【大阪高判平成27年10月29日】MBOにおける取締役の会社に対する責任が認められた事例

1 「株式会社(とりわけ上場会社)においては,個性を喪失した多数の者が容易に営利企業すなわち投資の企てに参加できるようにするため,社員たる地位を株式という細分化した割合的単位の形式にしているため,多数の株主が日常的に集合して意思決定をすることは不可能であるばかりか,一般株主は企業経営の能力も意思も持たないのが通常である。

そのため,a社のような委員会設置会社(平成18年6月~平成21年6月当時。平成26年法律90号による改正前の会社法(以下「平成26年改正前会社法」という。)2条12号)にあっては,株主により選任された取締役からなる取締役会が株主に代わって基本事項の決定と指名,監査及び報酬各委員会の委員並びに執行役の選任等の監督機能を担い,業務の意思決定及び執行は経営の専門家である執行役に委ねる形態を採っている。

取締役は,委任者である会社に対し,善管注意義務を負っているところ,会社の営利企業たる性格に応じて,かかる義務は株主の利益最大化を図る義務に引き直され,かかる義務に違反する行為により会社に損害を生じさせた場合にはこれを賠償する責任を負う。

(なお,この点,一審原告は,株主の利益最大化を図る義務というところから,公開買付価格を可能な限り高くすることが取締役の義務であるかのように主張するが,ここでいう利益最大化とは会社の業績向上,損失回避等を通じて将来に向かって企業価値の最大化を図る義務のことをいうのであって,(プレミアムも含めた)株式の適正な現在価値を超えて株式の買付価格を吊り上げることまで要求するものではない。)」

2 「ところで,MBOは,買収者が対象会社の取締役だけである場合を例にとれば,本来企業価値の向上を通じて株主の利益を代表すべき取締役が,自ら対象会社の株主から株式を取得することになり,利益相反性を構造的に有している上,対象会社に関する正確かつ豊富な情報を有する株式買付者たる取締役と売却者たる株主との間には,大きな情報の非対称性が存在する

MBOの買収者側の構成には様々なものがあり,利益相反の程度にも差異はあり得るが,以上のような利益相反構造,情報の非対称性が存在することは共通しており,このような状況の下,対象会社の取締役が自己又は支配株主の利益のみを図り,株主の共同の利益を損なうような買収に加担した場合には,上記株主の利益最大化を図る義務に反し,ひいては善管注意義務に違反することになる

また,MBOにおいては,取締役等において,一般株主に対して公正な企業価値の移転を図る義務を負担しているものと解されるが,対象会社の株主は,当該時点におけるMBOの実施を前提としない株式価値を把握しているとともに,当該時点において株式を処分せずにその保有を続けている以上,MBOの実施による企業価値の増大についても正当な期待権を有しているものということができる

もっとも,MBOは,これによるリスクを取締役等が引き受けてその努力によって企業価値を増大させようとするものであるから,MBOによる企業価値の増大による利益の全てが株主に帰属するものと解するのは相当ではない。

そうすると,MBOを実施することを前提とした株式の公正な価格は,document imageMBOが行われなかったならば株主が享受しうる価値と,document imageMBOの実施によって増大が期待される価値のうち株主が享受してしかるべき部分とを合算して算定すべきことになる(最高裁判所第三小法廷平成21年5月29日決定(金融・商事判例1326号35頁)における田原裁判官の補足意見参照)。

しかし,上場株式の市場価格がdocument image及びdocument imageの価値を適切に反映している保証はなく,仮に市場価格がdocument imageの部分を評価する際の最も客観的で公正な指標たり得るとしても,document imageの部分を客観的に評価する方法が確立しているわけではない。

したがって,MBOを実施する際の株式価格の公正性は,株主に適切な判断機会を保証し,対象会社と買付者側の交渉において恣意性が入ることを排除し,公開買付けにおける買付者とされる者以外の者との競争の機会を保証し,できうる限り一般株主に対する強圧性を排除する措置を執る等の公正な手続を通じた株主の判断に委ねるほかないことになる。

なお,MBOによる場合以外の会社の組織再編についても,金融商品取引法等によっていずれも公正な手続が要請されてはいるが,MBOの場合における公正な手続による株主利益への配慮は,上記のような事情から通常の組織再編とは異なった特別な意味があるものと考えられる。

もっとも,取締役の義務は,株主との関係では,最終的には一般株主に対する公正な企業価値を移転することに尽きるから,企業価値の移転に係る公正な手続として想定される手続の一部が欠け,あるいは一部の手続に瑕疵があったとしても,最終的に公正な企業価値の移転がされていると認められれば,全体としては公正な手続が執られたと評価すべき場合はあろうし,仮に個々の行為に善管注意義務違反が認められたとしても,損害の発生がないことになり,損害賠償義務は発生しない

しかし,会社との関係を考えると,取締役が企業価値の移転について公正を害する行為を行えば,公開買付け,ひいてはMBO全体の公正に対する信頼を損なうことにより,会社は本来なら不要な出費を余儀なくされることは十分に考えられるから,取締役は,そのことによって会社が被った損害を賠償すべき義務を負うべきものと解される

このように,公開買付けあるいはMBOにおいて,企業(株式)価値の移転について取締役が負う公正性に関する義務は,会社に対する関係と株主に対する関係では異なる点があることに留意すべきである。」


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