1 「被控訴人(夫)の退職手当につき判決時点で定年時の退職手当受給額を積極財産として財産分与の対象とすることはできないというべきであるが、現時点で自己都合により退職したものとして計算した上で婚姻期間に対応する額の範囲を財産分与の対象とすべきであり、本件の諸般の事情並びに扶養的要素を考慮して財産分与額を950万円と定め、その支払時期は、退職手当は退職時に支給されるものであるから被控訴人が将来退職手当を受給したときとするのが相当である。」
2 裁判例の傾向としては、近い将来に退職金を受領できる蓋然性が高い場合には財産分与の対象とする。
ただし、「近い将来」というのが何年先の退職なのかについては明確ではない。
3 また、将来の退職金額をどのように算定し、いつこれを他方配偶者に支払うか(支払時期)についても、裁判例によって異なる。
大きく以下の3つの考え方がある。
①別居時(又は離婚時若しくは口頭弁論終結時)に自己都合退職したと仮定して、その場合の退職金相当額から婚姻前の労働分を差し引いた額が財産分与の対象となるという考え方。
支払時期は退職時。
②定年退職時に受給する予定の退職金から、婚姻前労働分と別居後労働分を差し引き、中間利息を控除して口頭弁論終結時の額を算定する考え方。
支払時期は、離婚時。
③定年退職時の退職金から、婚姻前労働分と別居後労働分を差し引くが、財産分与金の支払時期を退職時として中間利息を控除しない考え方。
4 本件事案は、将来の退職金を財産分与の対象とした上で、上記③の見解を採用している。