Category Archives: 競業避止義務

競業避止義務33 在職中の競業行為等が自由競争の範囲を逸脱し違法とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、在職中の競業行為等が自由競争の範囲を逸脱し違法とされた事案を見ていきましょう。

Z社事件(名古屋地裁令和5年9月28日・労経速2535号13頁)

【事案の概要】

本件は、X社が、X社の幹部従業員であったYが在職中にZ社を設立し、平成31年2月1日には主要な取引先3社をしてX社との契約関係を終了させると同時に部下従業員とともに一斉にX社に退職願を提出した上で、Z社で競業行為に及んだことは労働契約上の債務不履行(誠実義務違反)又は不法行為に該当すると主張して、Yに対しては債務不履行又は不法行為に基づき、Z社に対しては会社法350条に基づき、それぞれ、損害賠償として、当該取引先3社との取引から得られたはずの逸失利益等の損害の一部である9億円+遅延損害金の支払を求める事案である。

本事件は、令和3年1月14日に、Yの上記行為がX社の禁止する競業行為に該当するとして不法行為の成立を認めた中間判決が出されており、本判決では、かかる中間判決を受け、具体的な損害の有無及び損害額が争点となった。

【裁判所の判断】

Yらは、Xに対し、各自8178万6120円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 提携先3社との取引に係る逸失利益のうち、自衛隊をエンドユーザーとするものについては、X社が平成31年度(令和元年)に得られたであろう利益の限度で本件行為との間の相当因果関係を認めることができる。しかし、Yの退職後1年を超える令和2年度以降については、Yの不法行為がなくてもX社が提携先3社から取得した独占販売代理権を利用して利益を上げられた蓋然性が高いとは認められない
したがって、逸失利益の金額は、Z社が現に平成31(令和元)年度に自衛隊との間で契約を締結した取引金額を基礎に算定するのが相当である。算定の基礎となる契約金額は7億0857万1600円で、X社が経費の支出を相当程度免れていること、X社が提携先3社との間で合意していたコミッション料の割合を総合すると、本件行為と相当因果関係のある逸失利益は上記契約金額の約1割の7058万7160円である。
他方、民間企業をエンドユーザーとする取引は従前の取引の頻度に照らすと、本件行為から1年程度の期間のうちに新たな取引が行われていた蓋然性が高いとはいえないため、逸失利益の損害が生じたとは認められない

「在職中の」というミソです。

この種の事案では、裁判所は損害額の認定を非常に謙抑的に行います。

原告からしますとなかなか納得しにくい認定額かと思います。

競業避止義務の考え方については顧問弁護士に相談をし、現実的な対策を講じる必要があります。

競業避止義務32 競業避止義務違反に基づく会社からの損害賠償請求の可否(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、競業避止義務違反に基づく会社からの損害賠償請求の可否について見ていきましょう。

REI元従業員事件(東京地裁令和4年5月13日・労判1278号20頁)

【事案の概要】

本件のうち、甲事件は、Y社が、Xに対し、Xが令和2年10月9日付け秘密保持契約書に定める競業避止義務に違反し、あるいは自由競争の範囲を逸脱した違法な競業を行ったと主張して、債務不履行又は不法行為に基づき、約定損害額139万8331円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

また、本件のうち、乙事件は、Xが、Y社に対し、Xが在職中であった令和2年9月1日から同月30日までの賃金等36万5150円が支払われていないと主張して、雇用契約に基づき、同額の支払を求めるとともに、債務不履行に基づき、同額に対する退職後に到来する賃金支払日の翌日である同年10月16日から支払済みまで賃金の支払の確保等に関する法律6条1項の定める年14.6%の割合による遅延利息の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

1 甲事件に係るY社の請求を棄却する。

2 Y社は、Xに対し、36万5150円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社は、主にシステムエンジニアを企業に派遣・紹介する株式会社であって、その具体的な作業については各派遣先・常駐先・紹介先会社の指示に従うものとされていたと認めることができる。このようなY社におけるシステムエンジニアの従事する業務内容に照らせば、Y社がシステム開発、システム運営その他に関する独自のノウハウを有するものとはいえないし、Xがそのようなノウハウの提供を受けたと認めるに足りる証拠もないのであって、Y社において本件合意書が退職後の競業避止義務を定める目的・利益は明らかとはいえない

2 ・・・いずれも文言上、転職先の業種・職種の限定はないし、地域・範囲の定めもなく、「取引に関係ある」、「競合関係にある」又は「お客先に関係ある」事業者とされ、Y社の取引先のみならず、Y社の客先の取引先と関係がある事業者までも含まれており、禁止する転職先等の範囲も極めて広範にわたるものといわざるを得ない。・・このようなXの職務経歴に照らすと、上記の範囲をもって転職等を禁止することは、Xの再就職を著しく妨げるものというべきである。

3 以上のように、Y社の本件合意書により達しようとする目的は明らかではないことに比して、Xが禁じられる転職等の範囲は広範であり、その代償措置も講じられていないことからすると、競業禁止義務の期間が1年間にとどまることを考慮しても、本件合意書に基づく合意は、その制限が必要かつ合理的な範囲を超える場合に当たるものとして公序良俗に反し、無効であるといわざるを得ない。

だいたいこういう結論になります。

競業避止義務の考え方については顧問弁護士に相談をし、現実的な対策を講じる必要があります。

競業避止義務31 派遣会社における同業他社への引抜き行為の違法性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、派遣会社における同業他社への引抜き行為の違法性について見ていきましょう。

スタッフメイト南九州元従業員ほか事件(宮崎地裁都城支部令和3年4月16日・労判1260号34頁)

【事案の概要】

本訴:X社は、X社の従業員であったYが、Yの設立したZ社と共謀の上、X社に在職中、X社の他の従業員をZ社に引き抜いたと主張し、Yに対しては不法行為又は債務不履行に基づき、Z社に対しては不法行為に基づき、損害賠償金2513万0595円+遅延損害金の支払を求めた。

反訴:Yらは、X社が、Yの名誉及びZ社の信用を毀損する行動を行っていたと主張し、X社に対し、不法行為に基づき、損害賠償金+遅延損害金の支払を求めた。

【裁判所の判断】

1 Y及びZ社は、X社に対し、連帯して315万5587円+遅延損害金を支払え。

2 X社は、Yに対し、77万円+遅延損害金を支払え。

3 X社は、Z社に対し、110万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 前提として、登録状態スタッフは、そもそもX社の従業員ではないこと、派遣スタッフは、より良い待遇やより多くの就業先の可能性を求め、複数の派遣元企業に登録するのが通常であることから、債務不履行又は不法行為が問題となる引き抜き行為の対象にはならない

2ー1 本件で問題となっている引き抜き行為は、いずれも派遣先企業を変えずに、派遣元企業だけを変えたというものである。
このような場合、X社は、まずは、当該派遣スタッフの派遣料相当額の売上げを失うことになる。これに加え、当該派遣先企業のスタッフ受け入れ可能人数には上限があると考えられることから、X社が、当該派遣先企業へ代わりの派遣スタッフを派遣することが不可能になる可能性が高くなる。
そのため、X社から移籍してきた派遣スタッフをX社在籍時と同じ派遣先企業へ派遣する行為は、X社に対する影響が大きい。
2-2 Z社は、YがX社に在職中の平成30年8月1日から4名の雇用スタッフをQ3に派遣し、収益を上げている。被用者は、会社に在職中は雇用契約上、職務専念義務を当該会社に対して負っているので、当該会社が副業を認める等の特段の事情がない限り、実際に収益を上げることは許されない。
そうすると、Yが、X社在職中に、Z社を設立し、実際に収益を上げていた事情は、行為の悪質性を基礎づける
2-3 Yは、勧誘の際、派遣スタッフに対し、X社とは話がついているかのような話をし、他方で、X社には内密にするよう依頼し、派遣先企業に対しても、派遣スタッフの移籍は、X社も了承済みであるかのような言動を行っている。
勧誘を受けた派遣スタッフにとっては、自身に対する待遇が最も大きな関心事であることは否定できないが、派遣先企業を変えることなく派遣元企業が変わることについては、従前雇用契約を締結していた原告との関係を気にして、原告による了承があるかは相当程度関心を持つのが通常であると考えられる。現に、P6も、X社と被告らとの間で、派遣スタッフの移籍について話がついていたと聞いたことが、移籍の決断をする理由となった旨供述している。
また、派遣先企業にとっても、派遣スタッフを従前派遣してくれていたX社との信頼関係の問題から、X社による了承があるかは大きな関心事であると考えられる。
そうすると、派遣スタッフ及び派遣先企業に対するYの言動には、問題があるといわざるをえない
2-4 Q2営業所の雇用スタッフ及び粗利は、平成30年6月は163人、648万0065円であったのに対し、同年9月は133人、331万4543円であり、被告らによる引き抜き行為の前後でそれぞれ減少していることに照らすと、被告らによる引き抜き行為がX社に与えた影響は軽視することができない

3ー1 被告らがX社に対する負の印象を喧伝し派遣スタッフを移籍させたものではないこと、Yがスタッフナビゲーターの情報を持ち出して引き抜き行為を行っていたわけではないこと、X社よりも良い待遇をうたって派遣スタッフを勧誘すること自体は問題がないこと、平成30年6月から8月は、Q2営業所の粗利率は、Q2営業所の従業員の中ではP7が担当する企業が一番高く、Yが粗利率の高いところを狙って引き抜き行為を行ったとは認められないことなどといった事情を考慮しても、本件の引き抜き行為は社会的相当性を逸脱しているといわざるを得ない。
よって、Yは、引き抜き行為について債務不履行又は不法行為責任を負う。
3-2 また、Z社は、Yにより設立され、Yが代表取締役を務めることから、Z社の行為とYの行為は一体といえ、Z社は、引き抜き行為によって、経済的利益を得ている立場にある。
よって、Z社は、Yと共謀の上、社会的相当性を逸脱した引き抜き行為を行っていたものと認められ、不法行為責任を負う。

4ー1 これらの文書中の「重大な非違行為」、「当社の事業に対して、重大な悪影響を及ぼしております」、「当社の従業員及び当社の取引先に対して、真実と異なる内容の説明を行う等をしていた」、「Y氏に対し懲戒解雇を申し渡しております」、「Y氏及びZ社は、当社が長年月をかけて構築した、このような有形・無形の資源を理由なくして侵奪しております」、「Y氏は、・・・当社の基幹システムである「スタッフナビゲーター」に保管されている顧客情報および個人情報を無断で持ち出し勝手に利用していた」等の記載は、既知の事実ということはできず、その事実の有無に関係なく、経済活動を営んでいく被告らの社会的評価を低下させるものであることは否定することができない
4-2 上記文書に記載された内容は、X社と対立関係にある小規模な一企業にすぎないZ社及びその代表者であるYに関する事実及びその評価にすぎず、公共の利害に関する事実ということはできない。
4-3 また、その記載内容も被告らを誹謗中傷するものであり、およそ公共の利害に関するものということはできない。
4-4 また、配布された文書に記載された情報が公共の利害に関するものということはできない。その上、「Y氏からZ社へ派遣契約を切り替えるよう勧誘されたとしても、一切取り合わないようお願い申し上げます」などといった記載からは、公益を図るためというよりは、X社の経済的利益を守るために、X社は文書の配布を行ったと認められる。
4-5 さらに、配布した文書の真実性については、Yを懲戒解雇した事実や、Yがスタッフナビゲーターに保管されている顧客情報及び個人情報を無断で持ち出して勝手に利用していた事実は、真実ではなく、これを真実と信じたことに関する正当な根拠もない。
よって、公共の利害に関する事実、公益を図る目的、内容の真実性に関しては、X社の主張を認めることはできず、これらを理由とする違法性阻却事由は認められない。
4-6 また、X社は、被告らの引き抜きを受けて、自身の経済的損失を最小限に食い止めるために、派遣スタッフや派遣先企業に文書を配布せざるを得なかった旨主張する。
しかし、X社が派遣スタッフや派遣先企業に配布した文書は、被告らを誹謗中傷する内容を含んでいるものであり、それが複数回にわたり配布されていることなどに照らすと、相当性があるとは認められない。
4-7 以上より、X社の主張する違法性阻却事由は認められず、X社は、被告らの被った損害につき、不法行為に基づく損害賠償責任を負う

本件は、派遣会社に関する紛争ですが、決して派遣業界特有の問題ではありません。

特に注意が必要なのは、上記判例のポイント4-1~7です。

引抜き行為発覚後、被害会社としての対応を誤ると、名誉毀損、業務妨害等を理由に損害賠償請求の反訴を起こされてしまいます。

感情的にならず、慎重に対応することが求められます。

引抜き行為の問題については顧問弁護士に相談をし、慎重に対応を検討してください。

競業避止義務30 引抜き行為等に基づく損害賠償請求が棄却された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、引抜き行為等に基づく損害賠償請求が棄却された事案を見ていきましょう。

Unity事件(大阪地裁令和3年10月15日・労判ジャーナル120号36頁)

【事案の概要】

本件本訴は、X社が、元従業員であるYに対し、Yは労働契約上の競業避止義務ないし秘密保持義務に違反してX社の新規事業をYが設立した新会社に移行させ、かつ、X社の他の従業員に対してX社を退職するよう唆したなどと主張して、不法行為に基づき、損害金合計705万2883円+遅延損害金の支払を求める事案である。

本件反訴は、Yが、X社に対し、YはX社から令和元年10月分の賃金の支払を受けていないなどと主張して、労働契約に基づき、同月分の未払賃金34万7224円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

本訴請求棄却

X社は、Yに対し、34万7224円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 確かに、Yは、X社を退職するのに先立ち、D及びCに対し,退職後にBと共に新会社であるc社を立ち上げて事業活動を行う予定である旨を伝え、第6回会議の後には会食を開いてD及びCに対して待遇面についての話をするなどしており、これらの事情からすれば、D及びCも被告のc社における事業活動に一定の興味を示していた可能性があることは否定できない。
しかし、Yが、D及びCに対し、X社からの独立の予定を告げ、仮にX社からc社に転職した場合における待遇面についての説明をすることを超えて、その地位を利用して圧力をかけるなどしてc社への転職を強く求めたとの事実を認定することはできない。現に、Dは、令和元年10月15日の時点でc社への転職をしない旨の意向を明確に表明していたし、D及びCは、いずれも、結果として、c社には就職しなかった

2 これに関し、X社は、Yは上司としての立場を利用してDの引抜きを敢行し、Cに対しては、X社での雇用条件より好待遇であるなどと述べてc社への就職を強く勧誘し、X社に在籍中であったにもかかわらず社外で行われた会議に出席させるなどの強引な引抜行為に及んだものである旨主張する。
しかし、Yがその地位を利用してDの引抜きを図ったと認めるに足りる証拠はなく、Cについても、その意思に反するような強引な働きかけがされたものと認めるに足りる証拠はない。本件証拠によって認定することのできる事実は、YがXから独立するに当たり、その旨を周囲の同僚ないし部下であるD及びCに伝えたところ、同人らがYの独立後に立ち上げることになる新会社に就職することについて一定の興味を示したため、YがD及びCに対して転職が実現した場合の待遇面について説明したというものにすぎず、Yによる社会的相当性を逸脱した引抜行為があったものと認めることはできない
D及びCは、いずれも、結果的に、X社を退職してしまったが、D及びCの退職と被告の言動との間に相当因果関係があるとはいい難い。
以上のとおりであって、YによるD及びCに対する社会的相当性を逸脱した違法な引抜行為があったものと認めることはできず、これに反する原告の主張は採用できない。

引抜き行為については、本件同様、単に「よかったらうち来ない?」程度の勧誘では違法と評価されることはほとんどありません。

最終的には、勧誘された従業員の職業選択の自由に委ねられているわけです。

引抜き行為の問題については顧問弁護士に相談をし、慎重に対応を検討してください。

競業避止義務29 取引先奪取行為等を理由とする未払退職金請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、取引先奪取行為等を理由とする未払退職金請求に関する裁判例を見てみましょう。

ユフ精器事件(東京地裁令和3年3月30日・労判ジャーナル114号48頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、本訴として、Y社に対し、退職金規程に基づき退職金約685万円等の支払を求め、これに対し、Y社は、反訴として、Xに対し、取引先を違法に奪い、在庫品を無断で搬出するなどの違法行為をしたとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき損害約4619万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

本訴退職金請求認容

反訴損害賠償請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社はXが本件4病院に対し、取引先を変更するよう社会通念上自由競争の範囲を逸脱した方法で働きかけた旨主張するが、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した方法で働きかけたことを認めるに足りる証拠はなく、そして、M記念病院以外の病院、医療センター及び脳神経センターについては、Xが取引先を変更するよう働きかけたことを認めるに足りる証拠はないから、Y社の主張を認めることはできない。

2 Y社は、Xが、本件搬出行為、本件販売行為及び本件取引先奪取行為という一連の行為を行ったことにより、本件4病院は、Y社との取引を終了させたと主張するが、Xは、本件取引先奪取行為をしたと認めることができず、そして、Y社の方で、Xが退職することとなった後に本件4病院に対して積極的な営業活動を行ったことは認められず、かえってY社は、東京警察病院に対してXと連絡を取らないように求める書面を差し入れるなどしてY社の社内に紛争を抱えていることをあえて同病院に知らせてその印象を悪化させる行動にすら及んでおり、これらの状況に照らせば、本件4病院がY社との取引を終了したことは、かえって専らY社のフォロー不足が原因であると推認することができ、本件搬出行為及び本件販売行為と本件4病院がY社との取引を終了させたこととの因果関係を認めることはできないから、Y社の前記主張を認めることはできず、Y社の反訴に係る損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

顧客は、会社ではなく担当者につくのは、美容師やキャバ嬢に限った話ではありません。

その結果、担当従業員が退職することによって、「顧客を奪われた」ように見えてしまうことは多々あります。

しかしながら、著しく不相当な事情がない限り、裁判所は「自由競争」を重んじます。

競業避止に関する裁判は、多くの場合、会社に不利な結果となりますのでご注意ください。

競業避止義務の考え方については顧問弁護士に相談をし、現実的な対策を講じる必要があります。

競業避止義務28 競業避止義務違反に基づく会社からの損害賠償請求の可否(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、競業避止義務違反に基づく会社からの損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

レジェンド元従業員事件(福岡高裁令和2年11月11日・労判1241号70頁)

【事案の概要】

本件は、保険代理店業等を営むY社が、かつてY社の従業員であったXにつき、①Y社在職中に同業他社の使用人となった、②Y社在職中に、同業他社のための営業活動を行い、競業避止義務に違反した、③Y社を退職して同業他社に就職した場合にY社の顧客に営業活動を行わない旨競業避止義務を負っていたにもかかわらず、Y社を退職した後に就職した同業他社においてY社の顧客に対する営業活動を行って、競業避止義務に違反した、④Y社を退職して同業他社に就職した後に秘密保持義務に違反したという義務違反があり、これにより、Y社の顧客の一部が保険契約を更新せず、Y社は契約の更新がされていれば得られたはずの代理店手数料を得ることができず、損害を被ったと主張し、Y社に対し、債務不履行に基づく損害賠償請求としてY社に生じた損害の一部である179万9386円+遅延損害金の支払を求めている事案である。

原判決は、Xについて、上記③の競業避止義務が認められると判断し、Y社の請求のうち141万2059円+遅延損害金の支払を認める限度で認容し、その余の請求を棄却した。

Xは、上記認容部分を不服として控訴した。

【裁判所の判断】

原判決中、X敗訴部分を取り消す。

前項の部分につき、Y社の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 本件競業避止特約によって課されるような退職後の競業避止義務は、労働者の営業の自由を制限するものである。このような退職後の競業避止義務については、労働者と使用者との間の合意が成立していたとしても、その合意どおりの義務を労働者が負うと直ちに認めることはできず、労働者の利益の程度、競業避止義務が課される期間、労働者への代償措置の有無等の事情を考慮し、競業避止義務に関する合意が公序良俗に反して無効であると解される場合や、合意の内容を制限的に解釈して初めて有効と解される場合があるというべきである。

2 ・・・本件競業避止特約は、その文言によれば、XがX既存顧客に対しても営業活動を行わない義務を課す内容であり、Xがこのとおりの義務を負うとすれば、Xが受ける不利益は極めて大きいものである。

3 XがY社に在職中に受領した賃金や報酬が、Xが退職後に競業避止義務を負うことの実質的な代償措置であると認めることもできない

4 こうした事情の下では、本件競業避止特約により、Xが、Y社退職後に、X既存顧客を含む全てのY社の顧客に対して営業活動を行うことを禁止されたと解することは、公序良俗に反するものであって認められない。そして、本件競業避止特約の内容を限定的に解釈することにより、その限度では公序良俗に反しないものとして有効となると解する余地があるとしても、少なくとも、XがX既存顧客に対して行う営業活動であって、XからX既存顧客に連絡を取って勧誘をしたとは認められないものについては、本件競業避止特約に基づく競業避止義務の対象に含まれないと解するのが相当である。

このように競業避止義務については、かなり限定的に解釈されることは理解しておきましょう。

従業員に独立、転職されること、それに伴い顧客が一定数減少することは、もはや雇用契約に内在するリスクと捉えるほうが現実的だと思います。

競業避止義務の考え方については顧問弁護士に相談をし、現実的な対策を講じる必要があります。

競業避止義務27 在職中の競業避止義務違反と即時解雇(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、競業避止義務違反が疑われる従業員に対する即時解雇に関する裁判例を見てみましょう。

東京現代事件(東京地裁平成31年3月8日・労判1237号100頁)

【事案の概要】

本件は、コンピューターのソフトウェア及びハードウェア製品の製造、販売、輸出入、プログラマーやシステムエンジニアの派遣業務等を行う株式会社であるY社の従業員であったXが、平成29年6月29日に業績不良を理由として即時解雇されたことについて、解雇事由が存在せず、解雇権の濫用として無効であるとして、Y社に対し、労働契約に基づく地位の確認、解雇通知日である平成29年6月29日から解雇予告期間である30日の経過後である同年7月29日までの賃金28万6352円、不法行為に基づく損害賠償等として合計632万9612円(内訳:慰謝料及び逸失利益として合計575万4193円,弁護士費用57万5419円)の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、28万6352円+遅延損害金を支払え。

Xのその余の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 本件解雇が有効であるとしても、本件解雇は、解雇予告期間をおかず、また解雇時に解雇予告手当の支払をしないままであり、労働基準法20条に違反しているが、Y社が即時解雇に固執する趣旨でない限り、通知後に労働基準法20条所定の30日間の期間を経過するか、又は通知後に解雇予告手当の支払をした時のいずれの時から解雇の効力を生じると解される。本件では、Y社に即時解雇への固執はうかがわれないが、本件解雇後に解雇予告手当を支払っていないから、本件解雇通知後30日経過した時点で解雇の効力が発生することになる。

2 Xは、Y社に在職中、その勤務時間を含め、同業者であるa社の取締役又は業務委託の受託者として、a社の業務に従事し、しかも、Y社の親会社の会長が来訪する際にはa社の話を控えるなどして、a社としての活動を秘していたことが認められる。そして、Xがa社の業務に従事することにつき、当時のY社の代表取締役であるBは、a社の代表取締役でもあったことから、知っていたとはいえるが、それをもって被告がXの副業を許可していたとは認めがたい。したがって、Xは、会社の許可なくして他の会社の役員となり、また、Xの労働の報酬として金銭を受け取っており、就業規則第2章2条24号に反しているといえる。また、Xがa社の業務に関してY社のパソコンやメールアドレスを使用していたことが認められるところ、Xはa社の業務をY社の設備・備品を使用して行っていたから、これは、就業規則第2章2条6号に反するといえる。

3 Y社は、本件解雇時には、Xがa社の取締役だったことや同社の業務に関し報酬を受け取っていたことを知らなかったところ、本訴訟になって、兼業禁止に反したことを解雇事由として主張しているが、兼業禁止に反した事実それ自体は、本件解雇時に存在したものであって、解雇権濫用の評価障害事実として主張することは可能である。また、Y社が、本訴訟以前の労働審判において明らかにした解雇事由は整理解雇であるが、その主張は要するにY社の営業上赤字が続いたことにより、営業実績に比して給料が高額である営業部の廃止をしたとするものであるところ、このように営業実績が上がらない原因の一つには、唯一の営業部員であるXがa社の業務を行い、Y社の業務に専念していないことが影響していることは否定できない。そうすると、本件解雇時に、Y社が、兼業禁止違反の事実について認識していなかったとしても、その後の訴訟において、同事実を主張することは許されてしかるべきである。

4 Xは、弁論終結後に提出した書面において、服務規律違反である兼業禁止は就業規則上解雇事由と定められていないから、兼業禁止を理由に解雇することは認められないと主張する。しかしながら、Y社の就業規則の定めからは就業規則上に規定された解雇事由が限定列挙の趣旨であると解することはできず、例示列挙にすぎないと認められるから、Xの主張は採用しない

5 以上によれば、本件解雇は、Xに就業規則第2章2条6号及び24号に定められた兼業禁止違反に該当する事実が認められ、解雇の客観的合理的な理由があり、しかも、兼業の内容が就業時間に競業他社の業務を行うだけでなく、Y社の業務で知り得た情報を利用するというY社への背信的行為であるという内容に照らせば、本件解雇は社会通念上も相当なものである。

上記判例のポイント1は、基本知識ですのでしっかり押さえておきましょう。

本件のように、在籍中の競業避止義務違反の事案は、退職後のそれと比べて、違法と判断されることが可能性が格段に高いので注意しましょう(当たり前ですが)。

従業員の競業避止義務違反に対する対応については事前にしっかり顧問弁護士に相談をしましょう。

競業避止義務26 在職中の競業行為等が違法と判断される場合とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、在職中の競業行為等が自由競争の範囲を逸脱し違法とされた事案を見てみましょう。

Z社事件(名古屋地裁令和3年1月14日・労経速2443号15頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、Y社の幹部従業員であったXが在職中に別会社を設立し、平成31年2月1日には主要な取引先3社をしてY社との契約関係を終了させると同時に部下従業員とともに一斉にY社に退職届を提出した上で、当該別会社で競業行為に及んだことは労働契約上の誠実義務違反という債務不履行又は不法行為に該当すると主張して、Xに対し、損害賠償として、当該取引先3社との取引から得られたはずの逸失利益9億円+遅延損害金の支払を求めた事案であり、本判決は、その請求の原因に理由があるか否かについて判断を示すものである。

【裁判所の判断】

本訴の請求の原因は理由がある。

【判例のポイント】

1 Xは、Y社の従業員であって名古屋支店長であったところ、本件暴行事件を直接の契機としてY社に対して不満を抱くようになり、平成30年12月10日、Y社からの独立を企図して、Y社の従業員でありながらY社とその目的が重複するQ2社を設立してその代表取締役に就任し、競業行為の準備を行う一方、Y社の取引先に対してY社が刑事告発を受けている旨を伝え、特にY社に大きな利益をもたらしてきた提携先3社に対し、自らが設立して代表取締役に就任しているQ2社との間で日本における取引を継続させることを前提として、平成31年2月1日のほぼ同一時刻をもって一斉にY社との契約を解除するよう働きかけてこれを成功させ、名古屋支店の部下全員に当たるP4及びP5に対し、Q2社との間で労働契約を締結することを前提として、同日のほぼ同一時刻に同月15日をもって退職する旨の退職届を一斉に提出するように働きかけてこれも成功させたばかりか、名古屋支店のサーバーや貸与パソコンに記録されていたY社の取引関係に関わる情報を削除して復旧不可能に初期化し、顧客名刺を持ち去るなどして名古屋支店の機能を喪失させたものであり、Y社退職後には、Q2社代表取締役として、ただちにP4及びP5を雇用したばかりか、Y社から奪取した取引先である提携先3社との取引を開始し、Y社在職中にY社従業員として提携先3社に依頼した見積もりの回答を、提出期限である同月28日までに第2補給処に対して提出したものと認められる。

2 Xは、Y社との間で労働契約を締結していたのであるから、当該労働契約に付随する信義則上の義務として、その存続中において使用者であるY社の利益に著しく反する行為を差し控える義務を負っていたものであるところ、上記事実のうちY社退職前の行為は、Xが代表取締役を務めるQ2社による競業行為及びその準備行為にほかならず、Y社の利益に著しく反するものであって、Y社の就業規則3条、4条1項1号、3号、5号、6号及び8号並びに39条に違反することが明らかである。
また、Y社からの退職前後を通じたXの上記行為は、Y社における地位を利用して、取引上の信義に反する大洋でY社の事業活動を積極的に妨害したものというほかなく、これを正当化すべき理由が見当たらない以上、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な行為であって、不法行為を構成するものというべきである。

退職のきっかけはさておき、その後の態様は、法律上許容される範囲を大きく逸脱していると評価されてもしかたないものと思われます。

問題は、この先の損害論ですね。裁判所は損害額については謙抑的に判断する傾向にありますので注意が必要です。

原告、被告ともに顧問弁護士に相談の上、日頃から適切に労務管理をすることが求められます。

競業避止義務25 退職後の競業避止に関する誓約書の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 

66日目の栗坊トマト。見えます?実がついているの!

今日は、退職後の一定期間における競業事業者への就職等の禁止を定める誓約書の効力を一部無効とした裁判例を見てみましょう。

アクトプラス事件(東京地裁平成31年3月25日・労経速2388号19頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が雇用していたX1及びX2がY社の就業規則の規定又はY社とX2が取り交わした誓約書における約定に反して、A社の業務執行社員に就任するとともに、Y社の登録派遣社員を引き抜き、Y社の顧客に派遣して顧客を奪ったなどと主張して、X1及びX2に対し、債務不履行、不法行為及び会社法597条に基づき、A社に対し、X1及びX2との共同不法行為に基づき、連帯して、逸失利益1385万7186円及び弁護士費用相当損害金138万5719円の合計1524万2905円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件誓約書6条は、X2に対し、Y社退職後1年間、事前の許可なく、一都三県においてY社と競業関係にある事業者に就職等をすることを禁止しているところ、かかる制限はX2の職業選択の自由を制限するものである上、Y社との間で有期労働契約を締結し、主として登録派遣社員の募集や管理等を行っていたにすぎないX2について、制限の期間や範囲は限定的であるものの、Y社の秘密情報の開示・漏洩・利用の禁止や、従業員の引き抜き行為等の禁止をする以上の制限を課すべき具体的必要性が明らかでなく、かかる制限に対する特段の代償措置も設けられていないことなどを考慮すると、本件誓約書6条は公序良俗に反し無効である。

2 派遣社員募集にWeChatを利用することは、Y社独自のノウハウということはできない上、A1グループやA2グループに登録されたメンバーの情報についても、その全てがY社の業務上形成されたものとはいえず、Y社入社前から上記情報を形成してきたX2との間で上記情報に関する権利関係も明確でない以上、X1及びX2がA社において上記情報を利用することが直ちに違法になると解することはできない
また、X2は、Y社退職の際、後任者であるDに対してA1に対する人材派遣についての引継ぎを行っており、A1から発注があれば、Dにおいて派遣社員の募集をすることが可能であったものの、Y社はX2退職後、A1から発注を断られたことが認められるところ、X2がA1のY社への発注を妨げたと認めるに足りる証拠はない。むしろ、A1からY社への発注がなくなったのは、FのY社顧問退任とA社顧問就任による影響や、A1とX1及びX2の信頼関係によるものと推認することができ、X1及びX2がY社退任後にA社においてA1グループやA社グループを利用して人材募集をしたことが理由でA1からY社への発注がなくなったと認めることもできない。
なお、Y社のA2からの人材派遣の受注がX1及びX2のA社への入社後に減少したと認めるに足りる証拠はなく、むしろ増加しているものとうかがえる。
以上によれば、X1及びX2が違法に本件引き抜き行為等を行ったことを前提とするY社のX1及びX2に対する損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

いつもながら競業避止義務や引抜き行為に関する事案は、原告側に厳しい判断が多いですね。

上記判例のポイント1のような考慮要素は理解しておく必要があります。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。

競業避止義務24 競業・引抜き行為に基づく損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

58日目の栗坊トマト。さほど変化は見られませんが、もう少しで実がなりそうです!

今日は、競業及び引抜き行為等に基づく損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

ムーセン事件(東京地裁平成31年3月25日・労判ジャーナル90号50頁)

【事案の概要】

本件は、A社が雇用していたX1及びX2がA社の就業規則の規定又はA社とX1が取り交わした誓約書における約定に反して、Y社の業務執行社員に就任するとともに、A社の登録派遣社員を引き抜き、A社の顧客に派遣して顧客を奪ったなどと主張して、X1及びX2に対し、債務不履行、不法行為及び会社法597条に基づき、Y社に対し、X1及びX2との共同不法行為に基づき、連帯して、逸失利益約1386万円等の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件就業規則及び本件誓約書の効力について、本件就業規則は周知等がされておらず、X1及びX2に対して効力が及ばず、また、X1の本件誓約書については、本件誓約書6条は、X1に対し、A社退職後1年間、事前の許可なく、一都三県においてA社と競業関係にある事業者に就職等をすることを禁止しているところ、かかる制限はX1の職業選択の自由を制限するものである上、A社との間で有期労働契約を締結し、主として登録派遣社員の募集や管理等を行っていたにすぎないX1について、制限の期間や範囲は限定的であるものの、A社の秘密情報の開示・漏洩・利用の禁止や、従業員の引き抜き行為等の禁止をする以上の制限を課すべき具体的必要性が明らかでなく、かかる制限に対する特段の代償措置も設けられていないことなどを考慮すると、本件誓約書6条は公序良俗に反し無効であるから、X1及びX2に対しては本件就業規則の効力が及ばず、X1に対しては本件誓約書のうち6条1号の効力が及ばないから、これらの効力が及ぶことを前提とするA社のX1及びX2に対する損害賠償請求は、理由がない。

2 X1は、A社退職の際、後任者であるEに対してK社に対する人材派遣についての引継ぎを行っており、K社から発注があれば、Eにおいて派遣社員の募集をすることが可能であったものの、A社はX1退職後、K社から発注を断られたことが認められるところ、X1がK社のA社への発注を妨げたと認めるに足りる証拠はなく、むしろ、K社からA社への発注がなくなったのは、FのA社顧問退任とD社顧問就任による影響や、K社とX1の信頼関係によるものと推認することができ、X1及びX2がA社退職後にY社においてK社グループやY社グループを利用して人材募集をしたことが理由でK社からA社への発注がなくなったと認めることもできないこと等から、X1及びX2が違法に本件引き抜き行為等を行ったことを前提とするA社のX1及びX2に対する損害賠償請求は、理由がない。

競業避止に関する裁判例の多くは、原告会社側に厳しい判断がされています。

また、仮に責任が認められても、認容される金額は、請求金額から大幅に減額されることがよくあります。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。