【大阪地判平成28年8月23日】会社法8条1項にいう「不正の目的」

1 「本件は,原告従業員がほぼ同時期に大量に退職して原告の事業継続が困難ならしめられ,他方で,原告を退職した従業員を受け入れた被告において原告の大口顧客であった取引先をも対象に事業を展開して原告と競業している事案であるということができる。

加えて,被告代表者が,原告の顧客に対して挨拶回りをしていること,被告代表者の退職により原告においての事業継続に支障が出ることが予め見込まれていたことからすると,上記のような競業状態は,被告として事業を開始するに当たり,被告代表者が予見していたものということもできる。

したがって,被告商号が,上記のような競業関係において原告と被告の関連性を誤認させて原告から被告への顧客奪取を容易にさせる目的で使用されているのなら,被告は,被告商号の使用について会社法8条1項にいう「不正の目的」があるということができる

しかし,被告代表者作成の引継メモからうかがえるように,原告と被告が競業する事業分野の顧客は,相当規模が大きい企業が多く,一般消費者を需要者とする場合のように商号の類似だけで顧客の獲得ができる関係にあるとは一般的に考えられにくい上,原告の既存顧客に対する関係では,被告代表者自身が挨拶した上(原告を退職し被告で事業をする経緯が説明されていると推認できる。),さらには原告自身が,既存顧客の一部に今後,業務引受けを出来ない旨を通知したことから,原告の既存顧客との関係では,原告と被告との間に関連性がないことが明らかにされており,したがって,被告商号の使用により原告の既存顧客が誤認混同して被告との契約締結に至ることは考えられず,そうであれば,そもそも被告が,顧客が原告と被告を誤認するとの効果を期待して被告商号を選択したものとはおよそ認められない(なお,上記(2)クのとおり,JFEメカニカル株式会社が原告に被告との関係を問い合わせた事実があるが,原告は同社に受注が出来ない旨を説明していたのであるから,これは原告と被告の関係を誤認したのではなく,被告が主張するように,同社が原告と被告との紛争に巻き込まれる可能性を危惧したにすぎないものと認められる。)。
 
また,原告の既存顧客でない新規の取引先との関係では,そもそも原告商号に周知性がないから,原告を知らない新規顧客との関係で,原告商号に類似する商号を積極的に選択する意味は見いだせないし,また新規取引開始時に,過去の決算書及び登記事項証明書を提出することで原告と無関係であることを明らかにする必要があるから,この関係でも,被告が,何らかの不正な利益を期待して被告商号を選択したものとも認められない

加えて発注企業は競争入札により取引先を決定することからすると,この分野の取引では,商号を原告商号に類似させることで被告に利益が得られるわけではないことも明らかであり,その観点でも,被告が,何らかの不正な利益を期待して被告商号を選択したものとも認められない。」

2 「確かに本件は,原告の元従業員が中心となって活動する被告の事業が,原告の顧客を奪うことで成立しているように見受けられる事案であり,また事業開始がそのことを見込んでされたようにも見受けられるが,原告の既存顧客が被告に奪われたとするなら,それはそもそも原告が当該工事を施工できない状態であった上,他方で被告代表者や被告従業員には原告在職時の施工実績による信用,少なくとも人的関係があったからと考えるのが自然であり,そこに原告商号と被告商号の類似性が貢献している様子は認められず,また被告代表者がそのことを期待して被告商号を選択したとも認められない

被告による被告商号の選択使用は,被告代表者が供述するように,原告創業者への尊敬の念に由来すると認めるのが相当であって,会社法8条1項にいう「不正の目的」があったとはおよそ認められない。」

3 「原告は,被告が原告従業員を大量に引き抜いたことにより,原告が従前の業務であるダイオキシン類対策工事の受注を停止せざるを得なくなったなどと主張し,この事情をも「不正の目的」を推認させる事情として主張するようであるが,「不正の目的」は,商号を使用することに関して認められる必要があり,原告のいう事情は,それ自体で不法行為を主張するのならともかく,商号使用についての「不正の目的」を推認する事情とは認められない。」


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