Category Archives: 労働時間

労働時間102 変形労働時間制は無効であるとして、未払割増賃金等支払請求が一部認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、変形労働時間制は無効であるとして、未払割増賃金等支払請求が一部認められた事案を見ていきましょう。

サカイ引越センター事件(東京地裁立川支部令和5年8月9日・労判ジャーナル140号18頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され、Y社において引越運送業務に従事していたXらが、時間外労働に係る割増賃金等が未払であると主張し、Y社に対し支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 本件就業規則において現業職の始業・終業時刻シフトの組合せの考え方、公休予定表の作成手続及び周知方法等の定めはなく、D支社は、労使協定上、いずれのシフトを採用するか明示せず、公休予定表ないし出勤簿においてもシフトの記載は見当たらないところ、時期によって異なるシフトを採用し、シフトAからシフトBへの移行日も全現業職において一律ではなかった上、顧客の引っ越しの関係上個別の従業員ごとに早出・遅出のシフトも組まれていたというのであり、また、現業職の労働時間が、書面により始業・終業時刻をもって特定されていたと評価することはできず、さらに、D支社においては、各月の30日前までに従業員の公休予定表を作成・周知する取扱いが徹底されておらず、公休予定表の作成後も、従業員らの申出以外の理由により、公休予定日が変更されることがまれではなかったことに照らすと、各月の30日前までに公休予定表が作成される形がとられていたとしても、実態として、各期間の労働日が特定されていたと評価することはできないといわざるを得ないから、本件請求対象期間におけるD支社の変形労働時間制の定めは、労働基準法32条の4の要件を充足しないものとして無効である。

本件同様、変形労働時間制の有効要件を満たさず、無効と判断されているケースが後を絶ちません。

安易に同制度を導入することは控えるべきでしょう。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

 

労働時間101 過半数代表者の選出に違法があるとして、変形労働時間制・36協定が無効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、過半数代表者の選出に違法があるとして、変形労働時間制・36協定が無効とされた事案を見ていきましょう。

未払割増賃金等支払請求事件(釧路地裁帯広支部令和5年6月2日・労判ジャーナル140号32頁)

【事案の概要】

本件は、社会保険労務士であるBと雇用契約を締結して就労していたAが、Bに対し、①労働契約に基づき、平成31年4月から退職した令和3年4月までの時間外割増賃金等の支払、②不法行為に基づき、有効な労働基準法36条に基づく協定を欠き時間外労働を命ずる適法な権限がないのに、労働基準法32条及び同法36条に違反してBがAに対し違法な残業命令を繰り返して勤務をさせてきたことに対する慰謝料150万円等の支払、③労働契約に基づくBの私生活時間配慮・職場環境調整義務違反による慰謝料の支払、④時間外割増賃金に係る付加金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 過半数代表者の選出手続は、法に規定する協定等をするものを選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法によらなければならない(労働基準法施行規則6条の2第1項第2号)ところ、Bの事業所においては、平成16年に1年単位の変形労働時間制を採用した際に、従業員の間で従業員代表としてCを選出する話し合いが持たれた後は、従業員間で話し合いがされないままCが従業員代表としてBとの間で1年単位の変形労働時間制についての協定を締結しており、これによれば、前記の協定に先立って、選出目的を明らかにした投票、挙手等の方法によるCを従業員代表とする民主的な手続は行われていないのであるから、前記各協定届には、労働基準法施行規則6条の2第1項所定の手続によって選出された者ではない者が、Bの労働者の過半数代表者として署名押印しているといわざるを得ないから、Bにおける1年単位の変形労働時間制は無効である。

2 確かに、36協定が無効となれば、使用者は労働者に対して時間外労働を命ずる労働契約上の根拠を欠くことになることから、時間外労働を命ずる業務命令権の行使は違法となるというべきであるが、BにおけるA以外のいずれの労働者もCについて労働者代表としての適格性を否定する者はおらず、仮に従業員代表を選出する手続が行われていれば、Cが従業員代表に選出されていた可能性が高いこと、Aも36協定がCによって締結されていることをBの事業所における勤務開始後数年以内に認識しながら、これに対して異議を述べることをしていなかったこと、法定外労働に対しては、時間外割増賃金の支払が命じられることになることに照らせば、36協定が無効と判断されたとしても、その違法性は、慰謝料を命ずべき違法性があるとは認められない

変形労働時間制の無効例が後を絶ちません。

「例外規定の厳格解釈」がここでも影響しています。

労使協定締結時の過半数代表者の選出方法には気を付けましょう。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働時間100 就業規則に記載がない勤務シフトの使用を理由に、変形労働時間制の適用が無効と判断した一審判決が維持された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、就業規則に記載がない勤務シフトの使用を理由に、変形労働時間制の適用が無効と判断した一審判決が維持された事案を見ていきましょう。

日本マクドナルド事件(名古屋高裁令和5年6月22日・労経速2531号27頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、Y社に対し、
①Y社が、XとY社との労働契約が平成31年2月10日付け退職条件通知書兼退職同意書による合意解約により終了したと主張するのに対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、
②主位的に退職の意思表示が無効であることを理由とする労働契約に基づく賃金請求として、予備的に違法な退職強要があったことを理由とする不法行為又は債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求として、退職日の翌日である令和元年5月1日から本判決確定の日まで、毎月末日限り45万4620円+遅延損害金の支払、
③時間外労働を行ったと主張して、労働契約に基づき平成29年3月13日から平成31年2月12日までの未払割増賃金合計486万0659円の一部である61万0134円+遅延損害金の支払、
④付加金+遅延損害金の支払
⑤(ア)Y社における業務や違法な退職強要等により労作性狭心症及びうつ病を発病したことを理由とする不法行為又は債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求若しくは(イ)上司らによるパワーハラスメント等により人格的利益を侵害されたことを理由とする使用者責任(民715条)に基づく損害賠償請求として、慰謝料500万円の一部である200万円+遅延損害金の支払
を求める事案である。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 変形労働時間制の有効性について
当裁判所の判断は、原判決41頁10行目から42頁16行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
したがって、Y社の定める変形時間労働制は無効であるから、本件において適用されない。

第1審判決は、こちらをご覧ください。

そういうことのようです。

多くの事案で変形労働時間制の適用が無効と判断されています。

有効要件をしっかりと満たしているかを専門家にチェックしてもらうことをおすすめします。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働時間99 研修医のオンコール待機時間等の労働時間該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、研修医のオンコール待機時間等の労働時間該当性について見ていきましょう。

医療法人社団誠馨会事件(千葉地裁令和5年2月22日・労判1295号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が開設する病院において後期研修医として勤務していたXが、Y社に対し、①雇用契約又は労働基準法37条1項及び同条4項に基づき、①未払の割増賃金658万2125円+遅延損害金、②付加金+遅延損害金、③上級医によるパワーハラスメントのために適応障害を発症し退職を余儀なくされ損害を被ったと主張して、安全配慮義務の違反による損害賠償請求権に基づき、703万9522円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、503万3005円+遅延損害金を支払え。

Y社はXに対し、付加金322万0483円+遅延損害金を支払え。

Y社はXに対し、233万9522円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件契約では、年俸922万8000円を12等分割(月額基本給76万9000円)にて支給する、原則として日直・当直などを行った場合は、別途規程により加算されるが、臨時日・当直及び時間外手当、早出、呼出、待機、手術手当等の手当については本給に含まれるとの合意がされたにとどまり、固定残業代額の明示はなく、また、Y社が、Xに対し、本件契約締結の際、基本給のうち20万4000円を固定残業代として支払う趣旨であるとの説明をしたとの的確な証拠もない。そうすると、Xが、月額基本給のうち時間外労働に対する対価がいくらかであるかを判別できたとはいえないから、上記合意は無効である。

2 オンコール当番医は、本件病院外においては、緊急性の比較的高い業務に限り短時間の対応が求められていたに過ぎないものであり、Xについても、これを求められる頻度もさほど多くないものと認められる。そうすると、本件病院外でのオンコール待機時間は、いつ着信があるかわからない点等において精神的な緊張を与えるほか、待機場所がある程度制約されているとはいえるものの、労働からの解放が保障されていなかったとまで評価することはできない

3 本件病院に出勤して勤務した時間は、別紙5の「病院側試算」欄の「オンコール対応」欄記載のとおりであり、その時間が労働時間であると認められる。

上記判例のポイント2の判断は、最高裁の考え方に沿うものですが、なぜこのような事情があると労働から解放されていると評価できるのか、いまだによくわかりません。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

 

労働時間98 事業場外みなし労働時間制の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、事業場外みなし労働時間制の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

東京精密事件(東京地裁令和4年11月30日・労判ジャーナル138号38頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、Y社に対し、A営業所の主任であり、Xの上司であったBからパワーハラスメントを受けており、Y社に安全配慮義務違反があったとして、債務不履行に基づく損害賠償金等の支払を求めるとともに、時間外労働をしたとして、労働契約に基づき、未払割増賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

損害賠償請求棄却

未払割増賃金等支払請求一部認容

【判例のポイント】

1 Xは営業職であったが、原則としてA営業所に出社して営業に出た後、一旦帰社して退勤していた上、営業先においてもY社から貸与を受けたパソコン、スマートフォンを携帯して上司からの指示を受け、営業先、営業先での滞在時間、営業先に関する報告事項、移動時間等を記載した販売員週報を1週間ごとにY社に提出していたのであるから、Y社がXの出勤時刻、退勤時刻、営業先での行動等を把握することに支障があったとは認められず、また、Xが勤怠月報に出勤時刻及び退勤時刻を手動で入力したところ、Cは毎日ではなく月単位で入力時刻の承認を行っていたのであって、Y社が労基法上の労働時間把握義務を尽くしていたとはいい難く、Xが従事する営業業務は、「労働時間を算定し難いとき」に該当するとはいえないから、事業場外みなし労働時間制の適用があるとはいえない。

このような事情が認められる限り、事業場外みなし労働時間制の適用は認められません。

営業職に対して安易に同制度を導入している会社が散見されますのでご注意ください。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働時間97 36協定の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、36協定の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

医療法人社団菅沼会事件(東京地裁令和4年12月26日・労判ジャーナル135号46頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されているXが、Y社に対し、Y社が、Xの加入する労働組合が申し入れた過半数代表者の選出手段に関する協議等の要求を拒絶し、Xを過半数代表者の選出手続から排除し、Xがは関数代表者として選出されたにもかかわらずその地位を否定し、Xに無効な労使協定に基づく残業を指示し、もってXの権利を侵害したと主張して、不法行為に基づく損害賠償金約70万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件クリニックの従業員の過半数で組織する労働組合でなければ、Y社との間で、本件クリニックの従業員の36協定を締結する権限はないから、X以外の本件クリニックの従業員の加入者の有無・加入者数が明らかではなかった本件組合との間で、団体交渉事項とされていなかったにもかかわらず、Y社が、本件クリニックの過半数代表者の選出について事前に協議する義務はないというべきであるから、Y社がこれを拒否する旨の回答をしたことに違法はないというべきである。

2 過半数代表者の選出手続は、「協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法」によらなければならないが(労働基準法施行規則6条の2第1項2号)、使用者において立候補者の一般募集を行うことが義務付けられているものではなく、また、労働者又は労働組合からの要求によってそのような義務が生じるとも解されないから、Xが、第2回団体交渉で、本件組合との事前協議を行わないことに抗議したことなどをもって、Y社において一般募集を行う義務が生じたということはいえず、Y社が令和元年の過半数代表者の選出に当たり立候補者の一般募集を行わなかったことが不法行為を構成するとは認められない。

労使協定締結時の過半数代表者の選出方法については、一般的なルールが定められていますので、留意点をしっかりと押さえてながら進めていきましょう。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働時間96 不動産会社における事業場外みなし労働時間制適用の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週もがんばりましょう。

今日は、不動産会社における事業場外みなし労働時間制適用の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

住友不動産事件(名古屋地裁令和5年2月10日・労判ジャーナル136号36頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に対し、雇用契約に基づき、時間外労働に対する未払割増賃金等の支払及び付加金等の支払を求め、また、Xは、パワーハラスメントを受けたとして、営業所の所長であるC及びXの指導係であるDに対しては、不法行為による損害賠償請求権に基づき、Y社に対しては、使用者責任(不法行為)、職場環境配慮義務違反又は措置義務違反(不法行為又は債務不履行)による損害賠償請求権に基づき、連帯して、330万円等の支払をもとめた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 Xは、土地の確認等のために営業所外での業務を行うことがあったと認められるが、Xは、Cに対し、一日の行動予定を毎朝メール送信しており、その中には営業所外での業務を行う予定が記載され、また、Xは営業所外での業務を行う場合でもいったん出社した上で、営業所外に移動し、再び営業所に戻っているのであるから、Y社がXの勤務の状況を具体的に把握することが困難であると認めるに足りないから、「労働時間を算定し難いとき」に該当するとは認められず、Xに対する事業場外みなし労働時間制は適用されない。

2 Cの行為について、Xに対する指導の中で半年程度の間、暴行、暴言が少なくない頻度で継続的に行われたことが認められ、XがY社を退職した理由の1つにもなったことが認められるが、他方で、Cによるハラスメントが業務と無関係に行われたものではなく、指導の必要性自体は否定できないこと等の事情を総合考慮すれば、Cの不法行為によってXに生じた精神的苦痛に対する慰謝料としては、70万円と認め、また、Y社は使用者責任に基づく損害賠償として連帯して、77万円等を支払う義務を負う。

事業場外みなし労働時間制については、過去の類似の裁判例と同様、有効に運用することは極めて困難です。

残業代請求リスクが高まりますので、安易な導入は控えましょう。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働時間95 夜勤開始前の労働時間該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、夜勤開始前の労働時間該当性に関する裁判例を見ていきましょう。

TSK事件(東京地裁令和4年12月3日・労判ジャーナル135号50頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結して物品の検品及び警備業務等に従事していたXが、Y社に対し、未払時間外割増賃金等の支払を求め、年次有給休暇の時季指定権を行使し、40日の年休を取得したにもかかわらず、そのうち20日分に相当する賃金の支払を受けていないとして、賃金19万円等の支払を求め、労働基準法114条に基づく付加金約785万円等の各支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 Xは、日勤時の昼休憩を取るときは、制服を着たまま、駐車場に停めている自らの車で休憩を取り、車内で食事などをしていたところ、夜勤開始前時間においても、駐車場に停めている自らの車の中で食事をしていること、本件施設の構内に出ることも可能であったことが認められ、X自身も当法廷において、「仕事してもしなくてもいい時間」である旨供述していることに照らせば、夜勤開始前時間においては労働からの解放が保障されていたというべきであるから、夜勤開始前時間において、実質的にXに労働契約上の役務の提供が義務付けられているとはいえず、夜勤開始前時間はXが使用者の指揮命令下に置かれているとはいえず、労働基準法上の労働時間に当たらない。

この内容からすれば、指揮命令下に置かれていたとは評価できませんね。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働時間94 勤務時間短縮を理由とする未払賃金等支払請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、勤務時間短縮を理由とする未払賃金等支払請求に関する裁判例を見ていきましょう。

クオール事件(東京地裁令和4年12月2日・労判ジャーナル134号34頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間でパートタイマーとして労働契約を締結し、Y社の運営するコンビニエンスストアにおいて労務を提供していたXが、Y社によって夜勤シフトの始業時間が一方的に変更され、勤務時間が短縮されたことは無効であり、また、時間外労働及び深夜労働に係る割増賃金にも未払があるとして、Y社に対し、労働契約に基づき、短縮された勤務時間に係る未払賃金及び同期間の未払の割増賃金等の支払に加え、労働基準法114条に基づく付加金等の各支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

未払割増賃金等請求一部認容

【判例のポイント】

1 Xは、本件雇用契約において夜勤の始業時刻を午後10時とする旨の合意をしたにもかかわらず、XがD店へ異動した後に、Y社が一方的に夜勤の始業時刻を午後11時に変更し、勤務時間を1時間短縮したことは無効であると主張するが、XがY社に入社する際に交わされた成立に争いのないパートタイマー雇用契約書には、終業時間について、「月~日 23:00~翌8:00」、「上記時間帯で週5日間、週39.5時間のシフト制」と記載されていることから、XとY社との間で始業時刻に関する別段の合意をするなどの特段の事情が認められない限り、本件雇用契約書記載のとおり始業時刻については午後11時とする合意があったものと認めるのが相当であるところ、XとY社との間で、本件雇用契約書の記載内容とは異なる始業時刻に関する別段の合意をしたなどの特段の事情は認められないから、本件雇用契約書により、Xの入社の時点から夜勤の始業時刻を午後11時からとする雇用契約が成立したと認めるのが相当であり、本件賃金請求は理由がない。

これだけを読むと結論に異論がないように見えますが、「別段の合意」の有無が争点となることは少なくありません。

最終的に合意の存在が認定できない場合には、原則通り、契約書記載の内容が雇用契約の内容となります。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働時間93 タイムカード等により機械的に労働時間が記録されていない場合の労働時間の算定方法(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、タイムカード等により機械的に労働時間が記録されていない場合の労働時間の算定方法に関する裁判例を見ていきましょう。

クロスゲート事件(東京地裁令和4年12月13日・労判ジャーナル134号28頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていた元従業員114条所定の付加金等の支払を求め、Xが令和元年10月7日から10日までの間のアルバイトをしていたときの未払アルバイト代等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

未払割増賃金等請求、付加金等請求一部認容

未払アルバイト第等請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社においては、Xの労働時間をタイムカード等により機械的に記録しておらず、その把握は、従業員が所定の勤務簿(MicrosoftExcelのデータ)に各日の出退勤時刻等を入力して提出する方法によりなされていたことが認められ、Y社がXの提出した出勤簿に記載された勤務時間について疑義を述べた形跡も見当たらないことに照らすと、別段の反証のない限り、Xの始業時刻及び終業時刻は当該出勤簿により認定するのが相当であり、Y社からかかる反証はなされておらず、そして、本件労働契約においては各日の休憩時間が1時間と定められているから、別段の主張立証のない限り、各日について1時間の休憩がとられていたものと認めるのが相当であり、Xからかかる主張立証はなされていないから、Xは、令和2年1月6日から5月20日までの間、「裁判所 時間シート」のとおり労務を提供したものと認められる。

会社から具体的な反証がなく、単に原告である労働者の主張立証が不十分であると反論するだけでは足りません。

労働時間を管理する義務を使用者が負っていることの帰結といえるでしょう。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。