Category Archives: 解雇

解雇394 新型コロナウイルスの影響による整理解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、新型コロナウイルスの影響による整理解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

ジャパンホリデートラベル事件(大阪地裁令和4年12月15日・労判ジャーナル133号34頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのない労働契約を締結していたXが、Y社に対し、XがY社からされた整理解雇は無効である旨主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることを求めるとともに、労働契約による賃金支払請求権に基づき、未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって営業面で壊滅的な打撃を受ける一方で、そのままでは毎月約1億円の人件費及び管理費の支出が続くのであって、本件解雇の時点において、Y社が人員削減によって業務全般に支障を来す部署を除いて各部署の4割から5割程度の人員削減を行ったことは、企業経営上のやむを得ない措置といえ、人員削減の必要性に欠けるところはなく、また、Y社は、管理費の削減を行いながら、休業や雇用調整助成金の利用、希望退職の募集等を順次実施しているのであるから、解雇回避に向けた措置を講ずるという信義則上の義務を果たしたものといえ、さらに、経理部においては、①会計伝票の登録数によって仕事量を比較し、②簿記資格の有無又は資格取得に向けた姿勢の有無によって専門性の高さを比較し、その上で、③他の従業員により代替困難な業務に従事していない者を整理解雇の対象としており、これらは経理部内における業務に関連する指標を用いて被解雇者を選定するものであって合理的なものであるといえるところ、Xは、①会計伝票の登録数は本部長であるCを除くと最も少なく、②本件解雇時において簿記資格を有せず、③Xの業務内容は代替困難な業務ではないから、XはY社の設定した選定基準に沿うと被解雇者に該当するのであって、人選の合理性に欠けるところはなく、そして、Y社は、人員削減に至る経緯と必要性に加えて、希望退職の時期・規模・方法について適時に周知をした上で、Xを含む従業員に対して必要な説明を行っているのであるから、解雇手続は相当なものであるといえるから、本件解雇は、適法な整理解雇であるといえる。

整理解雇の有効要件(要素)は、とても厳格に判断されますが、上記の事情が認められる場合には、さすがに裁判所も有効と判断してくれます。

押さえるべきポイントをしっかり押さえることが大切です。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

解雇393 出張に係る経費の不正請求等を理由とした普通解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 

今日は、出張に係る経費の不正請求等を理由とした普通解雇の有効性について見ていきましょう。

住友重機精機販売事件(東京地裁令和4年6月1日・労経速2507号41頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結して労務を提供していたXが、Y社がXに対してした普通解雇が無効である旨主張して、Y社に対し、雇用契約に基づき、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と、令和元年11月30日以降の未払賃金月額52万3120円(なお、Xは、第3回口頭弁論期日において、賃金月額が51万2000円であると主張を変更したが、請求の減縮は行わなかった。)+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 本件訴えのうち、本判決確定日の翌日以降の賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を求める部分を却下する。
 Y社は、Xに対し、77万6258円+遅延損害金を支払え。
 Xのその余の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 Xについては、解雇事由に該当する行為が認められるところ、このうちXによる岡山出張及び福岡出張に係る経費精算の申請は、虚偽の申請により本来Y社が負担する必要のない金銭の支出をさせ、又はさせようとしたもので、Y社に対する背信性の高い行為であるということができ、これらは本件就業規則44条2号ないし8号に該当する行為であると認められる。また、Xによる社用車の私的利用も、Y社の財産を軽視する行為であって、本件就業規則44条2号ないし8号に該当する行為であると認められる。
そして、Xは、福岡出張に係る経費精算の申請について、申請に係る旅費にXの子の旅行代金が含まれていることが窺われる記載のない領収証を一人分の旅費の確証として提出し、金額が過大であるとの疑いが生じたことからY社による調査が開始された後も、当初は実際に使用したのは新幹線であったなどと虚偽の説明をしたり、同行した代理店の担当者に作成を依頼して、実際は業務を行わなかった平成30年8月30日にも業務を行った旨の内容の書面をY社に提出するなど、不正請求の事実が発覚しないよう積極的な行動をとっていたことに加え、本件仮処分手続においても本件訴訟と異なる主張をしていた(Xは本件仮処分手続において、福岡出張の際の旅費9万1000円の半額の4万5500円に、別の出張費用等の代金を上乗せして請求した旨主張していたことが認められる。)ものであって、主張を二転三転させている上、X本人尋問に至っても、当該行為の問題性について認識しているとはいい難い
以上によれば、Xについては、Y社による指導等により改善を図ることは困難であったといえ、Y社がXとの雇用関係を維持できないと判断し、解雇を選択したことが不相当であるということはできない。

同種の解雇事案においては、解雇前の非違行為のみならず、解雇後の言動や態度についても、裁判所は、相当性判断の材料とすることを知っておきましょう。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。
   

解雇392 競業避止義務違反等を理由とする懲戒処分の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、競業避止義務違反等を理由とする懲戒処分の有効性について見ていきましょう。

不動技研工業事件(長崎地裁令和4年1月16日・労経速2509号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社から競業避止義務違反又は競業行為への加担等を理由として懲戒処分等を受けたA・B・Cが、各懲戒処分等の違法、無効等を主張して、Y社に対し、Aが、懲戒解雇無効地位確認及び未払賃金等の支払を求め、Cが、諭旨解雇無効地位確認等請求及び未払賃金等支払を求め、Bが、降格処分無効管理職群1級の地位確認等請求及び降格処分に伴う差額分等の支払を求め、また、Aらが、Y社が懲戒処分をしたことによる不法行為に基づく損害賠償等の請求及びY社が懲戒処分を従業員等に公表等したことによる不法行為(名誉毀損)に基づく損害賠償等の支払を求め、さらに、A及びCが、未払割増賃金等の支払及び付加金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

地位確認等請求認容

未払割増賃金等支払一部認容

慰謝料等請求一部認容

【判例のポイント】

1 Y社の元従業員Dは、Y社の現職従業員らを引き抜き、Y社と競業する業務を行う新会社を設立し、新会社へ転職させることを計画していたと認められ、Aは、同計画が具体化する当初から、Dから相談を受け、随時、協議を重ねてきたということができるから、同計画について、Dと通謀したと認められ、そして、等級面談の再に所属課員に対し、新会社への転職意向を確認したことは、同計画への参加への働きかけに当たると認められること等から、Aの行為は、就業規則119条24号所定の懲戒事由に該当することが認められるところ、就業規則116条は、服務規律違反について、1項で、適切な指導及び注意を行い、改善を求める旨規定し、2項で、1項にもかかわらず、改善が行われず、企業秩序維持のため必要があるときに、懲戒処分を行う旨規定するが、上記Aの行為について、本件懲戒解雇前に、Y社が指導又は注意をした形跡は認められないから、Aについて、本件懲戒解雇をしたことは、懲戒権を濫用したものとして、労働契約法15条により無効であると認められる。

2 Cは、Dの計画に関与したと認められるが、その関与の程度に照らして、Dと通謀したとは認められず、また、Cは、Dに新会社に引き連れていくことができそうな部下の名前を挙げたが、部下に対して実際に働きかけたことを認めるに足りる証拠はなく、就労時間中にDと連絡し、引き連れていくことができそうな部下等の名前を挙げて、上記計画を助長したことは、就業規則所定の職務専念義務に違反するものであるが、同行為の性質、態様に鑑み、重大な違反行為に該当するとはいえず、就業規則所定の懲戒事由に該当するとは認められず、本件諭旨解雇は無効である。

上記判例のポイント1のように、適切なプロセスを経ることは、懲戒処分(特に懲戒解雇)を行う上ではとても重要です。

懲戒解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

解雇391 暴力団構成員との交友等を理由とした解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、暴力団構成員との交友等を理由とした解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

高松テクノサービス事件(大阪地裁令和4年9月15日・労判ジャーナル131号26頁)

【事案の概要】

本件は、建設会社であるY社との間で労働契約を締結し、現場監督等として勤務していたXが、暴力団構成員と共に保険金の詐欺未遂被疑事件で逮捕、勾留され、その後、Y社から、身柄拘束期間中に無断欠勤し、その際、虚偽の欠勤理由を報告したこと及び暴力団構成員と交友していることを理由に普通解雇されたが、これに基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに未払賃金等の支払を求めるとともに、Y社から、反社会的勢力との関係が存在しないことを証明しない限り退職しなければならないなどと言われて退職を強要されたと主張して、使用者責任に基づき、慰謝料等230万円等の支払をもとめた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、Cが暴力団幹部であることを知りながら交友関係を維持して保険金請求手続に関与させ、詐欺未遂罪を被疑事実としてCと共に逮捕及び交流をされながら、Cとの関係について具体的な説明をしなかったのであって、Y社は、このようなXとの間の雇用関係を維持すれば、取引先との契約全般について解除される危険を負う状況にあったと認められるから、Y社に、Xを解雇する以外の選択をすることができたとはいえず、Xの本件交友等及びその後の経緯に照らして、これが社会通念上相当でないともいえないから、本件解雇は就業規則所定の解雇事由である「その他のやむを得ない事由」に当たり、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上の相当性を欠くものとも認められないから、本件解雇は有効である。

2 Xは、釈放されてから3日後、Y社のD及びEと面談し、その際、Dらは、Xに対し、Cとの関係を説明するように求めたことが認められるが、DやEが、面談の際、これを超えて、Xに対して反社会的勢力との交友関係について客観的に不可能な行為を要求したことは認められず、また、Dらが、Xの自由意思を抑圧する態様で退職を求めたことを認めるに足りる証拠もないから、Y社が、Xに対し、違法な退職勧奨を行ったとは認められない。

上記判例のポイント1は、会社側としてはむしろ必要な対応といえるでしょう。

訴訟を恐れて尻込みをしてしまうと、取引先等との別の問題が生じてしまいます。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

解雇390 法人格否認の法理の適用が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、解散に伴う整理解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

TRAD社会保険労務士法人事件(東京地裁令和4年6月29日・労判ジャーナル131号36頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結して主に社会保険労務士補助業務に従事してきたXが、Y社に対し、Y社の解散に伴って解雇されたことは無効であると主張して、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めたほか、雇用契約に基づき、未払賃金等の支払を求めるとともに、Y社の唯一の社員であり、代表者であったBに対し、法人格否認の法理により、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるほか、雇用契約に基づき、未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇有効

未払賃金等支払請求一部認容

【判例のポイント】

1 法人格否認の法理の適用について、法人格が全くの形骸にすぎないというためには、単に当該法人に対し他の法人や出資者が権利を行使し、利用することにより、当該法人に対して支配を及ぼしているというだけでは足りず、当該法人の業務執行、財産管理、会計区分等の実態を総合考慮して、法人としての実態が形骸にすぎないか判断すべきであるところ、Y社の社員はBであったが、Y社が解散するまでの間にこれとは別にB個人が個人事業主として社会保険労務士としての業務を行っていたような事情はうかがわれないし、Y社としての財産管理がされ、決算が行われていたと認められ、このような事情を考慮すると、Y社が実体がなく、形骸化していたとは認められず、また、法人格の濫用とは、法人の背後の実態が法人を意のままに道具として支配していることに加え、支配者に違法又は不当の目的がある場合をいうところ、BがY社の支配者といえるかはひとまず措くとして、Y社を解散させる必要性、合理性があったと認められるのであって、Xが主張するように、Y社の使用者としての責任を不当に免れる目的で本件解雇に及び、Y社を解散させたとは認められないから、支配者に違法又は不当の目的があったということはできず、BがY社の法人格を濫用したとは認められない。

法人格否認の法理の考え方がよくわかりますね。

ご覧のとおり、要件がかなり厳しいので、裁判所は、そう簡単には法人格の否認を認めてくれません。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

解雇389 合意解約申込みの撤回が認められなかった事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、合意解約申込みの撤回が認められなかった事案を見ていきましょう。

日東電工事件(広島高裁令和4年6月22日・労判ジャーナル131号40頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で有期労働契約を締結していたXが、Xについて辞職又は合意解約を理由とする上記労働契約の終了の効果が生じておらず、かつ、上記労働契約が労働契約法19条によって更新されたと主張し、Y社に対し、(1)Xが労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、(2)賃金請求、(3)賞与請求をした事案である。

原判決は、XとY社の労働契約は、Xの退職の意思表示とY社の承諾により終了しているとして、Xの地位確認請求を棄却し、未払賃金等支払請求を一部却下一部棄却したため、Xが控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 本件各退職願の提出行為が、XとY社の労働契約について一方的な解約であって、使用者に到達した時点で解約告知としての効力を有するものといえるか検討する。
Xは、本件各退職願の書式は、Y社の作成のものを用いており、Xに適用されるY社の就業規則の規定内容を併せ考慮すると、本件各退職願を解約告知としての退職の意思表示と直ちに認めることは困難である上、Xの本件各退職願の提出の意図を併せ考慮すると、XがY社の担当者と退職についてなお協議する意思を有していたことは明らかであり、本件各退職願の提出行為をもって、解約告知としての退職の意思表示があったことを認めることはできない

2 ①Xが所属するd部門の最上位の役職に位置するB部長が、令和2年1月31日の時点で、本件各退職願のコピーに決裁印を押していること、②Xは、同日、Hと退職を前提として話合いをしていること、③同年2月3日の本件話合いの時点で、Xは、「総務は、撤回してもそのまま処理し、撤回は出来ないと言っていましたよ。」と述べていること、④Xは、本件各退職願を提出した以降、業務に従事しておらず、本件話合い以降にY社は社内に立ち入ることもしてないことが認められる。
そして、本件各退職願には、退職希望日は記載されていないところ、Y社は、Xに対し慰留や再考を促すことはせず、本件各退職願の提出以降、Xの出社を阻止までしていることからすれば、Y社としては、Xのその時点での言動を考慮し、提出した日を退職を希望する日と解釈して、これに応じて退職を承諾したと解することができ、そして、遅くとも本件話合いの中で控訴人が退職の意思を撤回するかのような言動をとった時点までには、既に、これをXに対し伝えていたと認めることができる。
以上によれば、Xは、本件各退職願に基づく退職の意思表示に対して承諾しており、かつ本件話合いの中でXが退職の意思を撤回するかのような言動をとったことがあったとしても、同時点では、既に、Y社は、承諾し、しかもその承諾の意思表示がXに対して到達していた(C部長は、Xの退職願が受理されていること、それをXも了知していることを前提に、本件話合いで本件退職願①の不備を補正させようとしていた。)のであるから、XとY社との間の労働契約は、既に合意解約によって終了したと認めることができる。

原審判決については、こちらをご覧ください。

この論点は、事前に知っているのと知らないのとで、結論が大きく変わってきてしまいます。この機会に是非、しっかりと押さえておきましょう。

退職合意をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

解雇388 無断欠勤等を理由とする解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、無断欠勤等を理由とする解雇の有効性について見ていきましょう。

キョーリツコーポレーション事件(大阪地裁令和4年9月16日・労判ジャーナル131号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、Y社に対し、無断欠勤等を理由とする解雇は無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、本件解雇前の未払賃金等の支払を求め、XはY社のために時間外労働に従事したにもかかわらず、Y社は労働基準法37条所定の割増賃金を支払わないと主張して、未払割増賃金及び同法114条に基づき付加金等の支払を求めるとともに、XはY社の違法な業務命令により精神的苦痛を被ったと主張して、不法行為に基づき、損害金合計55万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇有効

未払割増賃金等一部認容

【判例のポイント】

1 令和2年5月10日までの期間について、同年4月ないし同年5月頃の社会情勢に鑑みれば、Y社が、頭痛、けん怠感、発熱等の新型コロナウイルス感染症への感染が疑われる症状を発症していたXに対し、感染のおそれが払拭され、体調が万全に回復するまで休業するよう指示したことについて、何らY社に責められるべき点はなかったというべきであり、また、同日以降の期間について、Xの主たる業務は、外回りを含む営業活動であるところ、この当時は、初の緊急事態宣言が発出されているまさにその期間中であり、一般市民及び私企業に対する行動の自粛も求められていたところであるから、Y社としては、微熱とはいえ、発熱が見られる状況にあったXを不特定多数人と接触する可能性の高い外回りの営業に従事させることが躊躇われる状況にあったことは明らかであるから、Xに外回りの営業を担当させなかったY社の判断は、何ら責められるべきものではなかったというべきであり、本件に関し、Y社の責めに帰すべき事由による就労拒否があったものと評価することはできない

2 Xは、取得することのできる有給休暇の日数を全て取得し終えた後もC営業所に出勤せず、また、X代理人を通じて職場復帰の意思を伝えたり、職場復帰のための条件を確認したりすることさえ一切せず、Y社はXに対して「コロナウイルス感染の恐れがなければ元通り業務に復帰していただきたい」との記載のある本件回答書を送付し、Xの復帰を歓迎する旨の連絡をしていたにもかかわらず、Xは、職場復帰に向けられた行動を何ら起こさないまま欠勤を続けていたのであって、上記期間におけるXの欠勤には正当な理由がないものといわざるを得ないから、Xには、就業規則所定の解雇事由(正当な理由がない欠勤が多く、労務提供が不完全であると認められるとき)があったものと認められ、また、Y社は、本件解雇に先立ち、X代理人に対し上記回答書を送付したものの、その後、約1か月半にわたり、Xからは何らの応答もなく、Y社において、これ以上、Xとの間の本件労働契約を維持することは相当でないと考えるに至ってもやむを得ないというべきであり、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないものとはいえない。

結論には異論がないと思います。

本件同様、無断欠勤を理由とする解雇事案においては、「無断」といえるか否かが争点となるケースがあります。この点は、過去の裁判例を参考に慎重に対応する必要がありますので気を付けてください。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

解雇387 新型コロナウイルス感染対策として指示されていたマスク着用をしなかったこと等による解雇が無効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、新型コロナウイルス感染対策として指示されていたマスク着用をしなかったこと等による解雇が無効とされた事案を見ていきましょう。

近鉄住宅管理事件(大阪地裁令和4年12月5日・労判131号2頁)

【事案の概要】

本件は、分譲マンション、賃貸マンションの管理等を業とするY社の従業員であったXが、合意退職はしておらず、また、解雇は無効であるとして、未払賃金等を請求し、また、一方的な配置転換(労働条件変更)を迫り、これを拒否すれば自主退職するしかないと迫ったY社の行為及び解雇により法的保護に値する人格的利益を違法に侵害されたとして、不法行為に基づき、慰謝料等を請求した事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 Xは、本件マンションで管理員として業務を遂行する際や、通勤の際に、日常的にマスクを着用していなかったことがうかがわれる。そうすると、Xは、本件マンションの管理員として職務を遂行する際に、使用者であるY社からの業務上の指示に従っていなかったことになる。
しかし、Xは過去にもY社から同様の行為について注意を受けていたというような事情はうかがわれないこと、潜在的には、(Xのマスク不着用を)連絡をした住民以外にもマスクを着用しないXについて不快感や不安感を抱いた本件マンションの住民がいたことがうかがわれるものの、現実にY社に寄せられた苦情は1件にとどまっていること、Xの行為が原因となって、本件マンションの管理に係る契約が解約されるというような事態は生じていないこと、E課長もXに対してマスク未着用に関する注意をしていないことを認めており、ほかに、Y社がXに対してマスク未着用に関する注意をしたことを認めるに足りる証拠もないこと、Xが新型コロナウイルスに感染したことで、本件マンションの住民あるいはY社内部において、いわゆるクラスターが発生したというような事態もうかがわれないことなどからすれば、新型コロナウイルス対策の不履行に関する一連のXの行動が規律違反に当たるとはいえるものの、同事情をもって、Xを解雇することが社会通念上相当であるとはまではいうことができない。

異論もあるかと思いますが、解雇は重すぎるというのが裁判所の判断です。

いきなり解雇をするのではなく、注意・指導を行うことの大切さがよくわかる事案です。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

解雇386 シフト制アルバイト労働者の就労意思とバックペイ(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、シフト制アルバイト労働者の就労意思とバックペイについて見ていきましょう。

リバーサイド事件(東京高裁令和4年7月7日・労判1276号21頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結して就労していたXが、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求め、労務の受領拒絶後の賃金月額29万3220円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は、XとY社との間に合意退職が成立したとは認められないとして、XのY社に対する雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認請求を認容したものの、Xが平成31年3月13日以降に就労しなかったのは、Y社の責めに帰すべき事由によるものと認めることはできないとして、XのY社に対する同日以降の賃金請求を棄却した。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、令和2年4月から、本判決確定の日まで、毎月10日限り、12万3500円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xによる退職の意思表示については何ら書面が作成されていないところ、Y社によるXの退職の意思の確認も明確には行われておらず、Y社の上記主張によっても、Xの退職時期が判然としない上、Xは最終出勤日の勤務以降も本件寿司店の店舗の鍵を所持し、同店舗に私物を置いたままにしていたこと、同年4月10日にB店長に送信したLINEのメッセージにおいて、退職の意思表示をしたことを強く否定し、一時休職するものの復職の意思がある旨述べていたことからすれば、Xの最終出勤日の勤務前後の限度から、XがY社に対して確定的な退職の意思表示をしたと認めることは困難である。また、上記事情に照らすと、XからY社に対して黙示の退職の意思表示があったと認めることもできない

2 Xは、平成30年12月以降、自ら勤務日数を減少させていた上、本件寿司店は、令和2年4月以降、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、休業や営業時間短縮を余儀なくされ、深夜営業ができない期間が長期に及んでいるのであって、かかる事情の下においては、XがY社の責めに帰すべき事由により就労することができなかった令和2年3月以降に支給を受けられたとする賃金については、Xの平成30年3月から平成31年2月までの間の時間外、深夜の割増賃金も含めた平均賃金月額29万3220円とするのは相当でなく、Xの平成30年12月から平成31年3月までの平均労働時間である1か月95時間に時給1300円を乗じた12万3500円とみとめるのが相当である。

退職の意思表示の有無については、裁判所は非常に厳格に判断しますので、今回のような事情がある場合にはそう簡単に黙示の退職の意思表示を認定してくれません。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

解雇385 医療法人及びその経営者に対する雇用契約上の地位確認が認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、医療法人及びその経営者に対する雇用契約上の地位確認が認められた事案について見ていきましょう。

医療法人A会事件(東京地裁令和4年6月16日・労経速2502号36頁)

【事案の概要】

本件は、現在休業している医院を設置するY1法人及びその経営を実質的に差配するY2と、当該医院に勤務していたXらとの間の紛争に関する事案である。
XらのうちX2及びX4は、まず、現在もY1法人の被用者の地位にあるにもかかわらず、Y1法人がそれを認めないとして、Y1法人に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めている。
その上で両名を含む全てのXらは、それぞれ、Y1法人に対し、各人について未払賃金、解雇予告手当、退職金等の請求をする。
また、Xらは、Y2に対し、Y1法人から上記金員が支払われず、その後Y1法人の破綻によって事実上回収が不可能になったのはY2の放漫経営等が原因であるとして、Y2に対し、不法行為に基づき、損害賠償金+遅延損害金の支払を求めている。

【裁判所の判断】

地位確認認容
→バックペイ

Y2はY1と連帯責任

【判例のポイント】

1 本件医院が管理医師不在のために休業に追い込まれたことの原因は、Y1法人を実質的に支配していたY2が、本件医院の事務局等からの助言にもかかわらず、本件医院の管理医師の確保に適切に取り組まなかったためであると認められる。
そうすると、本件医院の休業後にXらが従前どおりに本件医院で就労することができなくなったのは、専ら債権者であるY1法人の責めに帰すべき事由によるものというべきであるから、民法536条1項本文により、Y1法人は、Xらに対し、反対給付である賃金の支払を拒むことはできない。

2 Y2は、Y1法人を実質的に支配していた立場として、原告らに対し、債務弁済の基礎となる責任財産を費消してはならない義務を負っていたにもかかわらず、故意又は重大な過失によってそれを費消し、Xらの債権を事実上回収不能なものとしたものということができる。
したがって、Y2は、Xらの請求権に対して不法行為に基づく損害賠償の義務を負う(なお、上記の事実及びY2が被告法人の理事の地位にあることによれば、Y2の損害賠償義務は、医療法48条1項によっても基礎付けられると考えられる。)。

上記判例のポイント2のような理屈で個人に対する不法行為責任が認められることは押さえておきましょう。

なお、医療法48条1項は以下のとおり規定しています。

「第四十八条 医療法人の評議員又は理事若しくは監事(以下この項、次条及び第四十九条の三において「役員等」という。)がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があつたときは、当該役員等は、これによつて第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。」

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。