1 「控訴人Aと被控訴人Bとの間には、血縁上の父子関係がないにもかかわらず、控訴人Aは、被控訴人Cとの婚姻に伴い、同人の子であった被控訴人Bの父として養育する意思で認知をしたということができる。
上記のような認知(不実認知)の無効を認知者自身が主張することができるかについては、認知者自身による認知の取消しを否定する民法785条との関係で、これを消極に解する見解もあり得るところである。
しかしながら、認知が、血縁上の父子関係の存在を確認し、その父子関係を法律上の実親子関係にするための制度であり、同法786条が、子その他の利害関係人が、認知に対して反対の事実を主張すること(不実認知の無効確認を求めること)ができる旨規定することからすれば、認知者自身も不実認知の無効を主張することができると解するのが相当である。
そして、このことは、上記認知が母との婚姻に伴って子を養育する意思でなされたものであり、認知者と母との法律上の婚姻関係が継続しているといった事情があっても同様である(ただし、このような事情が、認知者が被認知者の母である妻に対して負担するべき婚姻費用の金額の算定において、民法760条の「その他一切の事情」として考慮されるかどうかは別の問題であり、認知者が認知の際に自分の子として養育する意思を有していた以上、婚姻費用の増額事由として考慮されるべきであると解される。)。
したがって、控訴人Aは、被控訴人Bに対し、認知の無効確認請求をすることができる。」
2 関連条文
民法785条 認知をした父又は母は、その認知を取り消すことができない。
民法786条 子その他の利害関係人は、認知に対して反対の事実を主張することができる。