【佐賀地判平成23年1月20日】役員退職金不支給決議と支配株主の責任

1 「本件会社の取締役に対する退職慰労金は,在職中における職務執行の対価として支給される趣旨を含むものと解されるから,会社法361条1項(整備法1条による廃止前の有限会社法32条が準用していた整備法64条による一部改正前の商法269条1項と同旨)にいう報酬等に当たることは明らかである。

そうすると,その算定基準等を定めた内規が存在する場合であっても,取締役は退任によって当然に退職慰労金請求権を取得することはなく,株主の利益の保護を図った同条の趣旨に鑑みて,株主総会決議による個別の判断を経て初めて,退任取締役は会社に対する具体的な請求権を取得するに至るものと解するのが相当である。

そして,この理は,たとえ取締役任用契約において退職慰労金付与の特約などが定められた場合であっても同様と解すべきであるから,そのような特約は,事情の如何にかかわらず退任時に退職慰労金を必ず支払う旨を合意しても,当該合意が退任時の株主の利益を害する危険が全くないことが予め明らかであるなど,上記法の趣旨が没却されない特段の事情が認められる場合でない限り,会社に対する具体的請求権を生じさせるものとしては効力を有し得ないと解するのが相当である。

本件でこれをみると,上記認定のとおり,被告太郎は原告らが取締役に就任する際,本件内規のとおりに退職慰労金を支払うと述べたとは認められるものの,本件全証拠に照らしても,取締役を解任された場合や退職慰労金の不支給決議がなされた場合であっても必ずこれを支払うという趣旨であったと認めることはできないし,仮にそのような趣旨を含むものであったとしても,被告太郎は当時から株主の一部でしかなく,残り及び将来の株主の利益保護を無視してそのような合意することは許されない立場にあったことからすれば,当該合意が有効であると認めることはできない。」

2 「しかしながら,上記認定事実によれば,実績等による上乗せをせず,一律に在任期間のみを算定の基礎として退職慰労金を支払う旨の本件内規が存在し,本件会社の取締役となった原告らは本件内規に基づく退職慰労金が支払われることを任用契約時に当時の支配的な株主である被告太郎から告げられ,現に被告太郎は原告らを除く取締役に対しては株主総会(社員総会)において支給決議に賛成して支給決議を成立させ,本件内規のとおり退職慰労金が支給されてきたというのであるから,少なくとも,過半数を超える支配的な株主(出資者)として支給決議を実質的に決定することができる立場にあった被告太郎が,みずから内規のとおり退職慰労金を支給する旨を説明したにもかかわらず,故意又は過失によって,過半数を超える支配的な立場を利用して,支給決議に賛成しないことが相当といえる特段の事情が認められないのに不支給決議を主導した場合には,会社に対する具体的な退職慰労金請求権を取得し得る原告らの法的保護に値する権利又は利益を侵害したものとして,原告らに対して不法行為責任を負うものと解すべきである

これを本件についてみると,上記認定事実によれば,被告太郎は,本件会社の過半数を超える出資者であった当時,原告らを本件会社の取締役に任用するにあたって,本件内規のとおり退職慰労金を支払う旨を述べたというのであるから,当該説明は,原告らに対して具体的な退職慰労金請求権を直接的に生じさせるものとはいえないまでも,被告太郎が特段の事情がない限り原告らに対する退職慰労金の支給決議に賛成することを含んだ明確な支給約束として有効であるというべきところ,被告太郎は,この約束に反して,後に述べるとおり事実とは認め難い不適切な行為があったなどと主張して,退職慰労金請求権の成立をことさらに妨害したというのであるから,本件内規が本件会社内で成立するに至った上記経緯に照らしても,そのような被告太郎の行為は社会通念上是認されるものではなく,不法行為となるものと認められるし,また,上記認定事実によれば,被告太郎は,原告らに対する不支給決議が成立した時点においても,本件会社の過半数を超える株主であったというのであるから,被告太郎による行為と本件不支給決議成立との間には相当因果関係が優に認められる。

そこで,さらにすすんで,本件不支給決議に賛成した被告太郎の故意又は過失と,同決議に賛成しても違法とはいえない特段の事情が認められるか否かにつき検討するところ,上記認定事実によれば,被告太郎は,原告甲野が不当に本件会社に土地を転売しようとし,又は,私的な事業に本件会社の従業員を従事させているなどと主張し,原告乙山についても同様に不正な会計を行ったなどの主張を繰り返して,ことさらに本件不支給決議に賛成したというのであり,弁論の全趣旨によれば,これらが事実でないことは容易に判明し得たと認められることからすれば,被告太郎には,これらの事実関係についての正確な調査把握をせずに不支給決議をした点に故意もしくは少なくとも重大な過失があったと認められるというべきであり,被告太郎が上記支給約束に反して不支給決議をしても違法といえない特段の事情も認められない。」

3 「本件会社の取締役に対する退職慰労金は,支給決議があった場合には本件内規によって計算した金額が支払われてきたというのであるから,被告らの共同不法行為がなければ,少なくとも解任時までを基準として本件内規のとおり支払う旨の支給決議がなされていたものと認めるのが相当であるし,被告らが主導した不支給決議が可決されたことによって,原告らは,本件会社に対する財産上の利益を侵害されたと認められる。

そして,本件内規が,個々の役員の在任中の功績に応じた裁量的な功労加算金分を定めることなく一律に在任期間に応じて慰労金額を定めていることなどからすれば,株主である被告らが原告甲野に対して不審の念を抱き得る事情として認められる上記全事情を最大限考慮しても,ひとたび支給決議がなされたならば,本件内規にしたがったとおりの退職慰労金が原告らに対して支払われる旨決議されたものと推認するのが相当である。

そうすると,被告らの共同不法行為による原告らの損害は本件内規に基づく退職慰労金相当額全額というべきである。

よって,原告らは,本件内規に従った退職慰労金相当額の全額につき,損害を被ったものと認めるのが相当である。」


パーマリンク

コメントは停止中です。

弁護士法人栗田勇法律事務所 〒420-0858 静岡県静岡市葵区伝馬町9-10NTビル301 TEL 054-271-2231 アクセスページへ ご相談のお申込に関するQ&A お問い合わせはこちら
営業エリア

静岡市葵区・駿河区・清水区、焼津市、藤枝市、島田市、
吉田町、牧之原市、御前崎市、菊川市、掛川市、袋井市、
磐田市、浜松市中区・東区・西区・南区・北区、湖西市、
富士市、富士宮市、裾野市、沼津市、御殿場市、三島市、
熱海市、伊豆の国市