Category Archives: 継続雇用制度

継続雇用制度25 賞与の算定基礎が決まっている場合の未払賞与請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、再雇用制度基準に満たないことを理由とする雇止めの有効性に関する裁判例を見てみましょう。

エボニック・ジャパン事件(東京地裁平成30年6月12日・労判ジャーナル81号50頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元正社員Xが、平成27年3月31日付けで60歳の定年により退職し、雇用期間を1年間とする有期雇用契約により再雇用された後、定年退職後の再雇用制度対象者の基準に関する労使協定所定の再雇用制度の対象となる者の基準を充足しないことを理由として、平成28年4月1日以降は同契約が更新されず、再雇用されなかったことについて、実際には同基準を充足していたことなどから、労働契約法19条2号により、同一の労働条件で同契約が更新されたとみなされること、平成27年分及び平成28年分の業績賞与の査定等に誤りがあることなどを主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、本件雇止め以降の未払基本給(バックペイ)並びに前期業績賞与の未払分の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

雇止めは無効

未払賃金・賞与等支払請求は一部認容

【判例のポイント】

1 Y社の正社員として勤務した後に平成27年3月31日に定年退職し、本件再雇用契約を締結したXについては、同契約が65歳まで継続すると期待することについて、就業規則16条2項及び本件労使協定の趣旨に基づく合理的な理由があるものと認められ、Y社のリージョナル人事部ゼネラルマネージャーも、本件労使協定1条について、本件再雇用基準に該当する限りにおいては必ず再雇用するという趣旨の規定であると述べており、そして、本件再雇用契約の終期である平成28年3月31日の時点において、Xは、本件人事考課基準を含む本件再雇用基準に含まれる全ての要素を充足していたから、本件雇止めは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当とは認められないものといえ、労働契約法19条2号により、同一の労働条件で本件再雇用契約が更新されたものと認められるから、Xの地位確認請求は理由がある。

2 平成27年分の業績賞与のうち個人業績分の支給がなされていないところ、その算定方法として、年間給与(基本給合計)の28%を業績賞与の算定基礎とし、その70%を個人業績分の算定基礎として、人事考課結果(評価値)を乗じて算定すべきことに争いがなく、そして、平成27年の年間給与は699万9000円であり、Xの人事考課結果は88.15%であるから、Xの業績賞与額(個人業績分)は、120万9246円と算定されるが、他方、平成28年1月1日から同年12月31日までの366日間のうち、本件再雇用契約に基づくXの在籍期間は、同年1月1日から同年3月31日までの91日間にとどまり、同年4月1日から同年12月31日までの期間については、Xは現実に稼働しておらず、人事考課の結果も存在しない以上、同年4月1日以降については、Xが、Y社に対し、具体的な賞与請求権を有するとはいえないから、平成28年分の業績賞与未払額を算定すると、29万2292円となる。

賞与について認められることはまれですが、本件のように算定方法が予め決まっている場合には、解雇や雇止め事案においても請求が認められることになります。

高年法関連の紛争は、今後ますます増えてくることが予想されます。日頃から顧問弁護士に相談の上、慎重に対応することをお勧めいたします。

継続雇用制度24 嘱託契約更新における労働者の更新申込みの有無(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、嘱託契約更新の申込みが否定され、更新拒絶の無効による地位確認請求が棄却された裁判例を見てみましょう。

共同交通事件(札幌地裁平成30年10月23日・労経速2363号42頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に嘱託社員として雇用されていたXが、期間満了に伴うXの本件嘱託契約更新の申込みに対するY社の更新拒絶は無効であると主張して、Y社に対し、嘱託社員契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、不法行為に基づき、平成28年1月から5月までの未払賃金相当額58万9704円+遅延損害金等の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件嘱託契約が終了する時点では、新賃金体系に反対する乗務員を含む全乗務員に対し、新賃金体系が適用されていたことからすると、Y社としては、Xが新賃金体系に反対していたからといって本件嘱託契約の更新を拒絶する必要はなかったこと、現に、Xと同様に初回更新を迎えた嘱託社員のうち、契約更新を希望した嘱託社員20名全員につき嘱託契約が更新されているうえ、E及びBは、平成27年11月頃の時点で、Xから本件嘱託契約更新の申込みがあれば、これに応じることを決断していたこと、上記20名全員が嘱託契約の更新に際し、Y社に履歴書を提出しているところ、Xは履歴書を提出していないこと、Xは、本件嘱託契約の終了後、Y社に対し、自身の就労を要求したり、本件嘱託契約が更新されなかったことにつき抗議したりすることはなく、かえって、健康保険証を返還したり、従業員代表の辞任届を提出したり、離職票の発行を要求したりしていること、本件組合も、Y社に対し、Xの就労を要求したり、本件嘱託契約が更新されなかったことにつき抗議したりする内容の書面を提出するなどの措置を執っていないことからすれば、XのY社に対する本件嘱託契約更新の申込みの事実は認められないというべきである。

判決理由を読む限り、XがY社に対して契約更新の申込みを認定することは困難です。

高年法関連の紛争は、今後ますます増えてくることが予想されます。日頃から顧問弁護士に相談の上、慎重に対応することをお勧めいたします。

継続雇用制度23(甲学園事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、定年後の専任教員の再雇用拒否が権利の濫用になるとされた裁判例を見てみましょう。

甲学園事件(東京地裁平成28年5月10日・労経速2282号15頁)

【事案の概要】

本件は、平成19年4月1日にY社の設置する甲学園大学の専任教員として雇用されていたところ、平成26年度中に満65歳となり、本件大学の就業規則所定の定年を迎えたXが、定年を満70歳とする合意が存在する、定年を満70歳とする労使慣行が存在する、あるいがY社がXとの間で再雇用契約を締結しないことは権限濫用に当たると主張して、Y社に対し、特別専任教員としての再雇用契約に基づく法的地位の確認を求めるとともに、再雇用契約に基づく賃金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 XがY社との間において、XがY社の設置する甲学園大学に定年に達する専任教員として引き続き勤務する地位を有することを確認する。

2 Y社は、Xに対し、平成27年4月1日から本判決の確定まで、月額45万8100円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 本件大学総合政策学部においては、労使慣行として法的効力が認められるまでには至らないとはいえ70歳まで雇用が継続されるという一定の方向性をもった慣例が存在し、70歳まで雇用が継続されるかという点では死亡退職と自己都合退職という例外があるものの、65歳の定年で雇用が終了とならずに、希望した者の雇用は継続されるという点では例外はなかったところ、これらの雇用継続に際して実質的な協議や審査が行われていたとは認められず、この点では、本件大学総合政策学部の教員らが再雇用による雇用継続に期待することには合理性が認められる

2 従前の定年後再雇用の在り方等に照らし、Xが再雇用による雇用継続に期待することには合理性が認められる一方で、平成26年度に満65歳の定年を迎えるXについて定年後再雇用の可否を検討するに当たって、理事会で審議された内容は、従前の定年後再雇用の在り方とは全く異なっており、しかも、客観性ある基準に基づくものでも、具体的な事情を十分に斟酌したものでもなく、合理性、社会的相当性が認められないから、理事会がXについて再雇用を否定し、Y車においてXとの間で再雇用契約を締結しないことは権限濫用に当たり、違法無効というべきであって、解雇であれば解雇権濫用に該当し解雇無効とされる事実関係の下で再雇用契約を締結しなかったときに相当するものとして、XとY社との間の法律関係は、平成27年4月1日付けで再雇用契約が締結されたのと同様になるものと解するのが妥当である。

労使慣行の存在自体は認められなかったものの、「慣例」が存在したことを前提に、雇用継続の期待には合理性があると判断されました。

労使慣行は要件が厳しく、あまり認められることはありませんが、労使慣行とまではいえなくても、期待の合理性を基礎付ける「慣例」を主張立証することは意味のあるわけです。

高年法関連の紛争は、今後ますます増えてくることが予想されます。日頃から顧問弁護士に相談の上、慎重に対応することをお勧めいたします。

継続雇用制度22(国際自動車事件)

おはようございます。

今日は、定年後の再雇用が認められなかった裁判例を見てみましょう。

国際自動車事件(東京地裁平成27年1月29日・労経速2241号9頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結し、タクシー運転手として稼働し、64歳の定年を迎えたXが、定年後も、Y社による雇用が継続するとの労使慣行、又は黙示の合意の成立、若しくは合理的な雇用継続に対する期待があるにもかかわらず合理的な理由なく再雇用を拒否されたこと、のいずれかの事情の下、Y社に再雇用されていると主張し、主位的に、Y社における労働契約上の地位の確認を求めるとともに、雇用契約に基づき、再雇用後の賃金及び遅延損害金の支払いを求め、予備的に、当該再雇用の拒否が権利濫用若しくは不当労働行為であり不法行為に該当すると主張し、損害賠償の一部として500万円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 定年退職後の再雇用は、それまでの雇用契約とは別個の新たな契約の締結に外ならない。すなわち、使用者は労働者を再度雇用するか否かを任意に決めることができ、新たな雇用契約の内容については、労働者及び使用者双方の合意(申込み及び承諾)が必要であり、労働者において、新たな雇用契約が締結されるはずであるとの期待を有して契約の締結を申し込んだとしても、使用者において、当該期待に応ずるべき義務が生ずる基礎がなく、それゆえ、申込みに対する承諾なくして労働者と使用者間に新たな雇用契約が締結したというべき法的な根拠はない

2 なお、念のため、Xによる定年後の雇用継続への期待が合理的なものであったかを検討するに、Y社においては、事実上、定年後の乗務員の再雇用は労働者供給事業によるとの運用が確立しており、就業規則25条2項に基づく再度の雇用など、労働者供給事業以外の枠組みによる再雇用は、XがY社に入社した時点では既に行われていなかったところ、Xも、遅くとも平成24年11月上旬の時点では、Y社からの回答により、このことを認識していた上、Xが定年に達した時点では、Xの所属組合である全労及びなかまユニオンのいずれも、Y社との間で労働者供給に関する基本契約の締結に至らず、かつ、労働者供給事業の許可も取得していなかったことを踏まえると、Xの期待が、Y社における具体的な状況に照らして合理的なものであったとはいえない

3 本件は、定年退職後の新たな雇用契約の締結(雇入れ)の問題であるところ、雇入れの拒否は、それが従前の雇用契約関係における不利益な取扱いにほかならないとして不当労働行為の成立を肯定することができる場合に当たるなどの特段の事情がない限り、労働組合法7条1号本文にいう不利益な取扱いには当たらないと解するのが相当である(最高裁平成15年12月22日判決)。

久しぶりの継続雇用に関する裁判例です。

争点としては、上記判例のポイント1と2の2点がありますので、注意しましょう。

高年法関連の紛争は、今後ますます増えてくることが予想されます。日頃から顧問弁護士に相談の上、慎重に対応することをお勧めいたします。

継続雇用制度21(日本郵便事件)

おはようございます。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、高齢再雇用社員として期間満了後、期間雇用社員として雇用契約が継続されることに合理的な期待はないとされた裁判例を見てみましょう。

日本郵便事件(東京地裁平成26年6月2日・労経速2218号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結し、定年後、Y社の高齢再雇用社員として採用され、その後同社員としては雇用契約期間が満了して退職扱いとされ、かつ、期間雇用社員(その中の時給制契約社員)として不採用となったXが、上記不採用とされたことは違法無効なものであってY社との間に期間雇用社員としての雇用契約関係は継続していたと主張して、Y社に対し、賃金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件は、60歳に達したことにより定年となり、さらに64歳に達したことにより高齢再雇用制度による雇用契約期間が満了したXにおいて、さらに、期間雇用社員の時給制契約社員として1年間雇用契約が継続されることの期待について合理性があるかどうかが問題となる(XとY社間の有期労働契約が更新されることなく打ち切られたという観点からすれば、本件は雇止めの問題ともいえるが、高齢再雇用社員と期間雇用社員の契約類型が異なることを重視すれば、本件がそもそもいわゆる雇止め法理の適用が検討されるべき事案なのか疑問がないではない本件について雇止め法理の適用を考え得ないとすれば、雇用契約関係の継続を前提とするXの本件賃金請求は合理的期待の有無を検討するまでもなく主張自体失当ということになる。)。

2 Y社における高齢再雇用社員と期間雇用社員を比較すると、就業規則が別に定められ、その就業規則の内容について検討しても、社員の種類、雇用契約期間、契約更新条件等において大きく異なっていることが認められる。そして、Xにおいて反復継続された雇用契約は高齢再雇用社員としての雇用契約であって期間雇用社員としての契約更新手続ではないこと、高齢再雇用社員としての契約更新手続においても「郵便局株式会社高齢再雇用社員雇入労働条件通知書」が作成され、契約期間も明記された厳格な手続によるものであったこと、期間雇用社員の採用については、「会社は、会社に入社を希望する者の中から選考により社員を採用する。」とされていることなどからすれば、Xが、高齢再雇用社員としての雇用契約が反復継続されたことから本件雇用契約の継続について期待したとしても、雇用形態等が多くの点で異なる期間雇用社員として採用されることの期待については合理性があるとは認め難い

通常の有期雇用契約における雇止めの問題とは異なります。

高齢再雇用社員と期間雇用社員との間に労働条件に大きな違いがあることを理由にXの雇用契約継続に関する期待を保護しませんでした。

高年法関連の紛争は、今後ますます増えてくることが予想されます。日頃から顧問弁護士に相談の上、慎重に対応することをお勧めいたします。

継続雇用制度20(社会福祉法人甲会事件)

おはようございます。

さて、今日は、有効な戒告処分を受けた者の再雇用拒否に関する裁判例を見てみましょう。

社会福祉法人甲会事件(東京地裁平成24年10月9日・労経速2157号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期限の定めのない雇用契約を締結していたXが、Y社がXの定年後の再雇用を拒否したことは権利の濫用として無効である旨主張して、Y社に対し、雇用契約に基づく地位確認及び賃金の支払を求めた事案である。

Y社は、援護または更生の措置を要する者に対して援助することを目的とする第一種社会福祉法人であり、児童養護施設及び知的障害児施設を運営している。

Xは、昭和26年生の男性であり、昭和50年、Y社との間で期限の定めのない雇用契約を締結し、児童指導員として勤務していた者である。

Y社には、高年法9条2項に基づく定年後の再雇用制度に関する労使協定が存するところ、「懲戒処分該当者でないこと」等を同制度の対象としている。ただし、本件再雇用基準を充たさない場合であっても、Y社が業務上必要と認めた者については、本件再雇用制度の対象としている。

Xは、園児の指導について、就業規則に反するとして戒告処分を受けていた。

【裁判所の判断】

再雇用拒否は有効

【判例のポイント】

1 高年法自体は企業に一定の措置を講ずるよう義務づける行政法規であって、同法に基づいて定年後も労働者を雇用する義務まで課するものではないこと、同法9条2項は、労働者の過半数の代表者との書面協定によって、事業主が継続雇用の対象とする労働者を選別することを許容しているものと解されること等からすれば、その選定基準を具体的にどのような内容とするかについては、基本的に各企業の労使の判断に委ねられているというべきであり、その内容が公序良俗に反するような特段の事情がない限り、当該選定基準が違法無効となるものではない

2 本件再雇用基準は、基準自体に特段不合理な点はないこと(懲戒権の濫用にわたるような懲戒処分でない限り、懲戒処分該当者を再雇用の対象から除外することにも合理性があると認められること)、ただし書規定という救済措置もあること等にかんがみれば、公序良俗に反する内容とは認められず、他に本件再雇用基準の効力を否定する事情を認めることはできない

3 本件再雇用制度は、それまでの雇用契約を継続する定年延長制度とは異なり、定年後に新たな労働契約を締結して雇用を継続する制度であるから、新たな労働契約を締結したといえるためには、改めて、賃金等の主要な労働条件に関する双方の合意を要する。
再雇用契約の成立につき、Xは、本件戒告処分は無効であるから、Xは再雇用を求めうる地位にあり、再雇用契約が成立したものとして取り扱われるべきであると主張するが、本件再雇用制度における再雇用契約の労働条件は、雇用期間のほかは就業規則に規定がなく、再雇用協定においても、個別の嘱託雇用契約書によって定めることになっていることからすれば、本件再雇用制度において再雇用契約が締結されたといい得るためには、基準該当者による再雇用の申し出があっただけでは足りず、別途、再雇用契約の労働条件に関し、Y社と基準該当者の双方が明示または黙示に合意することが必要というべきである

4 ・・・本件戒告処分は有効というべきである。
・・・以上によれば、Xを基準該当者と認めることはできないから、X・Y社間に再雇用に関する黙示の合意があったといえるか否かについて判断するまでもなく、Xの請求は認めることができない。

久しぶりの継続雇用に関する裁判例です。

従来型の継続雇用制度を前提とした争点です。

継続雇用については法改正があったところなので、今後の動向に注目しています。

高年法関連の紛争は、今後ますます増えてくることが予想されます。日頃から顧問弁護士に相談の上、慎重に対応することをお勧めいたします。

継続雇用制度19(全国青色申告会総連合事件)

あけましておめでとうございます。

今年も一年、よろしくお願いいたします。

さて、今日は、定年後の再雇用における雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

全国青色申告会総連合事件(東京地裁平成24年7月27日・労経速2155号3頁)

【事案の概要】

Xは、平成3年5月からY社に正社員として勤務していた。

Xは、定年退職後、Y社との間で、平成21年10月、期間雇用の定めがある再雇用契約を締結した。

Y社は、Xに対し、期間満了後新たに契約を締結しない旨(本件雇止め)を通告した。

Xは、本件雇止めは無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

雇止めは有効

【判例のポイント】

1 Y社においては、職員が引き続き勤務することを希望すれば、就業規程の定める一定の要件の下、1年間の再雇用をするという内容の再雇用制度が採用されたのは、平成18年4月1日付けの就業規程の改訂によってであり、Xは、Y社において、前記改訂後初めて定年退職を迎える正職員であったこと、本件雇止めは、更新を経ずして行われたものであることが認められるから、本件においては、前記再雇用制度の運用状況や過去の更新の手続・回数等の雇用継続の合理的な期待を裏付けるに足りる客観的な事情は、特に見当たらないと言わざるを得ない。

2 平成3年当時、60歳定年制は未だ法律上義務づけられていなかったこと、Y社において、職員が引き続き勤務することを希望し、一定の要件を満たしていれば、1年間の再雇用をするという内容の再雇用制度は存在しなかったことが認められるのであって、Y社における定年が60歳であることが求人カードによって明示されていることを考え合わせれば、求人カードに再雇用制度有りという旨の記載があるとしても、また、Xの主張するとおり、
C及びDが、再雇用制度があり、65歳まで働くことができる旨を説明したとしても、それは、未だ存在してなかった前記の内容の再雇用制度を前提とするものではなく、定年が60歳であることを前提に、65歳まで再雇用されることもあり得るという意味にとどまるものと評価され、Xの65歳までの雇用継続を保障するものとは認められない
から、平成22年10月20日の本件再雇用契約の期間満了に当たってのXの雇用継続の合理的な期待を裏付けるには足りない。

3 Y社の再雇用制度は、平成18年4月1日付けの就業規程の改訂により導入されたもので、Xは、Y社において、前記改訂後初めて定年を迎える正職員であったから、Y社において、前記制度の運用について、慣例は存在しなかったというほかない
Xは、Y社及び東京青色申告会連合会の職員の定年後再雇用や役員が60歳を超えても勤務している例を挙げるが、いずれもY社における65歳までの継続雇用の慣例の存在を裏付けるに足りない。なお、Xは、Y社の平成2年4月の東京青色申告会連合会事務局からの分離・独立後に本件雇用契約を締結しており、前記のとおり、Y社の再雇用制度の制度化は、それ以降であるから、東京青色申告会連合会の例をもって、Y社における60歳以上の職員の雇用についての慣例を根拠付けることはできない
以上によれば、Xの本件再雇用契約後の職務内容が、それ以前と同じであったことを考慮に入れてもなお、Xにおいて、本件再雇用契約終了後の継続雇用について合理的な期待があったとはいえない。

久しぶりに継続雇用に関する裁判例を見ます。

この裁判例で学ぶべきは、「慣例」についてのハードルの高さです。

私も裁判で経験がありますが、労使慣行を認定し、そこから一定の法的効果を導くのは、想像しているよりもはるかに大変です。

「長い間、継続している」という一事をもって、労使慣行があるとはならないのです。

高年法関連の紛争は、今後ますます増えてくることが予想されます。日頃から顧問弁護士に相談の上、慎重に対応することをお勧めいたします。

継続雇用制度18(学校法人大谷学園事件)

おはようございます。

さて、今日は、継続雇用制度に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人大谷学園事件(横浜地裁平成22年10月28日・労判1019号24頁)

【事案の概要】

Y社は、平成18年8月頃、継続雇用制度を導入する新たな就業規則を作成し、それによれば、定年退職日以降も引き続き勤務を希望し、かつ、所定の基準に該当する場合は再雇用するとした。

再雇用の対象となる基準の中には、「過去10年間に第52条に定める懲戒処分を受けていないこと」の定めがある。

Xは、定年退職が近づいた平成20年10月、組合を通じて、Y社に対し、60歳定年後の雇用延長を願い出る旨記載した個人意向調査票を提出した。

これに対し、Y社は、Xに対し、平成21年3月31日をもって定年となり、再雇用はしない旨の通知をしたため、Xは、同日、定年により退職することとなった。

Xは、Y社が導入した継続雇用制度は、高年齢者雇用安定法9条2項等に違反し無効であるとして、雇用契約上の地位確認、あるいは、雇用上の権利の侵害を理由に損害賠償を求めた。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 高年齢者雇用安定法9条1項が私法的強行性を有するか否かについて検討するに、同項の規定上、これに違反した場合に、労働基準法のような私法的効力を認める旨の明文規定も補充的効力に関する規定も存在しない。また、同項各号の措置に伴う労働契約の内容や労働条件について規定していない。むしろ、継続雇用制度について、現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度であると定義付けるだけで、制度内容を一義的に規定せず、多様な制度を含み得る内容となっており、直ちに私法上の効力を発生させるだけの具体性を備えているとは解し難い。このように、同項の規定自体、私法的強行性を認める根拠は乏しいといわなければならない。

2 しかも、高年齢者雇用安定法は、定年の引上げ、継続雇用制度の導入等による高年齢者の安定した雇用の確保の促進、高年齢者等の再就職の促進、定年退職者その他の高年齢退職者に対する就業の機会の確保等の措置を総合的に講じ、もって高年齢者等の職業の安定をその他福祉の増進を図るとともに、経済及び社会の発展に寄与することを目的とし(1条)、事業主のみならず国や地方公共団体も名宛人として、種々の施策を要求しており、社会政策誘導立法、政策実現型立法として、公法的性格を有している。そして、高年齢者雇用安定法9条1項が事業主に対する公法上の義務を課す形式をとり、義務違反に対する制裁としては、緩やかな指導、助言、勧告を規定するのみであること(10条)、高年齢者雇用安定法9条2項は、一定の場合に、継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定めることを許容して、希望者であっても、継続雇用制度の対象としないことを容認していること、高年齢者雇用安定法8条は、平成16年法律第103号による改正後も65歳未満定年制を適法としていることを考慮すると、高年齢者雇用安定法は、65歳までの雇用確保については、その目的に反しない限り、各事業主の実情に応じた労使の工夫による柔軟な措置を許容する趣旨であると解されるのであり、高年齢者雇用安定法9条1項に、Xらが主張するような私法的強行性を認める趣旨ではないことを裏付けている

3 以上のように、高年齢者雇用安定法9条1項の規定自体からも、同条の全体構造からも、Xが主張するような同項の私法的強行性を肯定する解釈は成立しない。

結論としては、これまでの多くの裁判例と同じです。

特徴的なのは、理由を具体的に述べている点ですね。

高年法関連の紛争は、今後ますます増えてくることが予想されます。日頃から顧問弁護士に相談の上、慎重に対応することをお勧めいたします。

継続雇用制度17(特例措置の終了)

おはようございます。

高年齢者雇用安定法に関するお知らせです。

「継続雇用制度」の対象者の基準を、労使協定を締結せずに就業規則で定めている事業主の方へ!!

現に雇用している高年齢者を定年後も引き続き雇用する「継続雇用制度」の対象者の基準を、労使協定を締結せずに就業規則で定めることができる中小企業(300人以下)の事業主に対する特例措置が、平成23年3月31日で終了します。

労使協定とは、労働条件その他の事項について、事業場の過半数の労働者で組織する労働組合(ない場合は労働者の過半数を代表する者)と事業主との間で合意して書面により締結する協定です。

継続雇用制度の導入にあたって、対象となる高年齢者の基準について労使協定を締結せず、平成23年4月1日以降、当該高年齢者が離職した場合、雇用保険被保険者離職証明書の離職理由は、当該高年齢者の継続雇用の希望の有無に関わらず、事業主都合となりますので、ご注意ください。

詳しくは、顧問弁護士又は顧問社労士に確認してください。

継続雇用制度16(津田電気計器事件)

おはようございます。

今日は、継続雇用制度に関する裁判例を見てみましょう。

津田電気計器事件(大阪地裁平成22年9月30日・労旬1735号58頁)

【事案の概要】

Y社は、電子制御機器・計測器の製造・販売を業とする従業員50数名規模の会社である。

Xは、Y社の従業員である。

Y社には、従来から定年である60歳から1年間の嘱託契約制度があった。平成18年3月、61歳で嘱託契約を終了した者を対象とした高年齢者継続雇用制度を導入した。

Xは、Y社が導入した継続雇用制度による雇用継続を申し入れたところ、選定基準に達していないとして継続雇用を拒否された。

Xは、Y社の査定は不合理であり、Xは選定基準を満たしていたとして労働契約上の地位にあることの確認と賃金支払いを求めた。

なお、Y社の継続雇用制度の概要は、(1)継続雇用を希望する者のうちから選考して採用する、(2)在職中の勤務実績および業務能力を査定し、採用の可否、労働条件を決定する、(3)「継続雇用対象者の査定表」には、業務習熟度、社員実態調査票、保有資格一覧表を、賞罰実績表を用い、総点数が0点以上の高齢者を採用する、(4)労働条件は、「継続雇用対象者」の総点数が10点以上の者は週40時間以内の労働時間とする、(5)本給の最低基準は満61歳のときの基本給の70%とし、これに1週の労働時間を40時間で割った割合を乗じて額とする、というものである。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 高年法9条2項の趣旨は、原則希望者全員雇用が望ましいが、困難な企業もあるから企業の実情に応じ、また、企業の必要とする能力経験が様々であるからもっとも相応しい基準を定めることが適当であり、同法9条1項に基づく事業主の義務は公法上の義務であり、個々の従業員に対する私法上の義務を定めたものとは解されない。

2 同法9条2項の選定基準の具体的内容をどのように定めるかについては、各企業の労使の判断であるから、選定基準の内容が公序良俗に反するような特段の事情のある場合は別として、同法違反を理由に当該継続雇用制度の私法上の効力を否定することはできない

3 事業主が、高年法9条1項2号、2項に即して就業規則において継続雇用制度の具体的な選定基準、再雇用された場合の一般的な労働条件を定め、周知したときは、自ら雇用する労働者に対し、当該就業規則に定められた条件で再雇用契約の締結の申し込みをしたものと認めるのが相当であり、当該就業規則に定められた基準を満たした労働者が再雇用を希望した場合、事業主の申込みに対する承諾があったとして、定年日の翌日を始期とする継続雇用制度の労働条件を内容とする再雇用契約が成立する。

4 事業主が法9条1項、2項に則して、継続雇用制度を導入し、具体的な選定基準や再雇用した場合の労働条件を明らかにしたのであれば、法律上の義務を果たすべく、条件を満たした労働者が希望すれば当然に契約を成立させるという確定的意思にもとに就業規則の制定を行ったものといえ、当該就業規則の周知は、申込みの誘引ではなく、当該就業規則に定める条件を満たした労働者を同就業規則で定めた労働条件で再雇用する旨の意思表示をしたものである

5 本件においては、査定の記載が、複数個所においていったん記入後低い評価に変更、修正されていること、上司が自分の経験で評価するとしか証言しなかったことなどから、Xのあるべき評価自体に重きをおくことはできない。そして、Xの直近1年の査定を具体的に検討し、使用者の査定項目のうち「チームワーク」のうち「自主的・積極的に上司に協力・補佐したか」のD評価は明らかに不合理であり、「普通」としてC評価であるべきとし、また、「仕事の達成度」のうち「こなした仕事の量・質は十分だったか」のD評価は明らかに不合理であり、「普通」としてC評価であるべきとし、これに表彰実績も加えると総点数は5点となり、採用基準を上回っている。

上記判例のポイント2のとおり、この裁判例によれば、結局、公序良俗違反となるような場合を除き、いかなる継続雇用制度を導入するか、いかなる選定基準とするかについては、労使協定で自由に決められるようです。

先日の新聞にも書かれていましたが、この分野は、今後、裁判が続くと思われます。

なお、この裁判例では、査定の当否の立証責任について、以下のとおり判断しています。

1 選定基準の要件を満たしている事実は、再雇用契約の申込みに付された契約成立条件にかかるから、再雇用契約の成立を主張する労働者において主張立証し、選定基準が、特段の欠格事由がない者は再雇用するというものであれば、欠格事由の存在は使用者が主張立証すべきである。

2 労働者は過去の人事考課が基準以上のものであったはずであることを裏付ける具体的事実を主張立証し、使用者は自己のなした人事考課を裏付ける具体的事実を主張立証し、裁判所が認定できた事実をもとにあるべき評価を検討し、基準を満たしたかどうかを判断する。

3 再雇用拒否という労働者にとって大きな不利益をもたらす人事考課については、人事考課を実施し、資料を独占的に保有している使用者側において人事考課の根拠とした事実、当該事実の考課基準のあてはめ過程の双方について具体的に論証しないかぎり権限の濫用と評価される場合が多い

実際の対応は、顧問弁護士に相談をしながら慎重に進めましょう。