正社員に比べるとその労働条件が不安定になっており、派遣労働者がより良い労働条件を求めて、転職することは当然の理である。
さらにいえば、X社のように労働者派遣を業としている会社において、派遣労働者の退職によって損失を生じる可能性がある場合には、当該派遣労働者の労働条件を改善して引き留めを図ったり、他の派遣労働者を適宜補充するなどの自助努力により損失を最小限にとどめることができるし、取引先の喪失についても、同様に新たな契約締結交渉等の努力を行うことができるところである。本件においては、X社が、かかる自助努力をどの程度行ったかは定かではないが、本来であれば自助努力によって回避可能な損失を漫然と被告らに負担させることは相当でない

4 以上の観点から、本件のEの引き抜き及び甲ハウスとの契約締結妨害についてみるに、引き抜きについては転職の勧誘にとどまるもので違法性がなく、X社と甲ハウスとの契約締結を妨害した点が問題になるにすぎないことや、EがY社から甲ハウスに派遣された当初の現場も3ヶ月程度で終了していることからすれば、Dが賠償すべき損害としては、3ヶ月分とみるのが相当である。

派遣会社は必読の裁判例です。

特に上記判例のポイント3の考え方は参考にしてください。

厳しい内容ですが、これが現実です。

派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。

派遣労働18(J社事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、元派遣等で就労していた期間労働者との間で黙示の雇用契約が成立していたとはいえず、雇止めも有効とした原判決を相当とした裁判例を見てみましょう。

J社事件(東京高裁平成26年6月4日・労経速2217号16頁)

【事案の概要】

本件は、A社に雇用され、当初、請負契約又は労働者派遣契約に基づきY社に勤務していたXらが、Y社との間で、期間の定めのある労働契約を締結したが、その後、契約更新がされず、その期間を満了したところ、Xらは、黙示の労働契約が成立していたこと又は、期間の定めのある労働契約(有期労働契約)を前提としても、それは実質的に期間の定めのない契約と異ならない状態であったことを理由に、Y社がXらに対する雇止めを行ったことが無効であると主張し、Y社に対し、労働契約上の地位の確認及びそれを前提とした賃金の支払を求めた事案である。

原審は、Xらの請求をいずれも棄却した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Y社が、派遣労働者に再度戻す意図の下にクーリング期間として期間工という職種を新設したと認めるに足りる証拠はないし、Y社において、常用雇用の代替防止という労働者派遣法の根幹を否定するような施策を実施していたとは認め難く、XとA社との間の労働契約を無効とすべき特段の事情があると認めることはできない。
また、XらA社の労働者は、休暇届をA社に提出し、タイムカードはY社に直接雇用される正社員とは区別されていたなど、Y社の正社員と同様の労務管理がなされていたとも指揮命令を受けていたとも認めることはできないし、QCサークル活動への参加は義務付けられていないし、Y社が事実上A社の労働者の採用を決定していたとは認め難いし、Y社がXの賃金額の決定に関与したとも認め難く、XとY社間に実質的な賃金支払関係があったともいえない。そして、Y社が、Xの配転を決定していたと認めるに足りる証拠もない
以上によれば、XとY社との間に、黙示の労働契約が成立していたと認めることはできない

2 ①XとY社との直接の雇用契約が締結されていた期間は、1年7か月にすぎず、更新の回数は2回にとどまっていること、②Xを期間工として採用する際に、Y社が従前の使用従属関係を認めてこれを追認する意思で期間工として直接雇用したものとみることはできず、Xが期間工として採用される以前から、XとY社との間に雇用関係があったものと評価することはできないこと、③XとY社間の雇用及び契約更新の際に交付された雇用条件通知書や雇入通知書、雇用契約書のいずれにも、有期労働契約であることが明記されており、また、採用前の説明会等で、期間の定めや雇用延長条件等が記載された書面が読み上げられるなどしており、XとY社の労働契約は、期間の定めのあることが明確になっていること、④Y社における契約更新手続が形式的なものであったとはいえないことは、原判決が説示するとおりであり、Xの業務は、プラスチックケースにシールを貼る作業及びゴミ捨ての業務であったことが認められ、基幹的、恒常的なものということもできないから、Xにおいて、雇用を継続されることに合理的な期待を有していたと認めることはできず、Xが主張する整理解雇の4要件について検討するまでもなく、XとY社の労働契約は、平成21年4月25日の期間満了により終了したものと認められる。

どの事案でもそうですが、派遣先との黙示の労働契約を認定してもらうのは、とても大変なことです。

派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。

派遣労働17(H交通社事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばっていきましょう!!

さて、今日は、派遣労働者らの時間管理について派遣先会社に団交応諾義務があるかについての裁判例を見てみましょう。

H交通社事件(東京地裁平成25年12月5日・労経速2201号3頁)

【事案の概要】

Y社は、その100%子会社であるA社から添乗員の派遣を受け入れていたところ、X組合から、労働時間の管理等の事項に関する団体交渉を申し入れられたものの、これらをいずれも拒否した。

X組合は、東京都労働委員会に対し、本件団交拒否が不当労働行為に当たるとして、救済命令を申し立てた。

都労委は、Y社に対し、団交に誠実に応じなければならない旨等を命じた。Y社は中労委に対し、再審査申立てをしたが、棄却した。

本件は、Y社が、本件命令の取消しを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 労働者派遣法の原則的な枠組みにおいては、派遣労働者の労働条件は、基本的には、雇用関係のある派遣元事業主と派遣労働者の間で決定されるものであるから、基本的な労働条件等に関する団体交渉は、派遣元事業主と派遣労働者で組織する労働組合の間で行われ、また派遣先事業主に対する要求は、同法40条1項の苦情処理手続において処理されるべきものであって、派遣先事業主は、原則として、労組法7条の使用者には当たらないと解するのが相当である

2 もっとも、労働者派遣が、前記労働者派遣法の原則的枠組みによらない場合、例えば、労働者派遣が、前記労働者派遣法の原則的枠組みを超えて遂行され、派遣先事業主が、派遣労働者の基本的労働条件を現実かつ具体的に支配・決定している場合のほか、派遣先事業主が同法44条ないし47条の2の規定により、使用者とみなされ労基法等による責任を負うとされる労働時間、休憩、休日等の規定に違反し、かつ部分的とはいえ雇用主と同視できる程度に派遣労働者の基本的な労働条件等を現実的かつ具体的に支配、決定していると認められる場合には、当該決定されている労働条件等に限り、労組法7条の使用者に該当するというべきである

3 労働時間管理は、それ自体としては経営管理に関する事項というべきであるが、労働時間という基本的な労働条件の管理に関する事項であり、その管理のあり方によって、実労働時間の把握・算定、ひいては割増賃金等の扱いに大きな影響を及ぼす事項である。また、使用者は、労働時間、休憩、休日に関する労基法32条等の規定を遵守する義務を負うところ、その前提として、労働者の始業、終業の各時刻を把握し、労働時間を管理する義務を負うものというべきであるし、労働者派遣法44条2項によれば、派遣労働者の派遣就業に関し、労働時間、休憩、休日に関する労基法32条等の規定の適用については、派遣先事業のみを、派遣労働者を使用する事業とみなすこととなるから、派遣先事業主は、派遣労働者の始業、終業の各時刻を把握し、労働時間を管理する義務を負うものと解するのが相当である
そうすると、本件団交事項のうち、労働時間管理に関する部分は、義務的団交事項に当たると解するのが相当である

派遣先会社のみなさんは、上記判例のポイント3を頭に入れておきましょう。

派遣社員と雇用関係にないというだけで、当然に団交応諾義務が発生しないと考えると間違えますので、注意が必要です。

団交の際は、必ず事前に顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

派遣労働16(パナソニック・プラズマディスプレイ(パスコ)事件)

おはようございます。

さて、今日は、派遣法違反の雇用契約で働く労働者と派遣元・派遣先との法律関係に関する最高裁判決を見てみましょう。

パナソニック・プラズマディスプレイ(パスコ)事件(最高裁平成21年12月18日・労判993号5頁)

【事案の概要】

本件は、プラズマディスプレイパネル(PDP)の製造を業とするY社の工場で平成16年1月からPDP製造の封着工程に従事し、遅くとも同17年8月以降は、Y社に直接雇用されて同月から同18年1月末まで不良PDPのリペア作業に従事していたXが、Y社によるXの解雇及びリペア作業への配置転換命令は無効であると主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有することの確認、賃金の支払、リペア作業に就労する義務のないことの確認、不法行為に基づく損害賠償を請求している事案である。

【裁判所の判断】

本件派遣は派遣法違反であるが、派遣先会社との黙示の労働契約の成立は否定

【判例のポイント】

1 請負契約においては、請負人は注文者に対して仕事完成義務を負うが、請負人に雇用されている労働者に対する具体的な作業の指揮命令は専ら請負人にゆだねられている。よって、請負人による労働者に対する指揮命令がなく、注文者がその場屋内において労働者に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせているような場合には、たとい請負人と注文者との間において請負契約という法形式が採られていたとしても、これを請負契約と評価することはできない。

2 Y社は、上記派遣が労働者派遣として適法であることを何ら具体的に主張立証しないというのであるから、これは労働者派遣法の規定に違反していたといわざるを得ない。しかしながら、労働者派遣法の趣旨及びその取締法規としての性質、さらには派遣労働者を保護する必要性等にかんがみれば、仮に労働者派遣法に違反する労働者派遣が行われた場合においても、特段の事情のない限り、そのことだけによっては派遣労働者と派遣元との間の雇用契約が無効になることはないと解すべきである

3 XとY社との法律関係についてみると、Y社はC社によるXの採用に関与していたとは認められないというであり、XがC社から支給を受けていた給与等の額をY社が事実上決定していたといえるような事情もうかがわれず、かえって、C社は、Xに本件工場のデバイス部門から他の部門に移るよう打診するなど、配置を含むXの具体的な就業態様を一定の程度で決定し得る地位にあったものと認められるのであって、Y社とXとの間において雇用契約関係が黙示に成立していたものと評価することはできない

派遣先との黙示の労働契約の成否については、この最高裁判例をベースに考えることになります。

マツダ防府工場事件の地裁判例が出されましたが、あくまでまだ地裁レベルです。

現時点では、最高裁判決が示した規範に従うのが無難です。

派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。

派遣労働15(マツダ防府工場事件)

おはようございます。

さて、今日は、派遣労働者と派遣先との黙示の労働契約の成否と損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

マツダ防府工場事件(山口地裁平成25年3月13日・労判1070号6頁)

【事案の概要】

本件は、派遣労働者として自動車製造業を営むY社の防府工場の各職場に派遣されて自動車製造業務に従事していたXらが、労働者派遣法が定める派遣可能期間を超えてY社が労働者派遣の役務の提供を受けていたことやXらの就業実態等の事情によれば、Xらが派遣元事業主との間で締結した派遣労働契約は無効というべきであり、かつ、Xらの就業実態等によれば、XらとY社との間には黙示の労働契約が成立しているなどと主張して、Y社に対し、XらがY社正社員としての労働契約上の地位を有することの確認、賃金の支払い、不法行為(Y社の違法行為に基づくXらの雇用継続に対する期待権侵害)に基づく損害賠償を請求する事案である。

【裁判所の判断】

Xら(15名中13名)とY社との間で期間の定めのない労働契約が黙示的に成立した。

【判例のポイント】

1 Y社は、サポート社員制度の運用実態において労働者派遣法の規定に違反したというにとどまらず、ランク制度やパフォーマンス評価制度の導入と併せ、常用雇用の代替防止という労働者派遣法の根幹を否定する施策を実施していたものと認められ、この状態においては、すでにこれら制度全体としても労働者派遣法に違反するものとさえ評価することができる。また、派遣元においても、コンサルティング業務の委託料やパフォーマンス評価制度による派遣料金の増額分という金銭的対価を得てそれに全面的に協力していたことが認められる。このような法違反の実態にかんがみれば、形式的には労働者派遣の体裁を整えているが、実質はもはや労働者派遣と評価することはできないものと考える。

2 改正前の労働者派遣法の立法趣旨が専ら恒常的労働の代替防止にあったとしても、同法が派遣労働者の保護にも配慮する労働法としての側面を併有していたことは否定できないというべきであり、そうすると、同じく労働者派遣法違反であっても、偽装請負のようにそれ自体からは直接雇用の契機が出現しない場合とは異なり、いったんは直接雇用というサポート社員を経験した派遣労働者については、その前後の業務内容、勤務実態、使用従属関係の有無等を併せ考慮することにより、派遣労働期間中についても直接雇用を認め得る契機は高いものと考えられる。その上、本件派遣について労働者派遣法の適用を否定しても一般取引に及ぼす影響はなく、Y社及び派遣元がサポート社員制度の運用並びに同制度にランク制度やパフォーマンス評価制度を組み合わせることにより制度全体として労働者派遣法に違反し、協同して違法派遣を行っていたとみられることからすれば、Y社及び派遣元の取引関係に及ぼす影響はもとより考慮すべきでないこと、労働者派遣法に基づき厚生労働大臣には同法に基づく指導・助言、改善命令、公表等の監督行政権限が与えられているものの、労働者派遣法40条の2には罰則規定の適用がなく、これらの罰則規定の適用や厚生労働大臣による監督行政権限の行使によっては現実にサポート社員を経験した派遣労働者を保護することができないこと、このように、労働者派遣法の枠内では自らの組織的かつ大々的な違法状態の創出に積極的に関与しいたY社の責任を事実上不問に付すことになることなどに照らせば、現実にサポート社員を経験して上記諸制度の適用を受けた派遣労働者については、黙示の労働契約の成立を認めることができる諸事実が存することも加味すると、それら派遣労働者と派遣元との間の派遣労働契約を無効であると解すべき特段の事情があると認められる

かなり特殊な事案ですので、この裁判例が出されたからといって、他の事件に及ぼす影響はそれほど大きくないと思います。

もっとも、この裁判例から学ぶべきことは多いですね。 是非、参考にしてください。

高裁がどのような判断を下すか楽しみです。

派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。

派遣労働14(トルコ航空ほか事件)

おはようございます。

さて、今日は、派遣法違反と黙示の労働契約の成否に関する裁判例を見てみましょう。

トルコ航空ほか事件(東京地裁平成24年12月5日・労経速2173号3頁)

【事案の概要】

本件は、派遣元に1年間の有期契約で雇用され、サービスアグリーメント(SA、労働者派遣契約)に基づき派遣先であるY社に派遣された労働者らが、労働組合を結成して、待遇改善を求めたところ、Y社が、中途解約条項に基づきSAを途中解約し、派遣元が、有期労働契約の解約条項(SAが終了した場合、期間途中で解雇できる)に基づき期間途中で解雇したため、Xらが、①派遣先に対し、黙示の雇用契約関係の存在確認、②派遣元に対し、派遣先によるSAの解除は、派遣法27条(派遣労働者の正当な組合活動を理由とする派遣契約の解除禁止)等に違反し無効であり、SAの解除の有効性を前提とする本件解雇も無効であるとして提訴し、③派遣元が、訴訟係属中に派遣労働契約を期間満了により雇止めしたため、雇止めの効力が争われた事案である。

【裁判所の判断】

Y社との黙示の雇用契約は成立していたとは認められない。

本件派遣契約解除は派遣法27条に違反し無効。

派遣元のXらに対する解雇も無効。

雇止めは有効

【判例のポイント】

1 XらとY社との間に黙示の雇用契約が成立するためには、①採用時の状況、②指揮命令及び労務提供の態様、③人事労務管理の態様、⑤対価としての賃金支払の態様等に照らして、両者間に雇用契約関係と評価するに足りる実質的な関係が存在し、その実質関係から両者間に客観的に推認される黙示の意思表示の合致があることを必要と解するのが相当であり、労働者派遣においては、労働者に対する労務の具体的指揮命令は、派遣先会社が行うことが予定されているから、黙示の雇用契約の成立が認められるためには、派遣元会社が名目的存在に過ぎず、労働者の採否の決定、労務提供の態様、人事労務管理の態様、賃金額の決定等が派遣先会社によって事実上支配されているような特段の事情が必要というべきである

2 Xらは、自身が派遣元と雇用契約を締結した上で、派遣労働者としてY社で稼働していることについて十分了解していたというべきであり、またXらの業務に派遣期間の制限(労働者派遣法40条の2第2項)が及ぶとしても、同40条の3を根拠に雇用契約上の地位確認請求が発生すると解する余地はないし、このような事情があるからといって、黙示の雇用契約の成否に影響を与える余地もない。

3 Xらと派遣元の雇用契約については、契約更新手続が形骸化していたことをうかがわせる事情を認めることはできないが、旅客運送業務を営むY社における恒常的、基幹的業務に従事していたこと、Xらの中には少なくとも7回にわたって雇用契約が更新され継続してY社に派遣されていた者がいたことは、Xらと派遣元との間の雇用契約につき雇用継続に対する合理的な期待があるとしてその雇止めに解雇権濫用法理が類推適用されるとの主張を肯定する方向に一応傾く余地がないではないが、雇用主である派遣元が就業場所となることが予定されておらず、労働者派遣契約がなければ実際の就業場所を確保することができないという派遣労働の特徴、及び企業間の商取引である労働者派遣契約に更新の期待権や更新義務を観念し得ないことも併せかんがみれば、Xらの雇用契約(派遣労働契約)の継続に対する期待は、労働者派遣法の趣旨及び派遣労働の特徴に照らし、合理性を有さず、保護すべきものとはいえない。これは、Y社による本件SAの中途解約が無効と解される本件でも同様である。

派遣契約に関する裁判例が続きます。

派遣契約の特徴から更新の期待権や更新義務を否定しています。

やはり一般の有期雇用契約の場合の法理論を派遣契約に応用することはかなりハードルが高いですね。

派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。

派遣労働13(三菱電機事件)

おはようございます。

さて、今日は、派遣契約の解除と派遣先会社の不法行為責任に関する裁判例を見てみしょう。

三菱電機事件(名古屋高裁平成25年1月25日・労経速2174号3頁)

【事案の概要】

本件は、派遣会社からY社に派遣労働者として派遣される形式で就業していたXらが、Y社が各派遣会社に対して労働者派遣契約を解約した結果、派遣会社からそれぞれ解雇されたことに関し、Xらの実質的な雇用主はY社であり、Y社とXらとの間に黙示の雇用契約が成立していたものであり、派遣会社らによる解雇は理由がなく、実質的にY社が主導したもので共同不法行為に当たるなどと主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認及び各賃金等の支払を求めた事案である。

原審(名古屋地裁平成23年11月2日判決)は、Y社との雇用契約の成立は否定したが、解雇について派遣先が不法行為責任を負い、また、一部派遣元も共同不法行為責任を負うとした。

【裁判所の判断】

Y社との黙示の雇用契約の成立は認められない。

Xらのうち2名については派遣先の不法行為を否定した。

【判例のポイント】

1 XらとY社との間に黙示の労働契約が成立しているか否かは、具体的には、派遣会社らが名目的な存在にすぎず、Y社が、Xらの採用や解雇、賃金その他の雇用条件の決定、職場配置を含む具体的な就業態様の決定、懲戒等を事実上行っているなど、Xらの人事労務管理等を、Y社が事実上支配しているといえるような特段の事情があるか否かによって判断すべきであり、Y社の作業上の指揮命令権の根拠いかんによって判断されるべきものではない。

2 Y社はX2の採用決定やX2、X3の各移籍に関与しておらず、また派遣会社らは、労働者に対する賃金は自ら定めており(時間単位に標準作業時間を乗じて算出する等の)請負代金又は派遣料の算出方法をもって、Y社がXらの賃金を事実上決定しているということはできず、就業内容決定をY社が行うことは、、労働者派遣においていわば当然であって、Xら派遣労働者の具体的な配置について、派遣会社らの承諾を得て決定していたのであるから、派遣会社らがXらの就業内容(配置)を決定していないということはできない。

3 Y社には、Xらの雇用の維持又は安定について一定の配慮をすることが一般的に要請されており、Y社のした派遣会社らとの間の労働者派遣契約の本件中途契約等について、上記配慮を欠き、その時期や態様などにおいてXらの雇用の維持または安定に対する合理的な期待をいたずらに損なうようなことがあった場合には、Y社による中途解約等が上記の信義則上の配慮義務に違反するものとして、Xらに対する不法行為となる

4 X1に係るY社による労働者派遣個別契約の中途解約は、Y社において、平成20年11月下旬に派遣会社との労働者派遣個別契約を同年12月1日から更新する旨の契約を締結してから、わずか10日程しか経過していない時期におけるものであり、(平成20年11月後半は、すでにリーマンショックの影響により大幅な生産調整を行う必要が生じてきた時期であり、その時点で更新されたのであるから、少なくとも更新後の派遣期間中は派遣労働が継続されるものとの)X1の合理的期待を侵害するものであって、派遣会社から労働者派遣個別契約の定めにしたがってX1の新たな就業機会の確保を要請されたにもかかわらず、これに応じなかったのであり、Y社は派遣労働者であるXの雇用の維持又は安定に対する合理的な期待をいたずらに損なうことがないようにするとの信義則上の配慮を欠いたものというほかなく、信義則上の配慮義務に違反するものとして、X1に対する不法行為となる。

5 労働者派遣法40条の4に基づく直接雇用申込義務は、派遣元事業主から、抵触日の前日までに、厚生労働省令で定める方法により、当該抵触日以降継続して労働者派遣を行わない旨の通知を受けた場合に生じるところ、Y社が、派遣会社らから上記通知を受けたと認めるに足りる証拠はないから、Xらの主張は前提を欠くものである。また、上記義務は、抵触日の前日までに当該派遣労働者であって当該派遣先に雇用されることを希望する者に対して雇用契約の申込みを行うべき公法上の義務にすぎないから、Xらの就業を継続させたことのみをもって黙示の雇用契約の成立を推認できるものでないことは明らかである

黙示の労働契約の成立、派遣法40条の4の法的性格について判断しています。

特に新しい内容ではありませんが、参考にしてください。

派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。