1 「婚姻予約と内縁とは区別して考えるべきであり、婚姻予約をし、同居(同棲)していたからといって、内縁が常に成立するわけではない。
確かに、大審院は、いわゆる内縁を「将来ニ於テ適法ナル婚姻ヲ為スベキコトヲ目的トスル契約」すなわち婚姻の予約であるとしていたが(最高裁昭和33年4月11日判決の判示参照)、現代においては、内縁(事実婚)とは、婚姻の社会的実体、すなわち、当事者間に社会観念上夫婦共同生活と認められるような関係を成立させようとする合意(主観的要件)があり、社会観念上夫婦共同生活と認められるような共同生活の事実(客観的要件)はあるが、婚姻届の出されていない男女関係を指すというべきである。
そうすると、本件においては、控訴人及び被控訴人が婚姻届を提出しなかった又はできなかった理由は特段うかがわれず、社会観念上夫婦共同生活と認められるような関係を成立させようとする合意があったものとは認め難い。
ただし、同居期間が9年以上に及んでいること等に鑑み、当事者双方とも「内縁関係」にあった旨主張しているものと解されるから、以下では、控訴人と被控訴人は、「内縁関係」にあったものとして論ずることとするが、その実態は、上記のようなものであったことは考えておく必要がある。」
2 「内縁関係の一方当事者が内縁関係を解消した場合、当該当事者が、内縁関係の相手方に対する関係で不法行為責任を負い、慰謝料の支払を要するのは、内縁関係を解消した動機、方法等が社会通念上不当な場合に限られると解すべきである。
そうすると、上記のとおり、控訴人と被控訴人の間で、社会観念上夫婦共同生活と認められるような関係を成立させようとする合意があったものとは認め難いこと、平成20年頃、控訴人が被控訴人の不貞を疑い、自殺未遂の事件を起こし、救急車で搬送されるなど、控訴人と被控訴人の関係は必ずしも円満ではなかったこと、控訴人は、被控訴人の生活態度に不満を抱いて、同人に対し、「一度も一人暮らしをしたことがないから、一度苦労を味わってみろ。」などと述べたことがあり、この控訴人の発言が切っ掛けとなって、被控訴人が、本件マンションから出て、控訴人と別居したこと、別居開始後、控訴人と被控訴人は、メールで連絡を取り合い、一緒に飲みに行ったり、相手の家を訪れるなど、一定の関係を続けていたものの、控訴人は、平成25年2月25日、被控訴人に対し、「もう、俺が誰と付き合おうとも関係ないだろ?」というメールを送り、被控訴人との内縁関係を否定する趣旨の言動をしていたことが認められる。
これらに加えて、控訴人と被控訴人の別居期間は、平成23年9月頃から被控訴人が内縁関係を完全に解消した平成25年10月21日まで約2年間と長期間に及んでいるところ、その間、両者が再び同居するなどの将来に向けた話合いが行われた形跡が見受けられないことに鑑みれば、控訴人と被控訴人の内縁関係は、両者が別居を開始した平成23年9月頃には、実質的に解消されていたというべきであり、被控訴人が平成25年10月21日に控訴人に対し「あんたなんか好きじゃない。」などと述べて同人との関係を絶ち、内縁関係の終了を伝えた行為は、その動機、方法等が社会通念上不当なものであったとは認められないから、不法行為を構成しないというべきである。」