1 原審判は、給与月額50万円とする給与支払明細書・源泉徴収票は、相手方(夫)が婚姻費用の高額化を免れるために作出した外観、あるいは恣意的減額にすぎないと判断し、従前の年収である1080万円(月額90万円)を相手方の総収入として認定して、相手方の婚姻費用分担月額を17万円と定めた。
これを不服とする相手方が抗告し、直近の年収である600万円を総収入として婚姻費用分担額を定めるべきであると主張した。
2 抗告審は、以下のとおり判断し、原審の判断を維持した。
「抗告人の提出する平成23年11月の株主総会議事録にも取締役会議事録にも、代表取締役である抗告人の給与減額が審議された形跡がないこと、この他に給与減額を決議した旨の記載がある株主総会議事録や取締役会議事録はないことに加え、抗告人の取締役報酬の改定幅は、月額90万円を月額50万円にするという大幅なものであるにもかかわらず、抗告人は、会社の経営状況がこのような大幅な減額が必要になったものであることを認めるに足りる計算書類を提出しないのみならず、かえって平成22年頃には何社かの大手企業と取引ができるようになっていたこと等、経営の悪化と矛盾する主張をしていることを考慮すると、抗告人の代表取締役としての報酬は、減額されていないか、仮に減額されていたとしても、婚姻費用分担額を低額にするために恣意的に役員報酬を減額したと認められるのであって、相手方との衡平から減額を相手方に対して主張することはできないというべきである。
したがって、抗告人に対し、婚姻費用分担金として月額17万円を相手方に支払うよう命じることが相当である。」
3 参考事例
①宝石販売業者であった義務者について、確定申告での課税所得金額がゼロとされていたものの、事業資金の返済、食費、家賃、個人年金、医療費、タバコ代等の支出状況に鑑み、支出同額程度の収入があったものと認定した例(神戸家裁明石支審平成19年11月2日)
➁代表取締役であった義務者が役員報酬の減額を主張したが、義務者が経営者として自らの報酬額を決定できる立場にあったこと、減額の時期が調停の後であること等に照らして、減額前の収入を基礎として婚姻費用を算定した例(大阪高決平成19年3月30日)
③父親の経営する会社の取締役である義務者が報酬の減額を主張したが、現実に支出している住宅ローンや教育費から減収の不自然性を指摘し、減収前の収入を採用することも相当とした例(大阪高決平成21年11月13日)
④義務者が自営業者で、確定申告では事業収入1317万円、事業所得342万余円とされているが、平成9年から18年に事業所得を大幅に上回る婚姻費用及び住宅ローンの支払をしていることから、確定申告の正確性に疑問があるとし、賃金センサスを用いて義務者の年収を推計した例(大阪高決平成20年10月22日)